このページをご覧いただいている皆さまの中には、「特定技能」より「技能実習」という言葉をよく耳にされている方も多いのではないでしょうか。
また「外国人雇用」を考えたときに、先に「技能実習」を思い浮かべた方の方が多いかもしれません。
このサイトで紹介している「特定技能」は比較的新しい制度であるため、「特定技能」に比べて歴史の古い「技能実習」の方が広く知れ渡っているのが現状だと思います。
技能実習と特定技能の両制度は、外国人が日本で働くことには変わりないのですが、制度の目的や内容が異なっています。
ここでは、特定技能制度に特化した行政書士が、技能実習と特定技能の違いについて分かりやすく解説します。
Table of Contents
制度の目的~技能実習は国際協力、特定技能は国内の人材不足の解消
それでは早速それぞれの制度の目的を見てみましょう。
両制度は、目的が大きく異なっています。
技能実習制度
まず「技能実習」制度ですが、日本で培った技能、技術又は知識を開発途上地域等に移転し、当該開発途上地域などの経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進が目的とされています。
つまり、対象となる「技能実習生」は開発途上国地域等の出身者が多く、母国において修得が困難な技能や知識を日本で身につけて、そして帰国後、その身につけた技術等を母国で活かしてもらう事が期待されています。(「研修」ではなく、あくまでOJTで仕事を修得していきます)
わかりやすく言うと、「日本で身に着けた技能を母国に持ち帰って、母国の発展に役立ててね」ということです。
特定技能制度
一方「特定技能」制度ですが、特に中・小規模事業者をはじめ深刻化する人手不足の解消のため、国内で人材を確保することが特に難しい14の産業分野(特定産業分野といいます)で、一定の専門性や技能を持っている外国人を受入れることで、人手不足を補うことを目的として作られた制度です。
つまり即戦力となる外国人を受入れて、国内の人手不足の解消を狙っているものです。
「特定技能」の外国人は、技能実習生のように「開発途上国地域等」が対象というわけではありませんが、アジア諸国の開発途上国地域出身の方が多い傾向にあります。
両制度の目的の違い
両制度の目的を一言でまとめると、技能実習制度は「国際協力の一環」のため、特定技能制度は「国内の人材不足解消」のために設けられた制度になります。
技能実習:国際協力の一環であり、労働力不足解消が目的ではない。
特定技能:労働力不足の解消そのものが目的
技能実習は、国先協力が目的であって、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と法律に明記されています。
実際には、技能実習を労働力として活用している現状があり、様々な問題が指摘されていました。
それに対して特定技能は、「人手不足」や「労働力不足」の解消そのものを目的として作られた制度です。
ここが大きな違いです。
特定技能は、政府が公式に「労働力不足の解消」を目的として認めた、初めての在留資格(ビザ)という点で画期的です。
※特定産業分野とは、「介護分野」、「ビルクリーニング分野」、「素形材産業分野」、「産業機械製造業分野」、「電気・電子情報関連産業分野」、「建設分野」、「造船・舶用工業分野」、「自動車整備分野」、「航空分野」、「宿泊分野」、「農業分野」、「漁業分野」、「飲食料品製造業分野」、「外食業分野」の14分野です。
法的根拠が異なる~技能実習は「技能実習法」、特定技能は「出入国管理及び難民認定法」
また、制度の目的のほか、それぞれの制度の法的根拠も異なっています。
技能実習制度は平成5年に始まりましたが、平成29年に技能実習生を保護し、本来の目的に沿った活動が実施できるよう「技能実習法」(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)が定められました。
この「技能実習法」が制定される前には、本来の技能実習制度の目的から逸脱した過酷な労働を課している状況がみられ、様々な問題が生じたことから、「技能実習法」には「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と明記されています。
一方の特定技能制度の法的根拠は「出入国管理及び難民認定法」となります。
在留資格「技能実習」と「特定技能」
