【徹底解説】特定技能建設分野 業務区分統合(2022年)

2022年8月30日の閣議決定により、特定技能建設分野の業務区分が再編されました。

これにより業務範囲が拡大し、より実用的な運用が可能になったといえます。

ここでは、建設分野の業務区分がどのように変わったのか、特定技能に特化した行政書士がわかりやすく解説します。

特定技能制度とは

特定技能は、深刻な人手不足を補うことを目的とした外国人を受入れるための在留資格で、2019年4月に創設されました。

国内で人材を確保することが困難な産業分野において、一定の技能を有し即戦力となる外国人を受入れるための制度で、現在は12の分野で受入れがおこなわれています。

特定技能外国人の受け入れが認められている分野は、以下のとおりです。

特定産業分野

介護
ビルクリーニング
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
建設
造船・舶用工業
自動車整備
航空
宿泊
農業
漁業
飲食料品製造業
外食業

 

なお、2019年の特定技能制度開始時点では、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業はそれぞれ独立した分野だったため全14分野ありました。

それが2022年5月に1つに統合され、現在の12分野となっています。

建設分野の業務区分が統合された背景

製造3分野が統合されたあとの2022年8月、統合された製造分野と建設分野で業務区分の再編がおこなわれました。

それまで建設分野では19の業務区分に分けて特定技能制度が運用されてきましたが、現在は3つに統合されています。

19に細分化された業務区分が、なぜ3つに統合されたのでしょうか。

まず、業務区分が統合される前は、(建設業に含まれる業種であっても)特定技能を受入れできない業種がありました。

特定技能外国人を受入れるためには、所属機関が建設業法(昭和 24 年法律第 100 号)第3条の許可を受ける必要がありますが、建設業はその業種ごとに29種類にわかれています。

そのなかで特定技能の業務区分から外れてしまった専門工事業団体等から、特定技能に含めて欲しいとの要望があったようです。

また、技能実習の対象でも特定技能に移行できない職種があるという、制度の不整合もありました。

さらに、19に業務区分が細分化されていることで、従事できる業務の範囲が限定的だったことも業務区分見直しの理由といえます。

業務区分の統合 どのように変わった?

業務区分が19から3つに統合されたことで、建設業に関わるすべての作業が新しい区分に分類されました。

また、大きく3つになったことで業務の範囲も広がり、より特定技能が利用しやすくなったのです。

具体的には、旧19区分にそれまで特定技能の対象外だった業種を加え、「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3区分に再編されました。

下の図を見ていただくとわかりやすいと思います。

引用:国土交通省「建設分野における外国人材の受入れ」

 

新しい3区分に旧区分の業務がどのように再編されたかは、下の表をご覧ください。

新業務区分 業務の定義 業務内容(旧区分)
土木 指導者の指示・監督を受けながら、土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業等に従事 型枠施工
コンクリート圧送
トンネル推進工
建設機械施工
土工
鉄筋施工
とび
海洋土木工
その他、土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業
建築 指導者の指示・監督を受けながら、建築物の新築、増築、改築若しくは移転又は修繕若しくは模様替に係る作業等に従事 型枠施工
左官
コンクリート圧送
屋根ふき
土工
鉄筋施工
鉄筋継手
内装仕上げ
表装
とび
建築大工
建築板金
吹付ウレタン断熱
その他、建築物の新築、増築、改築若しくは移転、修繕、模様替又は係る作業
ライフライン・設備 指導者の指示・監督を受けながら、電気通信、ガス、水道、電気その他のライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業等に従事 電気通信
配管
建築板金
保温保冷
その他、ライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業

業務区分と工事の関係

特定技能外国人を受入れるには、建設業法(昭和24年法律第100号)第3条の許可を受ける必要がありますが、建設業の申請は建設工事の種類ごとにおこないます。

業務区分と建設業許可の対応

許可を受ける建設工事の種類と業務区分の対応関係については、下の表をご覧ください。

業務区分 建設工事の種類
土木 さく井工業
舗装工事業
しゅんせつ工事業
造園工事業
大工工事業
とび・土工工事業
鋼構造物工事業
鉄筋工事業
塗装工事業
防水工事業
石工事業
機械器具設置工事業
建築 大工工事業
とび・土工工事業
鋼構造物工事業
鉄筋工事業
塗装工事業
防水工事業
石工事業
機械器具設置工事業
内装仕上工事業
建具工事業
左官工事業
タイル・れんが・ブロック工事業
清掃施設工事業
屋根工事業
ガラス工事業
解体工事業
板金工事業
熱絶縁工事業
管工事業
ライフライン・設備 板金工事業
熱絶縁工事業
管工事業
電気工事業
電気通信工事業
水道施設工事業
消防施設工事業

