- 特定技能外国人が、別の会社に転職してしまった。
- 一時帰国した後、戻って来なかった。
- 行方不明になって連絡がつかない。
このように、せっかく受入れた特定技能外国人が退職してしまうことがあります。
このような場合、退職した人材が担当していた仕事に穴があくので、代わりの人材を募集するなど、対応に忙しく追われることになるかと思います。
対応しなくてはいけないことが多くて、つい忘れがちですが、特定技能外国人が退職した時に、雇用主が、まず最初にやらなくてはいけないことがあります。
それは、入管(出入国在留管理局)への「届出書」の提出です。
この「届出書」の提出を怠ると、刑事罰(30万円以下の罰金)の対象になります。(入管法 第71条の4第1号)
また、刑事罰だけではなく、特定技能受入の欠格事由に該当して、特定技能外国人の受入れができなくなってしまうこともあります。
ついうっかり、で、受入れ不可になってしまうほど、もったいないことはありませんよね。
そのようなことにならないために、退職時の届出書について、しっかりと理解しておきましょう。
ここでは、特定技能外国人の退職時の届出について、特定技能に精通した行政書士が、1問1答形式で回答します。
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Q:当社で雇用していた特定技能外国人が途中で退職しました。この場合どのような手続きをすればいいでしょうか?(製造業 C社)
A:ご質問ありがとうございます。せっかく雇用した人材が退職してしまうのはとても残念ですね。
特定技能外国人が退職した場合、様々な対応が必要になりますが、中でも、まず初めにおこなう手続きは、入管に対して、以下の2種類の届出を提出することです。
- 参考様式第3-4号 受入れ困難に係る届出書
- 参考様式第5-11号 受入れ困難となるに至った経緯に係る説明書
- 参考様式第3-1-2号 特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書
この2種類の届出について、詳しく見ていきましょう。
参考様式第3-4号 受入れ困難に係る届出書
参考様式第3-4号 受入れ困難に係る届出書の提出期限
受入れ困難に係る届出書は、「受入れ困難の事由が発生した日」から、14日以内に、特定技能所属機関の住所を管轄する地方出入国在留管理局に提出する必要があります。
「受入れ困難の事由が発生した日」とは、「退職した日」ではなく、「退職することが決まった日(わかった日)」のことです。
具体的には、以下の日などが該当します。
- 経営上の理由により解雇の予告をしたとき
- 特定技能所属機関が基準不適合となったとき
- 法人の解散の意思決定がなされたとき
- 重責解雇(労働者の責めに帰すべき事由によるもの)となるような事由が判明したとき
- 自己都合退職の申し出があったとき
- 「特定技能」以外の在留資格へ変更申請をしたとき(引き続き雇用する場合を含む
- 特定技能外国人の病気・怪我により雇用の継続が困難になったとき
- 特定技能外国人が行方不明になったとき
- 個人事業主・特定技能外国人が死亡したとき
特定技能外国人の受入れに関する運用要領より抜粋
自己都合退職の場合は、「5.自己都合退職の申し出があった日」などが該当します。
具体的に例を挙げて説明します。
5月1日に、特定技能外国人から「退職したい」と申入れ(申し出)があったとしましょう。
退職する際は、一定の期間前に退職の申入れをすることが多いので、申入れをしたその日が退職日になるとは限りません。
多くの場合、退職の申入れの後、一定期間が経過した後に退職が成立します。
例えば、退職の申入れが5月1日で、実際の退職日が5月31日だったとします。
この場合、「参考様式第3-4号 受入れ困難に係る届出書」は、退職の申入れがあった5月1日から起算して14日以内=5月14日までに提出する必要があります。
ややこしいので、もう一度整理しましょう。
- 「参考様式第3-4号 受入れ困難に係る届出書」の提出期限は、「受入れ困難の事由が発生した日」から14日以内。
- 「受入れ困難の事由が発生した日」とは、「退職することが決まった日(わかった日)」のことで、「実際に退職した日(退職日)」と異なることがある。
「受入れ困難の事由が発生した日」と、「実際に退職した日(退職日)」を混同してしまう人が多いので、注意してください。
※以下は「受入れ困難に係る届出書」の書式です。
特定技能ビザから他のビザに変更する場合も、「受け入れ困難に係る届出書」の提出が必要
ご質問の内容からは脱線しますが、「受け入れ困難に係る届出書」は、退職以外の事由でも提出が必要な場合があります。
特に注意が必要なのは、上記「6.特定技能以外の在留資格へ変更申請したとき」です。
例えば、A社で特定技能として在留していた外国人が、同じA社で別の在留資格に変更して勤務を続ける場合などです。
このようなケースは実際に起こりえます。
例えば、「技術・人文知識・国際業務」に変更する場合や、配偶者の「家族滞在」になる場合、日本人と結婚して「日本人の配偶者等」になる場合などがあります。
「受け入れ困難に係る届出書」の「受入れ」とは、「特定技能としての受入れ」という意味なので、他の在留資格に変更した場合は「特定技能」ではなくなり、「特定技能としての受入れが困難」になり、その結果、届出書の提出が必要、という考え方ですね。
ですので、退職をしなくても(特定技能から別の在留資格に変更する場合は)、「受入れ困難に係る届出書」を提出する必要があります。
参考様式第5-11号 受入れ困難となるに至った経緯に係る説明書
こちらの書類は、参考様式第3-4号受入れ困難に係る届出書と一緒に提出する必要があります。
受入れが困難になったことの、具体的な経緯や内容を説明するための書類です。
この書類は以前は提出の必要はありませんでしたが、現在(2023年10月時点)では、特定技能外国人の受入れが困難になったときには提出が必須になりました。
参考様式第3-1-2号 特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書
「受け入れ困難に係る届出書」が「退職することが決定してから14日以内」に提出するのに対して、こちらの「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」は、「雇用契約が終了した日」から14日以内に提出します。
「雇用契約が終了した日」がいつなのかという点については、状況によってまちまちです。
「退職することが決定した日」と「雇用契約が終了した日」が同じ日になることもありますし、別の日になることもあります。
前述の例のように、5月1日に、外国人から退職の申し出があって、5月31日に退職した場合などは、「退職することが決定した日」と「雇用契約が終了した日」が別々になります。
