特定技能は、深刻化する人材不足を解消することを目的として、即戦力となる一定の技能を持った外国人材を受入れるための制度です。
生産性の向上や国内人材確保の取り組みをおこなってもなお、人材確保が難しい12の産業分野に限って制度の利用が認められています。
宿泊業は新型コロナウイルスの影響で人材不足が落ち着いてはいましたが、特定技能外国人を受入れできる産業分野に含まれています。
現在は、水際対策の緩和によって日本へ訪れる外国人旅行者数が回復してきたことで、再び人手不足になる可能性も出てきました。
ここでは、宿泊業の方から多くいただくご質問に、特定技能に特化した行政書士がわかりやすくお答えします。
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技能実習から特定技能宿泊への移行
Q:「宿泊」分野では、技能実習からの移行はできないと聞きましたが、本当ですか?
A:ご質問ありがとうございます。
とても鋭い質問ですね。本当だと思っていないということでしょうか。
ご推察の通り、答えは、嘘です。(本当ではありません)
技能実習「宿泊」から特定技能「宿泊」に移行することはできます。
ですが、できないと誤解している人も多いです。専門家の中にも(今でも)そう思っている人がいるくらいです。
これには理由があって、特定技能制度が創設された2019年時点では、技能実習2号移行対象職種には、まだ「宿泊」は入っていなかったからです。
制度の大前提として、技能実習から特定技能1号に移行するためには、「技能実習2号を良好に修了」している必要があります。
技能実習2号移行対象職種に入っていなければ、そもそも技能実習2号になれないので、当然、「技能実習2号を良好に修了」することはできませんよね。
なので、以前は、技能実習から特定技能「宿泊」分野に移行することはできませんでした。
その後、2020年2月25日にようやく宿泊は技能実習2号移行対象職種に追加されました。
これによって、現在では「宿泊」職種で技能実習2号を良好に修了した実習生は、特定技能「宿泊」分野に移行することが可能になりました。
でもちょっと待ってください。
「技能実習2号を修了」するためには、技能実習1号から数えて3年間かかります。
(技能実習1号:1年間。技能実習2号:2年間)
「宿泊」職種が、技能実習2号対象職種に追加されたのが2020年2月25日ですから、「宿泊」職種で技能実習2号修了者が出るのは、早くても3年後の2023年2月以降になります。
(2年後ではなく3年後です。2号対象職種になっていない職種で技能実習1号を受入れる雇用主はまずいないからです。)
この原稿を書いているのが、2023年4月なので、現在ではすでに修了者が出てるのでは?と思うかもしれませんが、「早くても」ですので、実際には「宿泊」職種での技能実習2号修了者はまだ多くなく、したがって、「宿泊」で技能実習から特定技能に移行している実例も多くありません。
コロナ禍による入国制限も緩和され、外国人観光客も増えつつありますから、今後は、技能実習「宿泊」から特定技能「宿泊」に移行する事例は、徐々に増えていくと思われます。
特定技能「宿泊」の対象となる宿泊施設とは
Q:どのような宿泊施設が、特定技能の受入れ対象になりますか?
A:一般的な旅館・ホテルであれば対象となりますが、どんな宿泊施設でもOKというわけではありません。
旅館業法の第2条第2項に規定された「旅館・ホテル営業」の営業許可を取得した宿泊施設が対象となります。
旅館業法で定義された旅館業は次の3種類に分けられますが、そのなかでも特定技能の受入対象となるのは①だけです。
①旅館・ホテル営業:駅前旅館・観光旅館・温泉旅館・割烹旅館・観光ホテル・ビジネスホテル・コンドミニアム・ウィークリーマンションなど
②簡易宿所営業:民宿・山小屋・スキー小屋・ユースホステル・カプセルホテルなど
③下宿営業:1ヵ月以上の期間を単位として、宿泊料を受けて宿泊させる営業
Q:旅館業の営業許可を取っていても、特定技能を受入れできない宿泊施設はありますか?
