特定技能所属機関が外国人を雇用すると、入管法に基づいて各種届出をおこなう義務が生じます。
当ホームページでは、届出がよくわからないという特定技能所属機関の方に向けて「定期届出」や「随時届出」などの提出時期や書類の書き方をご紹介しています。
今回は、随時届出の一つ「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為に係る届出」について、特定技能の受入れサポートをおこなっている行政書士がわかりやすく解説します。
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随時届出とは
入管法に基づく届出には、特定技能外国人の受入れや支援の実施状況について四半期に1回報告する「定期届出」と、特定技能外国人に関する変更があったことを知らせる「随時届出」があります。
届出をするのは特定技能所属機関
特定技能外国人についての「随時届出」をおこなうのは、特定技能外国人を雇用している所属機関です。
外国人の支援を登録支援機関に委託している所属機関も多いと思いますが、委託をしている・していないに関わらず「随時届出」は特定技能所属機関から提出します。
例えば、支援を委託している登録支援機関の支援責任者を変更した場合でも、届出をおこなう責任があるのは特定技能所属機関なので間違えないようにしましょう。
5種類の随時届出
特定技能外国人についての「随時届出」は、変更等の内容によって以下のように5つの届出に分類されます。
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- 特定技能雇用契約に係る届出
- 1号特定技能外国人支援計画変更に係る届出
- 登録支援機関との支援委託契約に係る届出
- 受入れ困難に係る届出
- 出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為に係る届出
この記事では「5. 出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為に係る届出」について解説していきます。
「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為(不正行為)に係る届出」が必要な事由とは
この届出は、雇用する特定技能外国人について、出入国又は労働関係法令に関する不正行為などがあったことを知ったときにおこないます。
出入国又は労働に関する法令とは?
出入国に関する法令とは、「出入国管理及び難民認定法」や「出入国管理及び難民認定法施行規則」を指しています。
日本へ入国する人・日本からの出国する人の公正な管理、在留資格に関する手続き、不法滞在や難民の認定手続きを整備することを目的とした法律です。
労働に関する法令とは、「労働基準法」や「労働安全衛生法」などを指しています。
労働基準法は最低限の労働条件を定めたもので、労働者の権利を守るための法律です。
労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境の形成促進を目的とする法律です。
不正又は著しく不当な行為とは?
では、出入国又は労働関係法令に関する不正行為とは、どのような行為のことをいうのでしょうか。
「 特定技能基準省令」では、特定技能所属機関の欠格事由として以下のように定めています。
リ 特定技能雇用契約の締結の日前五年以内又はその締結の日以後に、次に掲げる行為その他の出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした者
(1)外国人に対して暴行し、脅迫し又は監禁する行為
(2)外国人の旅券又は在留カードを取り上げる行為
(3)外国人に支給する手当又は報酬の一部又は全部を支払わない行為
(4)外国人の外出その他私生活の自由を不当に制限する行為
(5)(1)から(4)までに掲げるもののほか、外国人の人権を著しく侵害する行為
(6)外国人に係る出入国又は労働に関する法令に関して行われた不正又は著しく不当な行為に関する事実を隠蔽する目的又はその事業活動に関し外国人に法第三章第一節若しくは第二節の規定による証明書の交付、上陸許可の証印若しくは許可、同章第四節の規定による上陸の許可若しくは法第四章第一節若しくは第二節若しくは第五章第三節の規定による許可を受けさせる目的で、偽造若しくは変造された文書若しくは図画若しくは虚偽の文書若しくは図画を行使し、又は提供する行為
(7)特定技能雇用契約に基づく当該外国人の本邦における活動に関連して、保証金の徴収若しくは財産の管理又は当該特定技能雇用契約の不履行に係る違約金を定める契約その他不当に金銭その他の財産の移転を予定する契約を締結する行為
(8)外国人若しくはその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該外国人と社会生活において密接な関係を有する者との間で、特定技能雇用契約に基づく当該外国人の本邦における活動に関連して、保証金の徴収その他名目のいかんを問わず金銭その他の財産の管理をする者若しくは当該特定技能雇用契約の不履行について違約金を定める契約その他の不当に金銭その他の財産の移転を予定する契約を締結した者又はこれらの行為をしようとする者からの紹介を受けて、当該外国人と当該特定技能雇用契約を締結する行為
