個人事業主は登録支援機関になれるか

2019年に特定技能制度が開始されてから、特定技能外国人の在留数が増加しています。

そのため、1号特定技能外国人の支援をおこなう登録支援機関の数も増えていますが、登録支援機関になるには、出入国在留管理庁の登録を受けなくてはいけません。

ここでは、登録支援機関の開業を検討している方に向けて「個人事業主でも登録支援機関になれるのか」について、実際に登録支援機関として活動している行政書士が解説します。

登録支援機関とは

まずは、登録支援機関がどのような機関なのか、簡単に説明しましょう。

引用:出入国在留管理庁「リーフレット(登録支援機関向け)」

 

上の図を見ていただくとわかりやすいと思いますが、登録支援機関は受入れ機関から委託を受け、支援計画書に基づいて1号特定技能外国人の支援をおこなう機関です。

登録支援機関になるには、登録支援機関としての要件を満たし、出入国在留管理庁長官の登録を受けなくてはいけません。

登録を受けた機関は、登録支援機関登録簿に名称・所在地・対応言語等が記載されます。(出入国在留管理庁のホームページから見ることができます)

登録支援機関としての主な役割は、支援計画書に沿った外国人の支援です。

その他に、相談記録や定期面談報告など3カ月に1回の定期届出、支援内容や実施方法を変更したとき等の随時届出の手続きもおこなう必要があります。

個人事業主でも登録支援機関になれる?

さて、本題に入りましょう。

「個人事業主でも登録支援機関になれるか」でしたね。

登録支援機関になれる者については、入管法に規定があります。

契約により委託を受けて適合1号特定技能外国人支援計画の全部の実施の業務(以下、「支援業務」という。)を行う者は、出入国在留管理庁長官の登録を受けることができる。

入管法第19条の23 1項

この条文、一見すると「個人事業主でも登録支援機関になれるかどうか」については記載されていないように見えます。

しかし、実はちゃんと書かれているのです。

「契約により委託を受けて(中略)を行う者は」の、「者は」の部分に注目してください。

法律の条文で「者」というのは、「法人」と「自然人」の両方を指します。

「法人」というのは、株式会社などの組織・団体です。普通の人間と同じように権利の主体になれることが、法律上認められた存在です。

「自然人」というのは、法人ではない人、つまり個人(人間)です。

入管法に「(前略)行う者は、(中略)登録を受けることができる。」と書いてありますので、法人も個人も、どちらも登録支援機関として登録を受けることができる、ということになります。

 登録支援機関になるための要件とは

では、登録支援機関として登録を受けるための要件について説明しましょう。

    1. 支援責任者および1名以上の支援担当者を選任していること
    2. 以下のいずれかに該当すること
      1. 2年以内に、中長期在留者(就労資格に限る)の受入れ実績がある
      2. 2年以内に、報酬を得る目的で業として、外国人に関する各種相談業務に従事した経験を有する
      3. 選出された支援責任者および支援担当者が、過去5年以内に2年以上、中長期在留者(就労資格に限る)の生活相談業務に従事した経験を有する
      4. 上記の他、これらと同程度に支援業務を適正に実施できると認められている
    3. 外国人が十分理解できる言語で情報提供等の支援を実施できる体制を有しているこ
    4. 1年以内に責に帰すべき事由により特定技能外国人または技能実習生の行方不明者を発生させていないこと
    5. 支援の費用を直接または間接的に外国人に負担させないこと
    6. 5年以内に出入国または労働に関する法令に関し不正や著しく不当な行為をおこなっていないこと など

この中でポイントとなるのが、a〜dのいずれかに該当するかどうかです。

aに該当するのは人材派遣会社などが多いですが、個人事業主の場合は就労系の在留資格の外国人を雇用したことがある、またはこれから雇用することでこの要件を満たすことができるでしょう。

bに該当するのは、弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士などの士業者です。

個人事業主でも、例えば行政書士として外国人の相談業務に従事し、報酬を得た経験があれば該当します。

cに該当するもので多いのが、人材派遣会社や有料職業紹介会社で外国人の生活相談業務に従事している職員を支援責任者・支援担当者に選任するケースです。

人材派遣会社で生活相談業務に従事していた経験がある方が個人事業主として開業し、自身が支援責任者と支援担当者を兼任することで要件を満たすことができます。

dの場合、支援を適正に実施する体制があるといえる事業実績や事業の公益性の度合いなどから判断されます。

上場企業などが該当すると想定されるため、個人事業主では難しい要件だといえるでしょう。

外国人でも登録支援機関になれる?