A:はい。お察しのとおり、旅館業で営業許可を受けていても、すべての宿泊施設が受入れ対象となるわけではありません。
先ほどお伝えした「旅館・ホテル営業」に当てはまらない民宿やカプセルホテル、下宿などの他に、「旅館・ホテル営業」の営業許可を取っていても、次のような施設は受入対象外となります。
風俗営業法の第2条第6項第4号に規定する「施設」に該当する場合、つまりラブホテルは受入れができません。
また、風営法の第2条第3項に規定する「接待」をおこなわせることも禁止されています。
特定技能「宿泊」で従事できる業務とは
Q:特定技能の宿泊業で受入れた外国人は、どのような仕事につくことができますか?
A:宿泊業では、フロント、企画・広報、接客、レストランサービスなど、ホテルや旅館の宿泊サービスの提供に係る幅広い業務に従事することができます。
宿泊サービスの幅広い業務というのは、具体的には次のようなものです。
フロント業務 | チェックイン・チェックアウト
コンシェルジュ業務 周辺の観光地情報案内 ホテル発着ツアーの手配など |
---|---|
企画・広報業務 | キャンペーン・宿泊プランの企画立案
パンフレットの作成 HP・SNS等による情報発信など |
接客業務 | ベルボーイ
中居 ホテル・旅館の施設案内 宿泊客からの問い合わせ対応など |
レストランサービス業務 | 案内・注文・配膳・下膳
料理の下ごしらえ・盛りつけなど |
特定技能外国人は、技能試験で認められた能力を使って幅広い業務に従事しなくてはいけません。
ですので、フロント業務、企画・広報業務、接客業務、レストランサービス業務のどれか一つということではなく、在留期間の中でまんべんなく従事する必要があります。
ただし、1年目はフロント業務を担当するなど、在留期間の中の一定期間であれば特定の業務だけおこなうことは問題ありません。
また、同じ職場の日本人が通常おこなっている関連業務であれば、付随的に従事することが可能です。
例えば、
- 旅館やホテルの中にあるお土産屋さんでの販売業務
- 施設内の備品の点検や交換業務
などの仕事が関連業務として認められています。
ただし、関連業務だけをおこなうこと、関連業務をメインにおこなうことはできません。
Q:「宿泊」で受入れた外国人を、ホテルのレストランだけで働かせることはできますか?
A:レストランだけ、というのは認められていません。
先ほど、宿泊分野ではレストランサービス業務にも従事できるとお伝えしましたが、特定技能では、その分野で求められる技能を使って幅広く業務にあたらなくてはいけません。
ですので、在留期間中ずっとレストランだけで働くことはできませんが、在留期間をとおして4つの業務を幅広くおこなうのであれば、一定期間、レストランサービス業務だけに従事することは可能です。
Q:客室清掃、ベッドメイキングは「宿泊」でできる業務ですか?
A:このご質問は、宿泊サービスの企業様から多くいただくご質問ですが、答えは「関連業務として付随的になら、宿泊分野で客室清掃やベッドメイキングもできる」です。
ホテルや旅館などの宿泊施設では、客室の清掃やベッドメイキングは欠かせない仕事ですが、先ほどご紹介した宿泊分野で従事できる仕事に含まれていなかったことで不思議に思った方もいるかもしれません。
宿泊施設の客室清掃やベッドメイキングは、特定技能ではビルクリーニング分野の「建築物内部の清掃」業務の範囲でもあります。
ビルクリーニング分野では、客室清掃は「主たる業務」に該当し、ベッドメイキングは「関連業務」に該当します。
一方で、宿泊分野では、客室清掃もベッドメイキングも、両方とも「関連業務」に該当します。
「関連業務」とは、それのみに従事させることは不可で、主たる業務をおこないつつ、付随的に従事することができる業務のことです。
つまり、宿泊分野では、主たる業務である「フロント業務、企画・広報業務、接客業務、レストランサービス業務」などをおこないつつ、付随的に「客室清掃やベッドメイキング」に従事するならOK、ということですね。
もっぱら客室清掃だけに従事させたい場合は、宿泊分野ではなく、ビルクリーニング分野で受入れることになります。
しかし、あくまで関連業務として付随的にであれば、宿泊分野の外国人が客室清掃やベッドメイキングをおこなっても問題はありません。
宿泊分野とビルクリーニング分野における、客室清掃とベッドメイキングを整理したのが以下の表です。
宿泊分野 | ビルクリーニング分野 | |
---|---|---|
客室清掃 | 関連業務
(主たる業務に付随的になら従事可能) |
主たる業務
(もっぱら従事可能) |
ベッドメイキング | 関連業務
(主たる業務に付随的になら従事可能) |
関連業務
(主たる業務に付随的になら従事可能) |
Q:「技人国」ビザでも旅館やホテルで働けると聞きました。特定技能とは何が違うのですか?
