人やモノの安全で迅速な移動を実現してくれる航空機ですが、私たちが安全にそして安心して利用できる裏には多くの人の支えがあります。
しかし航空分野では、特に荷物や貨物の運搬作業や航空機の整備・修理などに従事する人材の不足が深刻になっています。
このような状況を受け、航空分野は2019年に設立された特定技能制度の対象となりました。
そこで特定技能外国人の受入れサポートの実績を持つ入管業務の専門行政書士が、特定技能「航空分野」で外国人が従事できる業務内容や実務上の注意点等について、ポイントを絞って解説いたします。
Table of Contents
特定技能「航空分野」で外国人が従事できる業務は?
私たちの快適な空の旅を提供してくれているのが、乗客をチェックインから搭乗までスムーズに進むようにサポートしてくださってる方々、そして安全な走行ができるよう航空機を整備してくださっている方々です。
このように航空機の運航に関わる方々はたくさんおり、その業務も多岐にわたっています。
特定技能外国人が「航空分野」で従事できる業務は大きく二つあります。
一つが「空港グランドハンドリング業務」。もう一つは「航空機整備業務」です。
それぞれの業務について、詳しく説明していきましょう。
空港グランドハンドリング業務
通常航空機に乗るまでは、チェックインの手続きをして、手荷物を預け、保安検査場を通過し、そして搭乗するという流れになります。
乗客がそのような手続きをしている間に、裏では乗客が預けた手荷物や貨物の仕分け、航空機への移送や搭載等、様々な業務が行われています。
これらの業務が「空港グランドハンドリング業務」になりますが、特定技能外国人は具体的には以下のような業務に従事することができます。
航空機地上走行支援業務
これは航空機の駐機場への誘導や移動に関わる業務です。パイロットに合図を送りながら、航空機の大きさを考慮し、安全に移動させる必要があります。
手荷物・貨物取扱業務
これは手荷物・貨物の仕分けや、ULD(貨物コンテナ等)への積付、取り降し等の業務です。
手荷物・貨物の搭降載取扱い業務
手荷物や貨物の航空機への移送、搭降載の業務です。
搭降載の業務は、航空機のスタンバイから出発までの1~2時間のうちに作業を終える必要があり、安全かつスピーディさが求められる業務になります。
航空機内外の清掃整備業務
客室内清掃や遺失物等の検索、機用品補充や機体の洗浄等、乗客が降りて次の乗客が搭乗するまでに完了させなければならない業務です。
航空機整備業務
もう一つの特定技能外国人が従事できる「航空機整備業務」ですが、これは安全な走行の実現のために重要になってくる航空機の整備に関わる業務です。
機体や装備品などの整備がメインとなる航空機整備の具体的な業務内容について説明していきましょう。
運航整備
これは空港に到着した航空機に対して次のフライトまでに間に行う整備です。
機体全体の外部点検、燃料補給、タイヤ圧の点検、潤滑油点検等です。
また約300時間(約1カ月)の飛行ごとに6時間ほどかけて行う、エンジン、タイヤ、ブレーキ、動翼関係やそれらの収納部、胴体、操縦室、客室の状態の点検も運航整備に含まれます。
機体整備
機体整備は、通常1~1年半毎に実施され、1~2週間にわたり機体の隅々まで行う整備になります。空港に隣接している格納庫(整備工場)での整備がこれにあたります。
装備品・原動機整備
航空機から取り下ろされた脚部や動翼、飛行・操縦に用いられる計器類及びエンジンの整備がこれにあたります。
その他の業務
航空分野で特定技能外国人は、上述のような「空港グランドハンドリング業務」と「航空機整備業務」に従事することができますが、これらの業務に関連する事務作業や作業場所の整理整頓・清掃、積雪時の除雪作業などにも従事可能です。
なお詳細は後述しますが、特定技能外国人は、「空港ハンドリング業務」もしくは「航空機整備業務」での業務従事資格(試験合格もしくは技能実習修了)を持っています。したがって同じ航空分野といっても、「空港ハンドリング業務」の従事資格しかもっていない特定技能外国人に「航空機整備業務」をさせることはできないので注意が必要です。逆もまた同じです。
ただし雇用する特定技能外国人が「空港ハンドリング業務」と「航空機整備業務」の両方の資格を持っている場合には、どちらの業務にも従事できます。
これらの業務を任せられる特定技能外国人とは?