続いて、技能実習と特定技能、それぞれの「在留資格」から両制度の違いなどを見てみましょう。
「在留資格」とは、外国人が日本でできる活動別に出入国在留管理庁から発給される資格になります。
在留資格「技能実習」~1号から3号まで~
まず、技能実習ですが、こちらの在留資格には「技能実習1号」「技能実習2号」「技能実習3号」の3酒類があります。
1号、2号、3号の違いは以下のとおりです。
技能実習1号 | 入国後1年目の技能等を修得する活動に従事 |
---|---|
技能実習2号 | 2・3年目の技能等を習熟する活動に従事 |
技能実習3号 | 4・5年目の技能等に熟達する活動に従事 |
つまり、1号から3号の違いは、技能の修得度合いが異なってきています。
ただし3号については、技能実習生を受入れている監理団体や実習実施者が「優良」と認められた場合にのみ受入れ可能という条件があります。
また技能実習生を受入れる方法(企業単独型もしくは団体監理型)(※注)の違いで、在留資格の語尾に「イ」か「ロ」が付きます。
例えば、企業単独型で受入れた場合は、「技能実習1号イ」、団体監理型の場合は「技能実習1号ロ」といったようになります。
技能実習の場合は、3号」まで移行すれば最大で5年間、日本に在留することが可能です。
「1号」から「2号」、「2号」から「3号」に移行する際には、所定の試験に合格することが必要となります。
技能実習の期間中は、単身赴任となり、家族の帯同は認められていません。
※注:「企業単独型」とは、日本の企業等(実習実施者)が海外の現地法人や取引先企業の職員を受入れて技能実習を実習する方法になります。もう一つの「団体監理型」とは、事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受入れ、傘下の企業等(実習実施者)で技能実習を実施する方法になります。
在留資格「特定技能」~1号と2号のみ~
技能実習の在留資格には1号から3号までありましたが、特定技能では「1号」と「2号」のみとなっています。
1号と2号の違いは以下のとおりです。
特定技能1号 | 働こうとする分野で、相当程度の知識又は経験を必要とする業務に従事 |
---|---|
特定技能2号 | 働こうとする分野で、熟練した技能を要する業務に従事 |
こちらも技能実習同様に、技能のレベルによって異なっていますね。
その他、「1号」と「2号」では、以下のような点で異なります。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
---|---|---|
在留期間 | 通算で上限5年まで | 上限期間はなし |
家族帯同 | 基本的には認められない | 要件を満たせば可能(配偶者・子) |
ただし、現在「特定技能2号」の外国人を受入れられる産業分野は限定されており、「建設分野」と「造船・舶用工業分野」のみです。
「特定技能2号」への移行にも所定の試験に合格することが必要ですが、現時点(2021年9月)ではまだ「特定技能2号」の試験実績がなく、今後の動向を注視する必要があります。
特定技能1号は、家族の帯同は認められていませんが、特定技能2号になれば、家族の帯同も認められます。
外国人の要件~特定技能では一定の技能水準が求められる~
それではそれぞれの制度を活用できる外国人の要件についても見てみましょう。
技能実習~帰国後、本国で学んだ技能を活かすこと~
技能実習生の場合、要件の一つに「18歳以上であり、国籍又は住所がある国に帰国後日本で修得した技能等を必要とする業務に従事することが予定されていること」があります。これを「技能移転」と言います。
最初にお話しした制度の目的のとおり、日本で仕事をした後に母国でその経験を活かしてもらうことが目的なので、それが要件として挙げられています。
この「技能移転」の論点は、実務上とても重要です。
技能実習実習修了後は母国に帰国して技能移転をおこなうことが前提ですので、技能実習から他の在留資格への変更は原則として想定されていません。
技能実習2号を良好に修了した者は無試験で特定技能1号に移行することができます。特定技能だけは例外的に技能実習修了者からの移行が認められているのです。
しかし、その他の在留資格には技能実習からの変更はできません。例えば技能実習を修了した後、「技術・人文知識・国際業務」への在留資格変更許可申請(注)をおこなっても、技能移転がなされていないことを理由に不許可になることがあります。