A:「技人国」つまり「技術・人文知識・国際業務」も就労ビザの一つですが、「特定技能」とは従事できる業務やビザを取得するための条件などが異なります。
「技術・人文知識・国際業務」を簡単に解説すると、
- 理学・工学・自然科学の技術や知識を必要とする業務
- 法律学・経済学・社会学・人文科学の技術や知識を必要とする業務
- 外国の文化を基盤とする思考や感受性を必要とする業務
これらの専門的な業務に従事するための在留資格です。
もう少しわかりやすくいうと、機械工学等の技術者、IT技術者、通訳、デザイナー、外国語学教師、マーケティングなど、専門的な技術や知識が必要な業務に従事するためのビザなので、単純労働は認められていないのが特徴です。
また、技人国ビザを取得するには、日本や外国の大学・短大、または日本の専修学で業務に関連する科目を専攻し卒業している、一定の期間の実務経験がある、などの要件を満たす必要もあります。
では、宿泊分野における「技人国」と「特定技能」の違いを比べてみましょう。
技術・人文知識・国際業務 | 特定技能 | |
---|---|---|
従事できる業務 | 外国語を用いたフロント業務
旅行会社との交渉にあたっての通訳 マーケティング 外国版ホームページ作成 宿泊プランの企画立案 施設内の多言語表示のための翻訳業務 レストランのコンセプトデザインや広報業務 |
フロント業務
企画・広報業務 接客業務 レストランサービス業務 |
ビザ取得の条件 |
または、
翻訳、通訳、 語学の指導、広報、宣伝または海外取引業務、服飾もしくは室内装飾にかかるデザイン、商品開発など、これらに類似する業務に就くこと |
または、
|
報酬 | 日本人と同等 | 日本人と同等 |
在留期間 | 3ヵ月、1年、3年、5年のいずれか | 特定技能1号は1年、6カ月又は4カ月ごとの更新、通算5年まで |
雇用形態 | 雇用、委任、委託、嘱託、派遣
※継続的な契約であること |
直接雇用 |
技人国でも特定技能でも、単純労働をさせてはいけないということは共通していますが、宿泊分野において技人国の外国人は、特定技能で認められている(通訳などではない)接客サービスやレストランサービスの業務をおこなうことはできません。
また、技人国は大学などで専攻した科目と従事する業務に関連がなくてはいけないので、従事できる業務が限られますが、特定技能は宿泊サービス業務を幅広く従事できて、さらには単純作業も付随的におこなうことができるのがメリットといえるでしょう。
ただし、特定技能1号の在留期間は通算5年までなのに対し、技人国は更新手続きの回数に制限がないため、専門的な知識を必要とする業務で長期的に雇用できるというメリットもあります。
また、特定技能1号では家族帯同ができませんが、技人国では家族帯同が可能です。
ですので、特定技能1号と技人国の要件を両方満たしている外国人であれば、技人国を希望する傾向が高いです。
※家族帯同とは、配偶者や子が「家族滞在」の在留資格で日本に在留することができることです。在留資格の種類によって、家族帯同が認められているものと認められていないものがあります。
Q:同じ会社で、技人国と特定技能を両方雇用することはできますか?
