自動車整備の仕事には、日常点検や定期点検などの点検整備、修理や点検の際に装置を分解しておこなう分解整備、車体のパネル等を修理・塗装する板金塗装などがあります。
自動車整備の仕事が特定技能の受入れ対象であることはよく知られていますが、「板金塗装の仕事が対象になるか」については正しく理解されていない事業者さんも見受けられます。
ここでは板金塗装の受入れ可否について、特定技能を専門とする行政書士がわかりやすく解説します。
Q:点検・整備・板金を一貫しておこなう自動車整備工場を営んでいます。特定技能外国人に板金塗装の仕事をさせてもいいのでしょうか?
A:ご相談ありがとうございます。
結論から言いますと「特定整備に付随する業務としての板金塗装作業」は可能です。
「特定整備」とは、2020年4月から始まった自動車整備に関する制度です。
まずは「特定整備」について簡単におさらいしましょう。
分解整備の範囲拡大と板金塗装の追加
自動車の分解整備をおこなうためには、地方運輸局長から「認証工場」の認証を受ける必要があります。
そして、「認証工場」の認証を受けるためには、施設の面積や人員数など一定の基準を満たす必要があります。
一方で、分解整備を伴わない整備には、「認証工場」の認証は必要ありませんでした。
今までは、分解整備を伴わない整備には比較的簡単な作業が多かったのでそれでよかったのですが、自動車技術の発達に伴い「自動運行装置」が出現しました。
いわゆる「自動運転」ってやつです。
従前の制度のままだと、分解整備を伴わない「自動運行装置」の整備には認証工場の認証は必要なく、誰でも無認証でおこなうことができてしまいました。
しかし、「自動運行装置」は人命に係わる重要な装置です。「自動運行装置」に故障があると大事故につながり人名を奪いかねません。
そこで、「自動運行装置」の整備を無認証の工場にやらせるのはやめて、「自動運行装置」にかかわる整備・改造も、分解整備と同じく「認証工場」の認証を受ける必要があるように制度が改正されました。
この制度改正に伴って、整備の名称も、それまでの「分解整備」から「特定整備」に変わったのです。
ここまでは大丈夫でしょうか。
従来の「分解整備」と新しくなった「特定整備」の違いは下の表の通りです。
(旧)分解整備 | (新)特定整備 |
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これらを取り外しておこなう整備・改造 |
これらを取り外しておこなう整備・改造
|
この法改正によって特定技能の自動車整備分野でも運用要領が改正され、業務範囲が変更されました。
改正前後の違いは以下の表の通りです。
改正前 | 改正後 | |
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主たる業務 |
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関連業務
(想定されるもの) |
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「分解整備」が「特定整備」となり、さらに「特定整備に付随する業務」が主たる業務の範囲に追加されています。
「特定整備に付随する業務」には、電子制御装置の整備や板金塗装などが該当します。
つまり板金塗装は関連業務としてではなく、特定整備に付随する形で主たる業務として従事できるようになったということです。
全ての板金塗装業務に従事できる?
では、主たる業務として全ての板金塗装業務に従事することが可能なのでしょうか。
運用要領改正後、板金塗装作業は「特定整備に付随する業務」のなかに含まれるようになりました。
「特定整備に付随する業務」というのは、装置の取り外しが必要な整備(分解整備)やカメラ・レーダー等の調整や部品交換(運行補助装置・自動運行装置の整備)など、「特定整備の前後で必要になる板金塗装作業」のことです。
例えば、カメラ・レーダーの部品を交換する際にバンパーやパネルの取り外しが必要な場合や、事故などでバンパーやパネルの修理をした際にカメラ・レーダーの調整が必要になる場合。「特定整備の前後で必要になる板金塗装作業」に該当します。
つまり、全ての板金塗装業務に従事できるわけではなく、「特定整備の前後で必要になる板金塗装作業」だけ、「主たる業務」としてもっぱら従事することができます。
Q:主たる業務としては、特定整備に付随する板金塗装だけが該当することはわかりました。
では関連業務としてならその他の板金塗装はできますか?
A:関連業務としてなら、車体のへこみ修理など、その他の板金塗装にも従事できる可能性はあります。
前述の通り、運用要領の改正前までは、板金塗装は関連業務として認められていました。
運用要領の改正によって、板金塗装は「特定整備に付随する業務」として主たる業務に変更され、関連業務からは板金塗装が削除されています。
しかし、もともとは関連業務だった板金塗装が主たる業務に昇格した形なので、改正後も関連業務としてならその他の板金塗装にも従事できると解釈することができます。
また、この改正は規制が目的の改正ではなく、緩和が目的の改正なので、関連業務としての板金塗装に該当するかどうかは比較的柔軟に判断されます。
関連業務とは、「特定技能外国人が従事する業務同等の業務に従事する日本人が通常従事することとなる業務」のことです。
これに該当する業務であれば、特定技能外国人が関連業務として板金塗装に従事することは可能です。
Q:板金工場でも特定技能外国人を受入れできますか?
A:板金工場でも特定技能外国人を受入れることができます。
ただし、地方運輸局長による自動車特定整備事業の認証を受けた「認証工場」でなくてはいけません。
従来の分解整備を含む特定整備は認証を受けた工場でないと実施できませんが、特定整備をせずに車体の修理をおこなう板金工場では必ずしも認証を受ける必要がないため、無認証の板金屋さんも多いことでしょう。
しかし、特定整備を伴った板金塗装作業をおこなうには認証が必要ですし、特定技能外国人を受入れるには「認証工場であること」が定められています。
近年の自動運行装置の普及によって必然的に板金屋さんでもカメラやレーダーの調整が必要となり、認証を受ける工場も増えてきました。
特定整備事業の認証を受けるには、以下の3パターンがあります。
- 分解整備のみをおこなう
- 電子制御装置整備のみをおこなう
- 分解整備と電子制御装置整備の両方をおこなう
認証を受けた板金工場であっても、特定技能外国人が主たる業務として従事できる板金作業は「特定整備に付随するもの」だけなので注意が必要です。
以上「自動車整備分野で板金塗装業務に従事できるか」について解説しました。
ご参考になれば幸いです。