表を見ていただくとわかるように、これまでは特定技能に含まれていなかった塗装工事や防水工事も新区分に含まれ、建設業のすべての作業で外国人を受入れできるようになりました。

特定技能を取得するには、外国人に従事させる工事に対応した業務区分で入管からビザの許可を受ける必要があります。

従事する工事に対応する区分が複数ある場合は、いずれか、または両方の区分でビザの許可を受けますが、同じ区分内であれば異なる業務に従事することも可能になりました。

例えば、技能検定3級(とび)に合格して土木区分で受入れた外国人を、造園工事に従事させることも可能です。

ですので、技能実習の職種が特定技能の2つの業務区分に対応している場合、両方で特定技能を取得した方がより多くの業務に従事できることになります。

業務区分と従事可能な作業現場

先ほどの表では区分ごとに工事の種類が分類されていましたが、これは工事現場ごとの分類という意味ではありません。

引用:国土交通省「建設分野における外国人材の受入れ」

 

上の図を見ていただくとわかるように、土木区分で受入れた外国人が造園工事をおこなう場合、土木現場だけでなく建築現場でも業務に従事することができます。

つまり、受入れた区分の工事に従事すれば、作業現場は問われないということです。

業務区分と技能試験の対応関係

特定技能を取得するには、分野ごとの技能試験と日本語試験に合格する必要がありますが、業務区分の統合にともない建設分野の特定技能評価試験の試験区分も3つに統合されました。

特定技能1号と2号、それぞれの試験と区分の関係を見てみましょう。

特定技能1号

区分ごとの特定技能1号評価試験、または区分に対応した技能検定3級に合格する必要があります。

区分ごとの技能試験については、下の表をご覧ください。

業務区分 技能試験
建設分野特定技能1号評価試験 技能検定3級
土木 土木

 

型枠施工
鉄筋施工
とび
造園
塗装
建築 建築 型枠施工
左官
かわらぶき
鉄筋施工
内装仕上げ施工
とび
建築大工
建築板金
塗装
ブロック建築
広告美術仕上げ
ライフライン・設備 ライフライン・設備 配管
建築板金
冷凍空気調和機器施工

特定技能1号評価試験でも技能検定3級でも、合格した区分のすべての業務に従事することができます。

例えば、技能検定3級(塗装)に合格して建築で特定技能を取得した場合、とびや左官など合格した技能検定と違う業務にも従事することが可能ということです。

また、技能検定3級(塗装)は土木にも対応しているため、建築と土木両方で特定技能を取得することができます。

特定技能2号

現在、特定技能2号に移行することができるのは「建設」と「造船・舶用工業」の2分野のみですが、建設分野では、8人の外国人が特定技能2号を取得しています。(2022年12月時点)

建設分野で特定技能2号を取得するには、区分ごとの建設分野特定技能2号評価試験または技能検定1級の合格に加え、建設現場において複数の建設技能者を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者(班長)としての実務経験を要件としています。

特定技能2号の技能試験と業務区分の対応関係については、下の表をご覧ください。

業務区分 技能試験
建設分野特定技能2号評価試験 技能検定
土木 土木 1級

型枠施工
コンクリート圧送施工
鉄筋施工
とび
ウェルポイント施工
鉄工(構造物鉄工作業)
塗装
さく井
造園
路面表示施工

建築 建築 1級

型枠施工
左官
コンクリート圧送施工
かわらぶき
鉄筋施工
内装仕上げ施工
表装
とび
建築大工
建築板金
熱絶縁施工(吹付硬質ウレタンフォーム断熱工事作業)
石材施工
タイル張り
築炉
鉄工(構造物鉄工作業)
塗装
防水施工
建具製作
カーテンウォール施工
自動ドア施工
サッシ施工
ガラス施工
ブロック建築
樹脂接着剤注入施工
広告美術仕上げ
厨房設備施工