A:できます。ただしその場合は両者の担当職務に注意が必要です。
特定技能外国人と技人国外国人が同じ職務を担当していると、技人国のビザ更新の時に不許可になることがあります。
両者の担当職務を明確に区別することが大切です。
この点については、今後別のページで詳しく解説するかもしれません。
特定技能「宿泊」の要件とは
Q:宿泊分野で特定技能として働くにはどのような方法がありますか?
A:外国人が宿泊分野で特定技能の在留資格を取得する方法は、次の2つの方法があります。
①宿泊職種の技能実習2号を良好に修了する
②技能試験・日本語能力試験に合格する
①については、技能実習2号から特定技能1号へ移行する際に②の試験が免除されます。
ただし、冒頭でもご説明したとおり、宿泊職種が技能実習に追加されたのが2020年の2月ですから、現状では技能実習2号を修了した外国人は多くはありませんが、今後は増えてくるでしょう。
②の試験については、
技能試験:宿泊業技能測定試験
日本語能力試験:日本語能力試験N4以上、または国際交流基金日本語基礎テスト
この2つに合格、受入れ事業者と雇用契約を結ぶ、特定技能1号の在留資格の申請、という流れになります。
それぞれの試験は、日本国内でも国外でも実施しています。
試験の日程については、それぞれのホームページで確認してください。
技能試験:一般社団法人 宿泊業技能試験センター
日本語能力試験:日本語能力試験JLPT、JFT-Basic国際交流基金日本語基礎テスト
Q:事業者が特定技能を受入れるための条件はありますか?
A:はい、外国人を雇用する側にも、受入れるための基準があります。
どの分野にも共通していますが、
- 外国人と適切な雇用家契約を結ぶこと
- 受入機関が法令を遵守し、欠格事由に該当しないこと
- 分野別協議会の構成員となること
- 外国人を支援する体制があること
これらの基準を満たさなければいけません。
ちなみに、宿泊分野における協議会は「宿泊分野特定技能協議会」です。
特定技能 宿泊分野 受入れ上限人数(受入れ見込み数)
Q: 特定技能宿泊分野の受入れ上限人数を教えてください。
A:特定技能の各分野には、それぞれ受入れ上限人数(受入れ見込み数)が決められています。
これは、特定技能が創設された2019年から5年間での最大受入れ可能人数です。
5年間の間にこの人数に達した分野は、原則としてそれ以降の受入れができなくなります。
宿泊分野においては、最初に設定された受入れ上限人数は22,000人です。
Q:宿泊分野では、受入れ上限人数が引き下げられたと聞きました。現在の受入れ上限人数を教えてください。
A:ご指摘の通り、宿泊分野では、最初は受入れ上限人数は22,000人でしたが、新型コロナウイルスの影響による経済情勢の変化によって、2022年8月30日の閣議決定で、令和5年度末(令和6年3月末)までは、宿泊分野での受入れ上限人数は、11,200人に引き下げられました。
ですので、令和5年度末までの宿泊分野での受入れ上限人数は、11,200人です。
この人数が受け入れの上限となり、この人数に達した場合は、原則としてそれ以降の受入れはできなくなります。
ここで、現時点での宿泊分野の実際の受入れ人数を見てみましょう。
出入国在留管理庁が公表している、「特定技能在留外国人数」によると、令和4年12月末時点での宿泊分野全体での実際の受入れ人数は、206人です。
11,200人の受入れ上限人数に対して、206人ですから、まだ上限の約1.8%です。
まだまだ余裕があるように思いますね。
しかし、コロナ禍による入国制限が緩和されて外国人旅行者も増えつつありますし、落ち込んだインバウンドをさらに回復させるため、2025年までに外国人旅行者1人あたりの消費額を約25%アップするという目標を掲げた「観光立国推進基本計画」も閣議決定されました。
ですので、今後急激に宿泊分野の需要が増えることもあるかもしれません。
ご参考になれば幸いです。
回答者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)