(注)技能実習修了後に母国に帰国して、母国で技能移転をした後で「技術・人文知識・国際業務」の在留資格認定証明書交付申請をおこなう場合は許可(交付)になる余地は充分にあります。
技能レベルについても、母国では修得が難しい技能を日本で得ることが目的の本制度なので、外国人の技能レベルは問われていません。
特定技能~一定の技能・知識水準を満たしていること~
一方で、特定技能の場合は他の在留資格に変更することも可能です。(変更後の在留資格の要件を満たしている場合)
先ほどの例で言うと、特定技能1号で在留中、または修了後に「技術・人文知識・国際業務」への在留資格変更許可申請をおこなった場合、要件を満たしていれば許可になる可能性が高いです。
この違いは実務上とても大きな違いです。
また、特定技能は、即戦力としての活躍が期待されていることから、要件として、その分野での一定水準以上の技能や知識を持っていることが問われます。
この技能レベルを証明するために、各分野で定められた特定技能試験に合格すること、もしくは技能実習2号を良好に修了していることが必要となってきます。
(技能実習のどの職種でも特定技能に移行できるわけではなく、特定技能職種への移行可能な職種・作業が決まっていますので、事前に確認が必要になります。)
また技能のみならず、日本語能力も問われます。(日本語検定でN4レベル以上が求められています)
このように技能実習生はその分野・職種での経験が浅い、又は未経験者が含まれてきますが、特定技能の外国人は即戦力として活躍できるだけの専門性や技術を持っている人材となります。
対象分野・職種~技能実習は「職種」「作業」が定められており、特定技能は人材不足が深刻な14分野が対象~
技能実習制度と特定技能制度、どちらもすべての分野・業種で外国人を受入れられるのでしょうか?
ここで、それぞれの制度で受入れられる分野や業種について見てみましょう。
技能実習は85職種156作業
技能実習制度は、前述のとおり、1号から3号までの在留資格の種類があります。
「技能実習1号」の場合は、分野や業種などの制限はなく受け入れられます。
しかし「技能実習1号」の資格は、入国後1年目の技能を修得するためのものになります。
1年目に修得した技能を更に「習熟」させることを考えると、次の資格となる「技能実習2号」のことを視野に入れておく必要があります。
この「技能実習2号」に移行する場合には、「技能実習1号」から移行できる「職種」と「作業」が定められています。
したがって、現に技能実習を受入れられている企業・事業所等のほとんどが「技能実習2号」の対象「職種」「作業」を見据えて、技能実習生を受入れています。
この「技能実習2号」の対象職種は、2021年3月末時点で、85職種・156作業が定められていますが、どのような職種と作業があるのか、簡単に見てみましょう。
- 農業関係 (2職種 6作業)
- 漁業関係 (2職種10作業)
- 建設関係 (22職種33作業)
- 食品製造関係 (11職種18作業)
- 繊維・衣服関係 (12職種22作業)
- 機械・金属関係 (15職種29作業)
- その他 (19職種35作業)
この中で、特に技能実習生の受入れ人数が多い職種は、①機械・金属関係、②建設関係、③食品製造関係となっています。
さらに、「技能実習2号」から「技能実習3号」に移行する場合にも、「職種」と「作業」の対象が決められています。
「技能実習2号」のすべての「職種」「作業」が対象となっておらず、77職種135作業と少し絞られています。
技能実習生の受入れを考えている企業・事業所の皆様は、事前に対象となっている職種・作業に該当するかどうか確認しましょう。
職種・作業の詳細は、厚生労働省のHPで確認できます。
特定技能は14の産業分野
特定技能外国人を受入れることができる対象分野は、制度の目的のとおり、「国内での人材を確保することが特に難しい分野」となります。
この「国内で人材を確保することが特に難しい分野」として、現在以下の14分野が対象とされています。
- 介護分野
- ビルクリーニング分野
- 素形材産業分野
- 産業機械製造業分野
- 電気・電子情報関連産業分野
- 建設分野
- 造船・舶用工業分野
- 自動車整備分野
- 航空分野
- 宿泊分野
- 農業分野
- 漁業分野
- 飲食料品製造業分野
- 外食業分野
特定技能外国人を雇用したい場合には、技能実習生の受入れ同様、企業・事業所が上述の対象分野に該当するかどうか事前に確認する必要があります。