では、上記の要件を満たせば外国人でも登録支援機関になれるのでしょうか?

答えは「なれる」です。

まず、外国人が日本で就労するには、就労系の在留資格を持っている必要があります。

ただし、就労系の在留資格は職種ごとに活動に制限があるため、その範囲を超えて働くことはできません。

就労系の在留資格で登録支援機関になれると想定されるのは、高度専門職1号ハ(経営管理ビザ)や経営・管理ビザを持つ外国人が、新たに登録支援機関を開業する場合。

もうひとつは、法律・会計業務ビザで開業している弁護士や司法書士などの士業の外国人が、専門分野の業務に従事しながら登録支援機関としても活動する場合です。

就労系以外の在留資格では、永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者などの身分系の在留資格を持つ外国人は日本での就労に制限がないため、登録支援機関になることができるでしょう。

登録支援機関として登録を受けるには

では、個人事業主の方が登録支援機関として登録を受ける方法を簡単に説明しましょう。

登録申請の方法

申請から登録までの流れは以下のとおりです。

  1. 申請書・添付書類の準備
    出入国在留管理庁のホームページから指定の様式をダウンロードし、必要事項を記入します。(申請に必要な書類についてはこのあとお伝えします)
  2. 書類・手数料を提出
    指定の用紙に手数料分の収入印紙を貼付し、申請書・添付書類とともに事務所の所在地を管轄する地方出入国在留管理局・支局の窓口に提出します。
    郵送で提出することもできます。
  3. 審査
    申請が受理されると、登録拒否事由に該当していないか審査されます。
    審査期間は約2カ月ですが、書類に不備があるとさらに時間がかかることもあります。
  4. 登録・審査結果の通知
    登録拒否事由に該当しないと認められた場合は登録支援機関登録簿に登載され、登録支援機関登録通知書が交付されます。
    登録拒否事由に該当すると認められた場合は、登録拒否通知書が交付されます。

申請に必要な書類

個人事業主の方が登録支援機関の登録申請をおこなう場合、必要な提出書類は以下のとおりです。

提出書類が多く大変な作業のように感じられますが、従業員を雇用していない場合は申請者について記入すればよいだけなので難しくはないでしょう。

  • 登録支援機関の登録(更新)申請に係る提出書類一覧・確認表
  • 手数料納付書
  • 登録支援機関登録申請書
  • 登録支援機関概要書
  • 登録支援機関誓約書
  • 支援責任者の就任承諾書および誓約書
  • 支援責任者の履歴書
  • 支援担当者の就任承諾書および誓約書
  • 支援担当者の履歴書
  • 支援委託手数料に係る説明書(予定費用)
  • 返信用封筒
  • 住民票の写し
  • 主たる事務所の住所に係る立証資料
  • 法施行規則第19条の21第3号ニに該当することの説明書
  • 法施行規則第19条の21第3号二に該当することの説明書に係る立証資料

最後の2つについては登録の要件でお伝えした、以下のいずれかに該当することの「要件d」に該当する場合に必要な書類です。

個人事業主の方ではおそらく該当しないため、提出する必要はないでしょう。

まとめ

登録支援機関として登録を受けるにはさまざまな要件がありますが、その要件さえ満たせれば個人事業主でも登録支援機関として開業することができます。

個人が登録の要件を満たせるかどうかのポイントは次の3つです。

  • 2年以内に就労系在留資格を持つ外国人を雇用したことがある。なければこれから雇用する
  • 2年以内に弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士などの士業者として外国人の相談業務に従事し、報酬を得たことがある
  • 人材派遣会社などに勤務していて、過去5年以内に2年以上、就労系在留資格を持つ外国人の生活相談業務に従事した経験がある

このいずれかに該当すれば、個人事業主でも登録支援機関として登録を受けることが可能です。

登録の申請は追加書類を求められることもあり、その場合は審査期間も長くなってしまうため、早めに申請することをおすすめします。

 

以上、ご参考になれば幸いです。

執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)

 

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