単一等級

型枠壁建築
エーエルシーパネル施工
バルコニー施工

ライフライン・設備 ライフライン・設備 1級

配管
建築板金
熱絶縁施工(保温保冷工事作業)
冷凍空気調和機器施工

現時点では、建設分野特定技能2号評価試験はおこなわれていないため、特定技能2号を取得するには区分に対応した業務の技能検定1級に合格する必要があります。

また、特定技能2号で定める技能水準を満たしていると認められれば、必ずしも特定技能1号を経る必要はありません。

技能実習から移行可能な業務区分の対応関係

次に、技能実習から特定技能に移行する場合、業務区分の統合によってどのように変わったかみてみましょう。

技能実習の職種・作業と特定技能の業務区分の対応については、下の表をご覧ください。

技能実習 特定技能
職種 作業 旧区分/旧試験区分 新区分
さく井 パーカッションさく井工事
ロータリーさく井工事
土木
建築板金 ダクト板金
内外装板金
建築板金 建築/ライフライン・設備
冷凍空気調和機器施工 冷凍空気調和機器施工 ライフライン・設備
建具製作 木製建具手加工 建築
建築大工 大工工事 建築大工 建築
型枠施工 型枠工事 型枠施工 土木/建築
鉄筋施工 鉄筋組立て 鉄筋施工 土木/建築
とび とび とび 土木/建築
石材施工 石材加工
石張り作業
建築
タイル張り タイル張り 建築
かわらぶき かわらぶき 屋根ふき 建築
左官 左官 左官 建築
配管 建築配管
プラント配管
配管 ライフライン・設備
熱絶縁施工 保温保冷工事 保温保冷 ライフライン・設備
内装仕上げ施工 プラスチック系床仕上げ工事
カーペット系床仕上げ工事
鋼製下地工事
ボード仕上げ工事
カーテン工事
内装仕上げ ライフライン・設備
サッシ加工 ビル用サッシ施工 建築
防水施工 シーリング防水工事 建築
コンクリート圧送施工 コンクリート圧送工事 コンクリート圧送 土木/建築
ウェルポイント施工 ウェルポイント工事 土木
表装 壁装 表装/※内装仕上げ 建築
建設機械施工 押土・整地
積込み
掘削
締固め
建設機械施工 土木
築炉 築炉 建築
鉄工 構造物鉄工 土木/建築
塗装 建築塗装作業
鋼橋塗装
土木/建築
溶接 手溶接
半自動溶接
土木/建築/ライフライン・設備
技能実習なし トンネル推進工 土木
土工 土木/建築
電気通信 ライフライン・設備
鉄筋継手 建築
吹付ウレタン断熱 建築
海洋土工 土木

※内装仕上げ施工と表装の試験区分は同じ「内装仕上げ」でした。

空欄になっている特定技能旧区分/旧試験区分については、技能実習にはあって特定技能にはなかった職種です。

業務区分統合の前は、技能実習の職種のなかには特定技能に移行できない職種がありました。

例えば、「防水施工」や「塗装」は特定技能の業務区分に存在しなかったので、「防水施工」や「塗装」で技能実習2号を良好に修了しても、同じ職種(業務区分)で特定技能に移行することはできませんでした。(業務区分が存在しないので当然ですよね)

しかし、業務区分の統合により、技能実習のすべての職種から特定技能に移行できるようになりました。

例えば「防水施工」や「塗装」の作業で技能実習2号を良好に修了した外国人は、特定技能1号の「土木」と「建築」の区分に移行できるようになりました。

また、業務区分統合前は、旧区分ごとに特定技能1号評価試験も分けられていたため、技能実習で従事した職種と異なる職種(異なる区分)に従事する場合はそれぞれの区分の特定技能1号評価試験に合格する必要がありました。

それが業務統合によって、新区分では1つの区分内に複数の職種(旧区分)が存在することになったので、技能実習で従事した職種と異なる職種であっても、その職種が対応している特定技能の新区分内の別の職種(旧区分)にも(特定技能1号評価試験に合格しなくても)従事できるようになりました。