この例の場合は、5月31日が「雇用契約が終了した日」となるので、「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」の提出期限は、5月31日から起算して14日以内=6月13日になります。
一方で、5月1日に、外国人から退職の申し出があって、同日付での退職を会社が承認した場合は、
「退職することが決定した日」=5月1日。
「雇用契約が終了した日」=5月1日。
となり、この場合の「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」の提出期限は、5月1日から起算して14日以内=5月14日になります。
※以下は「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」の書式です。
参考様式第3-1-2号 特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書
Q:外国人本人から退職の申し出が無く、失踪(行方不明)になった場合、いつを退職日にしたらいいでしょうか?
A:ご質問のケースのように、退職の申し出そのものが存在しない場合もあります。
失踪(行方不明)の他にも、無断退職、死亡などの場合は退職の申し出はされないまま退職することになりますね。
このように、退職の申し出が存在せず、退職日がわからない(明確でない)場合は、失踪したことが判明した日や連絡が取れなくなった日、あるいは所属機関が退職日と定めた日などを退職日として届出書に記載します。
Q:「受け入れ困難に係る届出書」と「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」を同時に提出しても構いませんか?
A:原則としては、「受け入れ困難に係る届出書」を先に提出します。
しかし、やむを得ない事情がある場合は、「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」を提出する時に、同時に「受け入れ困難に係る届出書」を提出しても差し支えありません。
どちらか一方だけを提出する所属機関が多いですが、入管は両方提出するように求めていますので、両方提出するようにしてください。
Q:退職時に「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」も提出する必要はありますか?
A:これは少しややこしいので整理が必要ですね。
結論から言うと、参考様式第3-3-2「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」は、提出が必要な場合と不要な場合があります。
まず、退職した外国人の支援を登録支援機関に委託していた場合と、そうでない場合で変わってきます。
さらに、登録支援機関に委託していた場合の中でも、提出が必要な場合と不要な場合にわかれます。
パターンとしては大きくわけて4つありますので、順番に見ていきましょう。
1. 登録支援機関に支援を委託していない場合
この場合は、「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」の提出は不要です。
「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」は、登録支援機関に支援を委託している場合に提出が必要な届出ですので、委託していない場合は提出する必要はありません。(当然と言えば党当然ですね。)
2. 登録支援機関に支援を委託している場合
次に、登録支援機関に支援を委託している場合ですが、この場合は、状況によって提出の要不要が変わってきます。
退職した1号特定技能外国人以外に支援委託をしている者がいない場合
退職した1号特定技能外国人以外に支援委託をしている者がいない場合は、「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」の提出が必要です。
例えば、雇用している1号特定技能外国人が1名だけで、その者の支援を登録支援機関に委託していた場合は、その者が退職したことによって登録支援機関との支援委託契約は全部終了することになります。
こういった場合は、「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」を提出する必要があります。
退職した1号特定技能外国人以外に支援委託をしている者がいる場合(複数名について支援委託している場合)
退職した1号特定技能外国人以外に支援委託をしている者がいて、退職者が退職した後も、他の者の支援委託が継続する場合は、「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」を提出する必要はありません。当該退職者については「支援委託契約の終了または締結に係る届出書」を提出する必要があります。(運用要領本体P106>留意事項>白まる3つ目)
支援委託が継続する他の者については、「支援委託契約の終了または締結に係る届出書」の提出は不要です。(随時届QA>Q4-6)
一時帰国のために退職した場合
1号特定技能外国人が、休暇等を利用して一時帰国することがあると思いますが、一時帰国時にいったん雇用契約を終了して退職する場合があります。
このような場合にポイントとなるのは、雇用契約を終了したかではなく、支援委託契約を終了したかどうかです。
支援委託契約を終了した場合は、たとえ一時的な帰国であっても、「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」の提出が必要です。
一方で、支援委託契約を終了せずに継続したまま一時帰国する場合は、「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」の提出は不要です。
以上、4つのパターンで見てみましたが、ポイントとしては、「支援委託が継続しているか終了しているか」という点で考えるとわかりやすいです。
支援委託が継続していれば、提出は不要で、終了していれば提出が必要、と考えてください。
「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」の提出が(本来は)必要だけど省略できる場合
上記で説明した、参考様式第3-3-2「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」の提出が必要なパターンでも、提出が省略できる場合があります。
それは、参考様式第3-1-2「特定技能雇用契約の終了に係る届出書」を提出した場合のうち、同届出書の中で登録支援機関との支援委託契約が終了した旨を記載した場合です。
この場合は、改めて「支援委託契約の終了又は締結に係る届出書」を提出する必要はありません。
Q:「受け入れ困難に係る届出書」や「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」を提出しなかった場合の罰則はありますか?
