行政書士が解説する造船・舶用工業分野での特定技能外国人雇用のポイント

日本の人や物資の移動手段として欠かせない海上輸送を支えている造船・舶用工業分野ですが、技術者をはじめ人材が不足している状況が続いています。

2015年に緊急かつ時限的な措置として「外国人造船就労者受入れ事業」が始まりましたが、2020年度末で新規受入れは終了しました。

今後は、2019年に創設された「特定技能制度」に基づく外国人材の受入れ・活用により、深刻な人材不足の解消が期待されています。

そこで特定技能外国人の受入れサポートの実績を持つ入管業務の専門行政書士が、特定技能「造船・舶用工業分野」で外国人が従事できる業務内容や実務上の注意点等について、ポイントを絞って解説いたします。

造船・舶用工業分野では、特定技能「1号」と「2号」の受入れができる

特定技能の在留資格は「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類に分けられます。

特定技能外国人の受入れ対象分野は14分野ありますが、2021年12月時点では「1号」と「2号」の両方を受け入れることができるのは、「造船・舶用工業分野」と「建設分野」の2分野のみとなっています

※追記:2021年11月に、日経新聞等で「2022年から特定技能2号に11分野が追加されて13分野になる見込み」であることが報じられました。これが実現されれば、「造船・舶用工業分野」「建設分野」以外の分野でも特定技能2号の受入れが可能になります。

特定技能「1号」と「2号」について

特定技能「1号」と「2号」について簡単にご説明しますと・・・。

特定技能「1号」は、造船・舶用工業分野での「相当程度の知識又は経験を必要とする業務」に従事する外国人を対象とした在留資格です。

特定技能1号は、在留期間は通算上限5年で、家族(配偶者・子等)の帯同は基本的には認められておらず単身赴任となります。

一方「2号」は、「1号」に比べて「熟練した技能」を必要とする業務に従事する外国人が対象となっており、高い技能レベルが要求されています。

また「2号」の場合は、在留期間も通算上限はなく更新が可能で、要件を満たせば家族(配偶者・子等)の帯同も可能です。

特定技能14分野中で、2号が設定されているのは「造船・舶用工業」と「建設」の2分野のみになります。したがって、「造船・舶用工業」分野では1号の5年間を修了した後も引き続き2号で雇用を続けることができます。

特定技能「2号」外国人雇用のメリット

「2号」外国人は、任せられる技能レベル高く、在留期間の通算上限がないため、長期に渡って熟練した技能を持つ外国人を雇用できます。

ただし、職種は限られており「溶接」のみとなっています。(造船・舶用工業分野で特定技能外国人ができる仕事については後述します。)

造船・舶用工業で「溶接」は重要な職種です。特に人材が不足している「溶接」の技術を持つ外国人材を長期的に雇用できる機会があるのは、受入れ企業にとってはメリットと言えます。

造船・舶用工業分野で特定技能外国人ができる仕事は?

造船・舶用工業分野といっても様々な職種がありますがが、職種に関係なく特定技能外国人を雇用できるのか、という点についてよく質問を頂きます。

前述のとおり、造船・舶用工業分野では、特定技能「1号」と「2号」の対象となっています。

特定技能「1号」の外国人ができる仕事ですが、船舶の製造や修理等で重要になってくる「溶接」、「塗装」、「鉄工」、「仕上げ」作業、また舶用機関の製造の中心となる「機械加工」、「電気機器組立て」作業、これらの6つの職種が対象となっています。

「2号」の外国人については、繰り返しになりますが「溶接」のみ従事することができます。

関連業務

特定技能外国人は、これまで説明した職種の業務に加えて、「関連業務」とされている業務に付随的に携わることも認められています。

関連業務として想定されている具体的なものは、読図作業、作業工程管理、検査、機器・装置・工具の保守管理、資材の材料管理・配置、足場の組立・解体、清掃等です。

関連業務はあくまでもメイン業務に付随して行うことが条件とされています。

関連業務ばかりを特定技能外国人に任せることはできませんので、注意しましょう。

これらの業務を任せられる特定技能外国人とは?