なお、現在は、技能実習2号で修了した職種に対応した区分に移行する場合のみ、日本語試験、建設分野特定技能1号評価試験あるいは技能検定3級の試験が免除になります。

技能実習と異なる区分に移行する場合は、日本語試験は免除となりますが、特定技能1号評価試験または技能検定3級に合格しなくてはいけません。

区分内の業務であれば技能実習と異なる作業にも従事できるため、特定技能にしかない職種に従事することも可能になりました。

特定技能外国人の報酬の考え方

特定技能外国人の報酬は「同等の技能を有する日本人と同等以上であること」と定められていますが、それは基本給や毎月固定的に支払われる手当などが同等以上であることをさしています。

業務区分の統合以前は従事できる職種が限定的でしたので、同じ業務に従事している日本人と比較すればよいだけでした。

では、技能実習とは異なる職種に従事する外国人を日本人と比較するには、どうしたらよいでしょうか。

ここでは、複数の業務に従事する外国人の、実務経験年数の考え方を解説します。

まず、特定技能1号評価試験または技能検定3級の合格者は、3年または5年の経験を有するものとして扱います。

技能実習2号の修了者は3年、技能実習3号の修了者は5年の実習を修了しているため、それぞれ3年、5年の経験者として扱います。

技能実習と異なる職種に従事する場合の考え方については、下の表を参考にしてください。

引用:国土交通省「建設分野における外国人材の受入れ」(クリックで拡大できます)

 

特定技能の業務区分は、共通の技能が認められる作業を区分しています。

簡単にいうと、技能実習と特定技能で異なる作業に従事した場合でも、それぞれの経験年数の合計と一つの業務に従事してきた日本人の経験年数は同じという考え方です。

ただし、以下のような資格取得や条件達成時には追加手当などを定め、合理的かつ客観的に差異をつけることが推奨されます。

  • 職長
  • 従事する業務に関連する技能検定取得
  • 社内制度による検定の合格
  • 特定の従業員のみが従事する業務に就く

業務区分統合によるメリット

19あった業務区分が3つに統合されたことによって、建設分野にどのようなメリットがあるのでしょうか。

すべての職種が特定技能受入れの対象になった

区分統合前は、旧区分に含まれていない職種では特定技能を受入れることができませんでしたが、現在は建設業のすべての職種で受入れ可能になりました。

特定技能を利用できずに人材不足に悩まされていた職種でも、積極的に戦力となる外国人の受け入れが進んでいくでしょう。

技能実習から特定技能1号に移行する際の選択肢が拡大した

技能実習2号修了者が特定技能1号に移行する場合に、今までは移行できる職種が限定的でした。

例えば、技能実習で「とび」の職種・作業を修了した者は、特定技能1号でも「とび」の業務区分にしか移行できず、「とび」の業務区分の範囲内の業務しかおこなうことができませんでした。

ところが、業務区分統合によって、技能実習で「とび」の職種・作業を修了した者は、特定技能新区分の「土木」と「建築」に移行することが可能になりました。

そして、新区分では多くの業務が含まれているので、多くの業務にまたがって従事することが可能になりました。

上記の例でいうと、技能実習で「とび」の職種・作業を修了した者が特定技能1号の「建築区分」に移行した場合、とびの他にも、塗装や防水施工、左官など「建築物の新築、増築、改築もしくは移転、修繕、模様替に係る作業」全ての作業をおこなうことができます。

このことで、以前は技能実習に存在しなかったため、特定技能に移行できなかった職種にも従事することが可能になり、制度の不整合もなくなりました。

旧試験合格者は新区分に無試験で移行できるようになった

区分統合以前は、特定技能1号評価試験も区分ごとの18種に分かれていました。(内装仕上げ施工と表層は同じ試験区分)

ですので、旧試験区分の特定技能1号評価試験(とび)合格者は、業務区分「とび」の範囲内でしか業務に従事できませんでした。

ところが業務区分が統合されてからは、旧区分の特定技能1号評価試験合格者は対応する新区分に無試験で移行できるようになったため、

 

旧試験を受けて特定技能になった外国人でも新区分内で多くの業務に従事することが可能になったのです。

 

複数の業務に従事できる多能工を育成することにより、工事の繁閑に合わせて人材を有効活用できます。

また、多くの外国人を多くの職種で活用できるようになれば、広範囲の工事の受注や生産性の向上なども期待できるため、特定技能所属期間にとっても特定技能外国人にとってもメリットのある改正といえるでしょう。

ご参考になれば幸いです。

行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)

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