(9)法第十九条の十八の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をする行為
(10)法第十九条の二十第一項の規定による報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示をせず、若しくは虚偽の報告若しくは虚偽の帳簿書類の提出若しくは提示をし、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避する行為
(11)法第十九条の二十一第一項の規定による処分に違反する行為引用: e-Gov法令検索「特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令第2条第1項第4号リ」
上記の基準省令について、ポイントをしぼって解説します。
(6)は、不正行為などを隠ぺいする目的や、外国人を就労させる目的で、偽造文書や内容に虚偽のある文書を行使・提供することを指しています。これらの行為をおこなった場合、不正行為に該当します。
(7)は、特定技能外国人に対する保証金の徴収、財産の管理、違約金の契約などを禁止する規定です。例えば、外国人本人の通帳を所属機関が保管して本人が使用できないようにしたり、退職した場合に違約金を支払う契約を締結することなどが該当します。
(8)は、(7)の保証金の徴収・財産の管理・違約金等、不当に金銭・その他の財産を移転することを契約する行為をおこなう者の紹介を受けて特定技能雇用契約を締結することです。
例えば、送り出し機関や職業紹介事業者などが、特定技能外国人に対して保証金を徴収していることを知っていながら紹介を受けて雇用した場合は、たとえ所属機関自身がやったことでなくても、不正行為になります。
(9)の「法第19条の18の規定による届出」とは、定期届出や随時届出のことです。
つまり、必要な届出をおこなわなかったり、(おこなったとしても)内容に虚偽があった場合は、不正行為になります。
(10)は、雇用契約や支援計画が適正を確保するための報告徴収に従わないことです。
(11)は、雇用契約や支援計画の適正を確保するために出された改善命令に違反することです。
上記の基準はあくまで一例であり、不正行為はこれらに限られるわけではありません。
また、労働時間や休暇、職場環境など、労働関係法令に違反した場合も不正又は著しく不当な行為に該当する場合があります。
提出書類と書き方
特定技能外国人に対して不正行為があったことを知ったときに届け出る書類は以下のとおりです。
- 出入国又は労働に関する法令に関し不正又は 著しく不当な行為(不正行為)に係る届出書(参考様式第3-5号)
- 事案の概要がわかる資料
この他、届出の内容について追加資料を求められることもあります。
では、届出書の書き方について、ポイントを解説します。
出入国又は労働に関する法令に関し不正又は 著しく不当な行為(不正行為)に係る届出書(参考様式第3-5号)
「① 届出の対象者」は届出の対象者、つまり不正行為を受けた外国人について記入します。
届出対象の外国人が複数いる場合は「別紙のとおり」と記入し、「参考様式第3-5号(別紙)」を使用します。
「② 不正行為の概要」の「A 不正行為を知った日」は、不正行為があったことを知った日を記入します。
「B 不正行為が発生した日」は、実際に不正行為がおこなわれた日を記入します。
例えば給料の未払いがあった場合、未払いだった給料日を記入します。
「C 不正行為の類型」は、該当するものにチェックを入れます。複数の不正行為があった場合は、全てにチェックを入れます。
チェック項目の番号は、上述した「特定技能基準省令第2条第1項第4号リ」に対応しています。
「D 不正行為を知った経緯・内容」の「a 端緒」は、不正行為を知ったきっかけを項目から選んでチェックします。
「b 不正行為の具体的な内容」に30文字で記入しきれない場合は、「別紙のとおり」と記入して任意書式で詳細を記入したものを添付します。
「③ 不正行為への対応」「A 対応区分」は、対応したものにチェックを入れます。どちらにも対応した場合は、両方にチェックを入れます。
「B 対応結果」は、「A」でチェックを入れた対応の内容を記入します。
記入しきれない場合は「別紙のとおり」と記入し、対応の内容を任意書式で記入したものを添付します。
「④ 届出機関」は、特定技能所属機関について記入します。
「法人番号」は、個人事業主の場合は記入不要です。
「担当者」は、この届出を担当した特定技能所属機関の役職員の氏名を記入します。
「本届出書作成者の署名」は、届出書を作成した特定技能所属機関の役職員が、手書きで署名します。(印字は認められません)
不正行為の具体的な内容と対応について記入することができれば、その他は難しい内容ではありません。
つまり、不正行為があったことを知った場合、まずは適切な対応を取ることが重要になります。
「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為に係る届出」届出の方法
では、不正行為があったことを知ったときの届出書は、いつ提出すればよいのでしょうか。
届出はいつおこなう?