航空分野で働く特定技能外国人は、「空港ハンドリング業務」もしくは「航空機整備業務」に関して一定程度の技能・知識を持っている外国人になります。
特定技能外国人のレベルやどんな人が航空分野での特定技能外国人になっているのか、解説いたします。
特定技能外国人の技能レベル
特定技能外国人は、公益社団法人日本航空技術協会が実施する特定技能評価試験に合格している人か、技能実習で職種「空港グランドハンドリング」の「航空機地上支援作業」の2号を良好に修了している人になります。
特定技能評価試験は、「空港グランドハンドリング業務」と「航空機整備業務」それぞれ行われています。「空港グランドハンドリング業務」の試験に合格した人は、「空港グランドハンドリング業務」に従事し、「航空機整備業務」の試験に合格した人は「航空機整備業務」に従事することができます。
技能実習2号を修了した人に関しては、現在「空港グランドハンドリング」業務にしか移行できません。
「空港グランドハンドリング業務」と「航空機整備業務」それぞれに従事する特定技能外国人のレベルですが、概ね以下のような人材になります。
- 空港グランドハンドリング業務
資格保持者やチームリーダーの指導・監督の下、空港における航空機の誘導・牽引の補佐、貨物・手荷物の仕分けや荷崩れを起こさない貨物の積みつけ等ができるレベル - 航空機整備業務
整備の基本技術を有し、国家資格整備士等の指導・監督の下、機体や装備品などの整備業務のうち基礎的な作業、つまり簡単な点検や交換作業等ができるレベル
また特定技能外国人の日本語の語学力についてですが、技能評価試験の際には業務上必要な日本語能力について評価されています。また日本語能力試験(N4)もしくは国際交流基金日本語基礎テストに合格してることが要件となっていますので、簡単な日常会話ができるレベルとなっています。
技能実習2号修了者については、既に同分野での業務経験を持つことから業務上そして生活上必要な日本語能力をある程度持っていると判断されます。
特定技能「航空分野」で働く特定技能外国人の現状
航空分野での特定技能外国人の人材像はイメージできたでしょうか。
航空分野では、2019年の特定技能制度成立以降、向こう5年間で2,200人の受入れを見込んでいますが、2021年9月末現在、航空分野で働く特定技能外国人は35名にとどまっています。しかも業種は空港グランドハンドリングのみで、航空機整備はゼロです。
ただ空港グランドハンドリングの技能評価試験の受験者数は、国内・海外受験地合わせて毎年約200名~300名の受験者がおり、半数程度が合格していることから、今後は少しずつ増えていくことが予想されます。
一方航空機整備については、2019年10月に一度モンゴルで特定技能評価試験が実施されて以降、日本も含めて試験が実施されていません。モンゴルでの試験では34名受験し、8名合格者がいますが、航空機整備での特定技能外国人の受入れ実績がゼロのため、この8名はまだ特定技能外国人として働いていないことになります。
航空機整備の技能評価実施試験が行われていない理由は分かりませんが、こちらは今後の動きを注視する必要がありそうです。
特定技能外国人の受入れ側の要件は?
航空分野で特定技能外国人ができる業務や人材像について説明いたしましたが、雇用する側の要件についても説明したいと思います。
特定技能外国人を雇用する側、つまり受入機関のことを「特定技能所属機関」と言います。この特定技能所属機関になるにはいくつかの要件があります。
他の特定技能制度の対象分野と共通する要件もありますが、航空分野で重要となってくる要件は、「空港グランドハンドリング業務」でも「航空機整備業務」であっても、両方とも法律や規程等により認定や承認を受けていること、または認定や承認を受けている事業所から委託されていることが必要です。
具体的には以下の要件を満たしていなければ、「航空分野」での特定技能外国人を受入れることができませんので、注意しましょう。
「空港グランドハンドリング業務」の場合:規程等により営業が認められていること
空港グランドハンドリング業務に従事できる特定技能外国人を雇用する場合には、受入れ側は、規程等により営業が認められている事業者でなければなりません。
具体的には以下のいずれかに該当することが必要です。
- 空港管理規則第12条第1項もしくは第12条の2第1項の承認を受けたもの
(航空法第100条第1項の許可を受けた者を含む) - 空港管理規則第13条第1項もしくは同規則第12条第1項、第12条の2第1項もしくは第13条1項の規定に準じて定められた条例、規則その他の規程に相当するものに基づき空港管理者により営業を行うことが認められたもの
したがって特定技能外国人を雇用したい場合には、要件に合致しているかどうかを証明するために、承認書の写しや、空港管理者による営業の承認や許可を証明する書類、航空運送事業の経営許可証の写し等が必要となります。
「航空機整備業務」の場合:航空法に基づく認定事業場を有すること
一方航空機整備業務に従事できる特定技能外国人を雇用する場合には、航空法第20条第1項第3号、第4号もしくは第7号の能力について同項の国土交通大臣による認定を受けた者もしくは当該者から業務の委託を受けた者、でなければなりません。
具体的にいいますと、航空法第20条に関しては、航空機整備等に関する能力について定められていますが、「航空機の整備及び及び整備後の検査の能力」(能力3)、「航空機の整備又は改造の能力」(能力4)、「装備品の修理又は改造の能力」(能力7)について認められた事業所が該当します。
そしてこれらのいわゆる能力3、能力4、能力7について認められている事業所から委託を受けている事業所も該当します。
こちらも空港グランドハンドリングと同様に、要件に合致しているかどうか証明する必要があります。
航空機整備等に係る能力について国土交通大臣による認定を受けたものであることを証明できるものであったり、その認定を受けている事業所から委託を受けている場合には委託契約書の写し等が必要となります。
登録支援機関に特定技能外国人支援を委託する場合の注意点
特定技能外国人を雇用する場合は、その外国人に対する支援が特定技能所属機関に義務づけられています。
特定技能所属機関自身で支援業務を行う場合には問題はありませんが、これらを登録支援機関に委託する場合には注意が必要な点があります。
航空分野で受け入れた特定技能外国人の支援を登録支援機関に委託する場合、その登録支援機関は、航空分野特定技能協議会の構成員である必要があります。
具体的には既に協議会の構成員になっているか、もしくは初めての場合は特定技能外国人を受入れてから4か月以内に構成員になっている必要があります。
登録支援機関に委託する場合には、この要件を備えていることを確認しましょう。
おわりに
航空分野で特定技能外国人を雇用する際のポイントをご説明しました。
当事務所では、事業者様の個別の状況に応じて、最適な方法で特定技能外国人雇用のサポートを承っております。
特定技能「航空分野」について要件調査、ビザ申請、支援委託、コンサル等のご依頼は、下記のお問い合わせフォーム(電話またはメール)からご連絡ください。
ここでは、航空分野での特定技能外国人を雇用するさいのポイントをお話ししましたが、もっと詳しく知らいたい方は、「航空分野における特定技能ビザ人材活用」のページもご参照ください。
執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367号)