すでに外国人を雇用している事業者が、当該外国人を特定技能として雇用する場合、それまでのビザから特定技能ビザに、ビザの変更申請をする必要があります。
この場合に問題となるのが、「ビザ変更の申請をした後、許可になるまでの間に、引き続き就労をさせていいのか?」という点です。
- うちは少人数でやっているので、1人でも働けなくなると事業が回らなくなる
- 特定技能ビザが許可になるまでの間も、仕事をしてもらいたい。
という事業者さんも多いのではないでしょうか。
ビザの審査には一定程度の時間がかかるので、審査期間中に就労ができないとなると、事業者にとっては死活問題となりかねません。
それでは、ビザ申請後から、特定技能1号が許可になるまでの審査期間中に、引き続き就労することはできるのでしょうか?
この記事では、審査期間中に就労ができる場合とできない場合について、特定技能ビザ申請の経験豊富な行政書士が、わかりやすく解説します。
Q:当社では、技能実習生を雇用しています。もうすぐ実習が終わるので、特定技能1号にビザの変更をして、引き続き当社で雇用したいと思っています。
ビザの変更申請をした後、特定技能ビザが許可になるまでの間、ひきつづき就労することはできるのでしょうか?(建設業D社)
A:ご相談ありがとうございます。
事業者としては、ビザの結果を待っている期間中も、就労させられる方がいいですよね。
D社さんは、技能実習生を雇用中で、実習修了後は特定技能1号に変更したいということですね。
技能実習には、「技能実習計画」というものがあり、「技能実習計画」の期間によって、いつまで就労することができるかが変わってきます。
この点について理解するために、まずは全てのビザ(在留資格)に共通するルールについて、簡単に説明します。
審査期間中も、就労ができるかどうかについては、2つのポイントがあります。
- 現在のビザの在留期限はいつか。
- 現在のビザの種類(在留資格)は何か。
この2つのポイントによって、審査期間中に就労できるかできないかが変わってきます。
目次
1.在留期限
まずは、1つ目の在留期限について、説明します。ビザの申請をするときには、必ず在留期限よりも前に申請をおこなってください。
在留期限とは
技能実習も含めて、ビザには在留期限(在留期間の満了日)があります。
在留期限は、在留カードの中央からやや下のところに、かっこ書きで書いてあります。
日本に在留する外国人は、この在留期限の日まで、日本に在留することができます。
在留期限の日以降も、ひきつづき在留するためには、ビザの申請(更新または変更)を、入管におこなって許可をもらう必要があります。
そして、ビザの申請は、現在のビザの在留期限よりも「前」にやらなくてはいけません。
ビザの申請をしないまま、在留期限が過ぎてしまうと、不法滞在(オーバーステイ)となってしまい、強制送還(退去強制)の対象になります。
本来なら就労できるのに、「うっかり」在留期限を忘れてしまったことで、日本で就労することができなくなってしまう、こんなにもったいないことはありません。
ですので、在留期限は、事業者側でもしっかりと把握しておいてください。
ここまでが、在留期限の説明です。
次に、ビザ申請をした「後」のことを説明します。
特定技能ビザを申請するタイミング
ビザ申請は、在留期限よりも前にしなくてはいけないことはわかりましたが、どのタイミングで申請すればいいのでしょうか?
例えば、現在のビザの在留期限が、6月1日だったとします。
仮に、現在のビザから特定技能1号へのビザ変更申請を、3月1日におこなったとしましょう。
すると、基本的には、在留期限の6月1日までは、まだ現在のビザが有効なので、6月1日までは現在のビザの活動をおこなうことができます。
現在のビザが就労ビザの場合は、6月1日まで、今までと同じように就労することができます。
そして、現在のビザの在留期限(6月1日)が来る前に、特定技能1号ビザが許可になれば、その時点から特定技能1号として就労することができます。
(つまり、就労できない期間が生まれることなく、継続して就労できます)
※技能実習ビザの場合は、事情がもう少し複雑なのですが、これについても後ほど説明します
一方で、現在のビザから特定技能1号へのビザ変更申請を5月15日におこなった場合はどうでしょうか?