特定技能制度は、国内の人材不足解消のために、一定の技能・日本語能力をもった外国人の受入れを促進するために設立されました。

したがって受け入れてから「即戦力」として期待できる技能やある程度の日本語でのコミュニケーション能力をあらかじめ持っている外国人が対象となっています。

したがって、特定技能外国人となる人は、先ほどご説明した6つの職種ごとに決められた試験(筆記・実技)に合格していること、また日本語についても所定のレベルを試験でクリアしていることが要件となっています。

もしくは、特定技能の造船・舶用工業分野に移行できる技能実習2号の対象職種・作業を良好に修了している外国人、また外国人造船就労受入れ事業で来日し、同じく特定技能に移行できる職種・作業を終えている人であれば、必要なレベルを満たしていると判断されます。

したがって、職種ごとに必要となる基本的な知識・技能に関して一定以上のレベルを持っており、また日本語でのコミュニケーションもある程度できる人材になります。

この点は安心できる材料ではないでしょうか。

しかし日本人と同様に、最初は慣れない職場環境、人間関係で戸惑うことも多いと思いますので、細かいフォローは大切になりますね。

特定技能「2号」外国人は監督者としての実務経験も必要

特定技能「2号」外国人の要件は、「造船・舶用工業分野特定技能2号試験(仮称)」の試験に合格している必要があります。

また試験以外にも監督者としての実務経験が2年以上求められています。

「1号」から「2号」に移行し、長く働いてほしいと思った人材がいる場合には、監督者としての実務経験を積むことができるよう、配置などを計画的に行う必要があります。

特定技能外国人を雇用するための要件は?

特定技能外国人ができる職種やその人たちの人材像について説明しましたが、雇用する側の要件も気になると思います。

この点についてもよく質問を頂きますので、雇用する側に必要な主な要件についてご説明いたします。

「造船・舶用工業分野に係る事業を営む者であること」の確認

まず大切になってくる要件の一つですが、造船・舶用工業分野で特定技能外国人を受入れる場合には、国土交通省より「造船・舶用工業分野に係る事業を営む者であること」の確認を受けなければなりません

つまりどういうことかと言いますと、特定技能外国人を受入れたい事業所が、「造船業や舶用工業に従事している事業所である」ということを国土交通省が「確認」します。確認ができたら「確認通知書」が交付されます

ではどういう事業所であればよいか?という点ですが、造船業や舶用工業を営む場合には許認可等(登録や届け出を含む)が必要となります。

そのような許認可等を受けている場合は、それを証明すれば、この国土交通省の「確認」が取れます。

また造船・舶用工業関連の許認可等を持っている事業者から委託を受けて船体の一部を製造したり修繕したりしている場合は、法人の登記事項証明書や請負契約書等の提出をすれば、「造船・舶用工業分野に係る事業を営む者」として認められます。

国土交通省から交付された「確認通知書」は、在留資格申請時に必要となりますので、事前に手続きをすませておきましょう。

雇用の際に注意しなければならない点は?

実際雇用するにあたって注意しなければならない点がいくつかありますので、より重要なポイントをご説明します。

雇用したい外国人の出身国ごとに手続きが異なる場合がある

基本的に、雇用したい外国人が特定技能外国人として日本で仕事をするためには、在留資格を取得する手続きが必要になります。

雇用したい外国人が日本国内にいる場合は、現在その外国人が持っている在留資格を「特定技能」に変更する「在留資格変更許可申請」の手続きが必要になります。

もし外国人が海外にいる場合には、在留資格を新たに取得する「在留資格認定証明書交付申請」の手続きが必要となります。

ただし、雇用したい外国人の出身国によって、在留資格取得のための手続きの前後に必要な手続きがあったり、在留資格申請時の提出書類が増える場合があります

ここでは、造船・舶用工業分野で多く受け入れているベトナムとフィリピンを例にご紹介します

ベトナムの場合

ベトナムから新たに特定技能外国人を受入れる場合には、ベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働局(DOLAB)から認定された送出機関を通して、外国人を受入れなければなりません。

そして「在留資格認定書交付申請」を行う際には、DOLABから発行された推薦者表の添付が必要となります。

この推薦者表は、送出機関がDOLABに対して申請を行い、DOLABから発行された推薦者表は送出機関を通じて受入れ機関に送られます。

一方、既に日本にいるベトナム人を雇用したい場合には、駐日ベトナム大使館から推薦者表の発行を受ける必要があります。これを「在留資格変更許可申請」時に提出する必要があります。