分野といっても、それぞれの分野の中でどの「業種」が対象となるかも確認が必要となります。
この「業種」は日本標準産業分類に掲げられている業種が基準となっています。
したがって、まずは特定技能外国人を雇用したい企業や事業所が、日本標準産業分類のどの業種に該当するのか、またその業種は特定技能外国人を受入れることができる対象分野に含まれているか、を確認するとよいでしょう。
特定技能外国人の受入れが多い分野は、①飲食業品製造業が最も多く、続いて②農業分野、③建設分野と続いています。
技能実習から特定技能に移行できる職種・作業
技能実習2号を良好に終えた場合、「特定技能」外国人の要件とされる該当産業分野での「技能」「日本語」レベルが一定水準を満たしていると判断され、「特定技能」に移行することができます。つまり無試験で「特定技能」に移行することが可能です。
(技能及び日本語水準が要件を満たしているという事であり、自動的に「特定技能」の在留資格を取得できるわけではなく、技能要件を含めて在留資格の審査は行われますので注意してください。)
しかし技能実習2号を良好に終えたすべての人が要件を満たすわけではありません。
「技能実習2号」は85職種156作業が対象とお伝えしましたが、すべての職種・作業が「特定技能への移行対象」とはなっていません。
たとえば、技能実習の「農業関係」、「漁業関係」、「食品製造関係」は全ての職種と16作業が関連する特定技能分野への移行が可能となっています。
一方、「建設関係」、「機械・金属関係」と「その他」に含まれていた職種・作業については、関連する特定技能分野に移行できるものもありますが、そうでないものもあります。
特に「繊維・衣服関係」の13職種22作業に関しては、特定技能の対象分野には該当しないことから、「繊維・衣服関係」で技能実習2号を良好に修了したとしても、特定技能に移行することはできません。
技能実習から引き続き特定技能での在留を希望する場合は、技能実習時の職種・作業が特定技能に移行できる対象となっているか事前に確認が必要になります。
もし移行対象となっていないけれども、「特定技能」の在留資格で日本で引き続き仕事をしたい場合は、該当産業分野の技能試験と日本語試験に合格し、要件を満たす必要があります。
外国人材受け入れの流れや必要な手続きについて
それぞれの制度で、必要な手続きが異なってきます。
受入れ前から受入後の流れに沿って、それぞれの制度で必要な手続きを見てみましょう。
技能実習制度の受入れの流れと主な手続き
受入れ方法・実習開始までの流れ
技能実習制度の場合は、外国人の受入れ方法は二つのタイプがあり、実習開始までの流れは下図のようになっています。
①企業単独型:日本の企業等が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受入れて技能実習を実施するタイプ
出典 厚生労働省「外国人技能実習制度の現状、課題などについて」(平成30年3月23日)
②団体監理型:非営利の監理団体(事業協同組合、商工会等)が技能実習生を受入れ、傘下の企業等で技能実習を実施するタイプ
出典 厚生労働省「外国人技能実習制度の現状、課題などについて」(平成30年3月23日)
両タイプの違いは、主に外国人の対象者を自社の関連企業等から受入れるか、海外の「送出し機関」を通して人材を選定し、日本の「監理団体」を通して受入れるか、が大きな違いとなります。
ちなみに送出し機関とは技能実習生を派遣する団体、監理団体とは技能実習生を受入れ、その活動や受入機関へのサポート等を行なう非営利の団体になります。
現在の技能実習の約9割が、②団体監理型で行われています。
「実習計画」の認定
手続きの面で、どちらのタイプで受入を行った場合にも共通する重要なポイントがあります。
それは「実習計画」の作成・申請とその認定です。
「実習計画」とは、技能実習をどのように進めていくかを具体的に定めた計画書になりますが、技能実習が適正に実施されるよう、技能実習生を受入れる機関(実施機関)に作成が義務付けられているものです。
この実習計画は、事前に「外国人技能実習機構」から認定を受けること必要となっています。
また実習計画の審査に合わせて、受入れ機関(実施機関)の欠格事由も問われるため、そのための添付書類の提出も求められています。
審査には、1~2カ月かかるとされています。(ちなみに技能実習の開始予定日の6か月前から申請できます)