A:届出書を提出しないと、特定技能所属機関が果たすべき義務を履行しなかったことになりますので、欠格事由に該当して特定技能外国人の受入れができなくなることがあります。
必ず欠格事由に該当するとは限りません。入管が所属機関に事情を聴いたうえで、悪質性が無いと認められて欠格事由に該当しない場合もあります。
しかし、悪質性が無いと認められる保証は無いので、届出書は必ず提出するようにしてください。
Q:入管への届出はわかりました。他に入管以外に届出は必要ですか?
A:はい。特定技能外国人が退職した時は、入管以外にハローワークへの届出が必要です。
具体的には、以下のいずれかの届出をおこなう必要があります。
- 外国人雇用状況の届出
- 雇用保険被保険者資格喪失届
特定技能外国人が雇用保険の被保険者になっていない場合は、1の外国人雇用状況の届出を提出します。
特定技能外国人が雇用保険の被保険者になっている場合は、2の雇用保険被保険者資格喪失届を提出することで、1の提出は省略できます。
特定技能外国人が退職した際のハローワークへの届出について、まとめたのが以下の表です。
雇用保険の被保険者になっていない場合 | 雇用保険の被保険者になっている場合 | |
---|---|---|
≪届出の種類≫ | 『離職に係る外国人雇用状況届出書』 | 『雇用保険被保険者資格喪失届』 |
≪提出先≫ | 当該外国人が勤務する事業所施設の住所を管轄するハローワーク | 雇用保険の適用を受けている事業所を管轄するハローワーク |
≪提出期限≫ | 離職した翌月の末日まで | 離職した翌日から起算して10日以内 |
Q:特定技能外国人がおこなう届出はありますか?
A:あります。前述の届出は特定技能所属機関が提出する届出ですが、それとは別に、特定技能外国人本人が以下の届出を入管に提出する必要があります。
所属機関に関する届出(参考様式1-4(契約の終了))
所属機関との契約が終了した日から14日以内に、特定技能外国人本人が入管に提出してください。
この届出が提出されていないと、その後のビザの変更申請が認められないことがありますので、くれぐれも忘れないようにしてください。
Q:退職後に、別の会社に転職する場合はビザの変更申請は必要ですか?
はい。必要です。
同じ「特定技能」ビザで働く場合であっても、勤務先(特定技能所属機関)が変わった場合は、在留資格変更許可申請をおこなって許可を得る必要があります。
ビザの種類は「特定技能」のままなんですが、「更新許可申請」ではなく「変更許可申請」をすることになります。
在留資格変更許可申請が必要な理由:特定技能ビザは、「指定書」で勤務する会社(特定技能所属機関)が指定されています。
転職した場合は、指定書に記載された所属機関が変わることになるので、転職後の会社を所属機関として、現在とは別の「特定技能ビザ」を申請して許可を得る必要があるのです。
まとめ
以上、特定技能外国人が退職した際に必要な手続きについて解説いたしました。
最後に、もう一度、整理してみましょう。
- 入管(出入国在留管理局)に「届出書」を提出する。
- ハローワークに届出をおこなう。
- 特定技能外国人本人が、入管に「契約機関に関する届出」を提出する。(契約終了から14日以内)
- 退職後に別の会社で働く場合(転職する場合)は、ビザの変更申請が必要。
手続が多くて大変だと思いますが、正しく理解して、適正な外国人雇用に役立ててください。
回答者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367号)