駐日ベトナム大使館への推薦者表の発行依頼は、当該外国人本人でも、受入れ機関、当該外国人の支援の委託を受けた登録支援機関でも行うことができます。

フィリピンの場合

雇用したい外国人の出身国がフィリピンの場合には、既に日本にいる人であっても、フィリピンから新たに受け入れる場合でも、政府から認定された送出機関を経由して特定技能外国人を受入れることが求められています。

そして同じく雇用したい外国人が日本にいる場合でも、フィリピンにいる場合でも、受入れ機関は、まず駐日フィリピン大使館海外労働事務所(POLO)または在大阪フィリピン総領事館労働部門に、必要な申請書類(雇用契約書ひな形、求人・求職等の承認等)を送付し、「登録推薦書」を発行してもらいます。

その「登録推薦書」の発行を受け、送出機関を通して、フィリピン海外雇用庁(POEA)への特定技能所属機関として登録手続きを行う必要があります。

つまり受入れ機関は、まずフィリピン海外雇用庁に、特定技能所属機関として登録されなければなりません。

また雇用契約書についても登録を受ける必要があり、登録を受けて初めて外国人と雇用契約を締結することになります。

その後、日本での在留資格取得の手続きに入るという流れになります。

受入れ機関が行わなければならないPOLOまたは在大阪フィリピン総領事館労働部門での登録申請に関しては、提出書類の量も多く、書類の不備や修正等が多く発生しています。そのため、予想以上に時間がかかってしまうこともあります。

既に日本にいるフィリピンの方を雇用する場合は、その方が現在持っている在留資格の在留期限を確認し、手続きの最中に期限切れにならないよう時間には余裕をもって手続きをすることをお勧めします。

 

その他の国、例えばタイ、インドネシア、カンボジア等、特定技能に関する二国間の協力覚書を結んでいる国の場合は、ここでご説明したベトナムやフィリピンと同様にその国独自の手続きなどが定められていることがありますので、事前に確認することをお勧めします。

登録支援機関の協議会への加入義務もあり

注意点としてもう一つ説明します。

特定技能外国人「1号」を雇用する際に、受入れ機関は特定技能外国人に対して決められた支援をする必要があります。しかしこれらの支援を「登録支援機関」に委託することもできます。

ただし「登録支援機関」に委託する場合には、一点、注意が必要です。

特定技能外国人の受入れ対象分野には、それぞれ協議会が設置されています。

これは特定技能外国人の適正な雇用を実現するために特定技能外国人の受入れ機関の加入は必須となっています。

造船・舶用工業分野でも、受入れ機関は「造船・舶用工業分野特定技能協議会」に加入し、構成員にならなければなりません。(なお加入のタイミングは特定技能外国人を受入れた日から4か月以内となります。)

また同時に造船・舶用工業分野で受け入れた特定技能外国人の支援を行う登録支援機関の協議会への加入も必須となっています。(この点は分野によって異なる条件となっています)

したがって、登録支援機関に外国人の支援を委託する場合には、その登録支援機関が協議会に加入しているかどうかも事前に確認しておくことが大切です。

おわりに

造船・舶用工業分野で特定技能外国人を雇用する際のポイントについてご説明しました。

雇用するための要件は色々とあるものの、人材不足に悩んでいる事業所の皆様にとって特定技能外国人の雇用はメリットも多いのではないでしょうか。

特に「2号」の特定技能外国人を受入れることができるという点は大きいと思います。

当事務所では、事業者様の個別の状況に応じて、最適な方法で特定技能外国人雇用のサポートをうけたまわっております。

特定技能「造船・舶用工業分野」についての要件調査、ビザ申請、支援委託、コンサル等のご依頼は、下記のお問い合わせフォーム(電話またはメール)からご連絡ください。

ここでは、これまで受けたご相談・質問を中心に、造船・舶用工業分野での特定技能外国人を雇用する際のポイントをお話ししましたが、もっと詳しく知りたい方は、「造船・舶用工業分野における特定技能ビザ人材活用」のページもご参照ください。

執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367号)

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