上記の理屈から言うと、在留期限の6月1日までは現在のビザの活動ができて、6月2日以降はできないことになります。
また、在留期限が6月1日なのですから、在留期限までに新しいビザの審査が終わらない場合、6月2日以降は不法滞在になってしまうのではないか、という心配も出てきます。
問題ありません。
「特例期間」という制度があります。
特例期間
出入国管理及び難民認定法
第20条6項 第2項の規定による申請があった場合(30日以下の在留期間を決定されている者から申請があった場合を除く)において、その申請の時に当該外国人が有する在留資格に伴なう在留期間の満了の日までに、その申請に対する処分がされないときには、当該外国人は、その在留期間の満了後も、当該処分がされるとき又は従前の在留期間の満了の日から二月を経過する日が終了する問のいずれか早い時までの間は、引き続き当該在留資格をもって本邦に在留することができる。
簡単に言うと、次のようになります。
在留期限よりも「前」にビザ申請をした場合は、在留期限を過ぎた後も、ビザ申請の結果が出るまで、現在のビザで在留することができる。
(①在留期限から2か月を経過する日、②審査結果が出る日、①または②の早い方まで。)
ということは、現在のビザが就労可能なビザなら、在留期限よりも「前」に特定技能1号へのビザ変更申請をすれば、在留期限経過後も、ひきつづき就労ができる、ということになります。
これが、原則です。
次に、ビザの種類について見てみましょう。
2.特定技能ビザを申請する前のビザ(在留資格)の種類で、申請中の就労の可否が決まる
特定技能ビザの申請中や審査中に、就労ができるかどうかは、特定技能ビザに変更申請をする前のビザの種類が、何かによって変わってきます。
では、特定技能ビザを申請する前のビザが、何のビザなら、申請中も就労ができるのでしょうか。
ビザ(在留資格)の種類
ビザの種類は、大きくわけて2種類あります。
- 就労系ビザ
- 身分系ビザ
A.就労系ビザは、さらに複数のビザにわかれています。たとえば、
- 技術・人文知識・国際業務
- 経営・管理
- 高度専門職
- 特定技能
- 技能実習
他にもたくさんありますが、ここでは省略します。
このうち、a,b,c,dのビザは、「特例期間中」も従前のビザの仕事ができます。
しかし、e.技能実習については注意が必要です。
技能実習にも「特例期間」はあります。たとえば、技能実習2号の2年間のうち、最初の1年目から2年目になる時のビザ更新申請のときは、特例期間中に就労ができます。
ところが、技能実習2号の2年目が終わるころから(技能実習1号から数えると3年目が終わるころ)、別のビザに変更する場合は、特例期間中に就労ができないことがあります。
この理由には、「技能実習計画」が関係しています。
技能実習2号から特定技能1号に移行する際の注意点
技能実習の場合は、技能実習計画修了後は、特例期間中であっても就労ができない。
前述のように、現在のビザの在留期限までに、他のビザへの変更申請をおこなっていれば、「普通は」、在留期限を過ぎた後、新しいビザが許可になるまでの期間に、引き続き現在のビザの活動ができます。
しかし、技能実習の場合は、事情が異なります。
まず、技能実習は、「技能実習計画」というものに基づいておこなわれます。
そして、「技能実習計画」には、実習をおこなう「技能実習の期間」が記載されています。
実習生は、この「技能実習の期間」の間だけ、実習をおこなうことができます。
例えば、先ほどの例で言うと、技能実習の在留期限が6月1日だとします。
「技能実習の期間」は在留期限よりも前に設定されているので、仮に5月31日が「技能実習の期間」の最後の日だとしましょう。
この場合、5月15日にビザ変更申請をしたとして、在留期限(6月1日)が過ぎた以降もひきつづき就労できるでしょうか?
できません。
技能実習の場合は、「技能実習の期間」の最後の日以降は、もう実習生としての就労をすることはできなくなります。
特例期間そのものは技能実習にも適用されるので、ビザ申請の結果が出るまで、日本に「在留」することはできます。しかし「就労」することはできないのです。
つまり、技能実習計画が終了してから、特定技能1号の許可が出るまでの間は、就労しないで「待機」していなくてはいけません。
これでは、雇用主にとってはいきなり人材が1人減ることになりますし、実習生にとっては待期期間中は収入を得られなくなるので、死活問題になりかねません。
では、こうしたリスクを回避するためにはどうすればいいでしょうか。
技能実習計画が終了する日よりも4-5カ月前に、特定技能1号へのビザ変更申請をおこなう。
これに尽きます。
技能実習計画修了後に就労ができないのであれば、技能実習計画が修了するまでに、特定技能1号ビザの許可が出るように、時間的余裕をもって申請すればいいのです。
例えば、技能実習ビザの在留期限が6月1日で、技能実習計画の修了日が5月31日だとします。
特定技能1号ビザの審査期間は、通常2か月~3か月程度ですので、5月31日から3か月前の2月28日頃に、技能実習2号から特定技能1号への変更申請をおこなえば、技能実習計画が修了する前に、特定技能1号ビザが許可になり、技能実習計画が修了する日の翌日から、特定技能1号としての就労ができるようになります。
つまり、就労ができない待期期間が生じることなく、スムーズに技能実習2号から特定技能1号に移行することができます。
もっとも、特定技能1号ビザの審査期間は、通常2か月~3か月程度ですが、これは混雑状況やどこの入管に申請するかによっても変わってきます。
(特に、東京入管は申請数が多いので審査期間が長い傾向があります)
また、申請後に補正や追加資料の請求があった場合は、さらに審査期間が長くなります。
なので、技能実習2号の技能実習計画修了後、すぐに特定技能1号として就労してもらうためには、
余裕をもって、技能実習計画修了日の4-5カ月前に、特定技能1号への変更申請をおこなうことをお勧めします。
なお、この記事では技能実習2号→特定技能1号に変更するケースを説明しましたが、
それよりも比較的早く就労可能になる方法として、技能実習2号→特定活動→特定技能1号、というケースもあります。
これについては、また別の記事で解説します。
執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367号)