随時届出は、届出事由が発生してから14日以内に届出書を提出しなくてはいけません。
届出事由の発生というのは、変更事項について届け出る場合は、変更することが決まった日ではなく変更後の内容に効力が生じた日のことを指します。
ですが、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為に係る届出」の場合は、実際に不正行為がおこなわれた日ではなく、不正行為があったことを知った日から14日以内ということになります。
届出書は郵送でも提出できますが、郵送の場合は14日以内の消印ではなく14日以内に地方入管に届いている必要があります。
届出をおこなわなかった場合や虚偽の届出をした場合、特定技能外国人の受入れができなくなるだけでなく、罰金刑や過料を科されることもあります。
すでに特定技能ではなくなっている場合や帰国してしまった場合でも、特定技能として在留しているときに発生した事由については届出をおこなう必要があります。
届出事由が生じた日から14日が過ぎてしまっても、届出書を提出することはできます。
遅延した理由を記載した理由書(任意書式)を添付して、必ず届け出るようにしましょう。
届出方法
随時届出書は次の3つの方法で提出することができます。
窓口に持参して提出
特定技能所属機関の役職員で届出書の作成者が持参する場合は、身分を証明する文書の提示が必要です。
届出書の作成者以外が持参する場合は、届出書作成者の身分を証明する文書の写しに加え、提出者の氏名・連絡先・特定技能所属機関との関係を明らかにする文書や資料、委任状などを提出します。
郵送で提出
届出書の作成者の身分を証明する文書の写しを同封し、封筒に「特定技能届出書在中」等、記載します。
オンラインで提出
出入国在留管理庁の「電子届出システム」を利用するため、事前に窓口または郵送で利用者情報登録をする必要があります。
※身分を証明する文書とは、日本の機関が発行した身分証明書、健康保険証などのことです。
申請等取次者証明書を所持していれば、その写しでも問題ありません。
届出先
届出書の提出先は、特定技能所属機関の住所(法人の場合は、登記上の本店所在地)を管轄する地方出入国在留管理局・支局です。
管轄地域と地方局・支局の住所は下の表で確認してください。
地方局・支局名 | 担当部門/住所 | 管轄する都道府県 |
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札幌出入国在留管理局 | 審査部門 【持参による提出先】 〒060-0042 札幌市中央区大通西12丁目 札幌第3合同庁舎 【郵送による提出先】 〒062-0931 札幌市豊平区平岸1条22丁目2-25 |
北海道 |
仙台出入国在留管理局 | 審査第一部門 〒983-0842 仙台市宮城野区五輪1-3-20 仙台第二法務合同庁舎 |
青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県 |
東京出入国在留管理局 | 就労審査第三部門 〒108-8255 東京都港区港南5-5-30 |
茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県 東京都、新潟県、山梨県、長野県 |
東京出入国在留管理局 横浜支局 | 就労・永住審査部門 〒236-0002 神奈川県横浜市金沢区鳥浜町10-7 |
神奈川県 |
名古屋出入国在留管理局 | 就労審査第二部門 〒455-8601 愛知県名古屋市港区正保町5-18 |
富山県、石川県、福井県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県 |
大阪出入国在留管理局 | 就労審査部門 〒559-0034 大阪府大阪市住之江区南港北 一丁目29番53号 |
滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、和歌山県 |
大阪出入国在留管理局 神戸支局 | 審査部門 〒650-0024 兵庫県神戸市中央区海岸通り29 神戸地方合同庁舎 |
兵庫県 |
広島出入国在留管理局 | 就労・永住審査部門 〒730-0012 広島県広島市中区上八丁堀2-31 広島法務総合庁舎内 |
鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県 |
高松出入国在留管理局 | 審査部門 〒760-0011 香川県高松市浜ノ町72-9 高松出入国在留管理局浜ノ町分庁舎 |
徳島県、香川県、愛媛県、高知県 |
福岡出入国在留管理局 | 就労・永住審査部門 【持参による提出先】 〒810-0073 福岡県福岡市中央区舞鶴3-5-25 福岡第1法務総合庁舎 【郵送による提出先】 〒814-0005 福岡県福岡市早良区祖原14-15 |
福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 |
福岡出入国在留管理局 那覇支局 | 審査部門 〒900-0022 沖縄県那覇市樋川1-15-15 那覇第一地方合同庁舎 |
沖縄県 |
まとめ
「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為に係る届出」について、提出書類と書類の書き方を解説しました。
出入国又は労働関係法令に関する不正行為をおこなった場合、特定技能所属機関としての欠格事由に該当し、外国人の受入れができなくなることがあります。
また、不正行為があったことを知りながら届出をおこなわないことも、不正行為となってしまいます。
不正行為があった場合は適切な対応をして、必ず届け出るようにしましょう。
以上、ご参考になれば幸いです。
執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)