※「実習計画」作成・申請に必要な書類等の詳細は、外国人技能実習機構(OTIT)のHPをご参照ください。
在留資格の申請
「実習計画」の認定を受けた後、地方出入国管理局に在留資格の申請手続きをする必要があります。
技能実習の場合は、新規に外国から入国するパターンが大半となりますが、その場合は「在留資格認定証明書交付申請」の手続きが必要となります。
審査には1カ月程度かかるとされていますので、上述の「実習計画」の認定と合わせて、実習開始時期に間に合うよう余裕を持った準備が必要となります。
1号の場合は新規入国になりますが、2号の場合は新規入国の場合と、既に別の在留資格に入国しており、既存の在留資格から技能実習に「変更」という場合が考えられます。
既に別の在留資格で入国しており、技能実習に移行する場合は「在留資格変更許可申請」の手続きが必要となります。
同じく1号から2号、2号から3号に移行する場合も「在留資格変更許可申請」の手続きが必要となります。
これらの「変更」申請手続きにも1~2カ月ほどかかります。
受入れ後
実際に技能実習生が入国して受入れが始まった後に必要となる主な手続きは以下のとおりです。
①実習実施者届出書(受入機関)
受入後の手続きとして、まず初めて技能実習生を受入れて実習を行う場合には、受入機関が「実習実施者届出書」を提出する必要があります。提出先は外国人技能実習機構の地方事務所・支所の認定課になります。
(既に本届出の受理書を受け取っている場合には提出不要です)
②実施状況報告書(受入機関)
続いて年に1度、「実施状況報告書」を提出する必要があります。
これは受入機関が作成する実施体制、実習生の労働条件、行方不明者の発生状況等を報告する書類となります。
提出時期は毎年4~5月末で、こちらも提出先は外国人技能実習機構の地方事務所・支所の認定課になります。
③技能実習計画軽微変更届出書(受入機関)
これは、認定された「実習計画」に変更が生じた場合に必要な随時の届出になります。(変更事由発生後1カ月以内の提出)
ただし「軽微」な変更のみで、技能実習目標の変更や職種・作業の変更、管理団体の変更等技能実習に大きな影響を与えうる変更については、「変更認定」が必要となります。
④その他の届出等
①~③までは受入機関が提出する必要がありますが、「監理団体」を通している場合は、監理団体が受入機関に対する監査等を行った上で、以下の届出等を提出します。
- 「監査報告書」…3か月に1度、受入機関に対して監査を行い、報告書を作成・提出します。
- 「事業報告書」…年に1度、受入機関に関する実習実施体制や実習生の技能検定受験状況等の実施状況を確認し、報告書を作成・提出します。
「技能実習実施困難時届出書」…随時の届出ですが、受入機関の倒産や経営等の体制の変更、技能実習生の失踪等が原因で実習を継続することが困難になった場合、問題発生後すぐに提出する必要があります。
特定技能制度の受入れの流れと主な手続き
次に特定技能制度の受入れの流れと主な手続きについて見ていきましょう。
受入れ方法
技能実習では、受入れ方法が2種類ありました。そしてその多くが海外の「送り出し機関」そして国内の「監理団体」を通したものとなっています。
特定技能は、技能実習のような「送り出し機関」や「監理団体」を通さず、受入れることが可能です。
(ただし、日本と「特定技能に係る協力覚書を結び、その中で認定された「送出し機関」を通して受け入れることについて定めがある場合は、それに従う必要があります。)
したがって、多くの場合は受入れ企業・事業所が国内外で独自もしくは人材派遣会社等を通して人材確保を行うことになります。(建設分野では、有料人材派遣会社を通しての雇用は禁止されており、独自の求人方法が定められています。詳細は、当サイトの「建設分野における特定技能ビザ人材活用」をご参照ください。)
現状では、技能実習生として既に雇っていた外国人を引き続き特定技能として雇用するというパターンが多いです。
新規に海外にいる外国人を雇用する場合には、その外国人が「特定技能の要件」(技能試験や日本語試験に合格しているか等)をしっかり確認することが必要になります。
在留資格の申請前に必要な手続き
技能実習では、在留資格の申請の前に「実習計画」の認定が必要でしたが、特定技能では分野にとって異なってきます。
例えば建設分野では、在留資格申請前に「建設特定技能受入計画」の認定を受ける、特定技能外国人受入事業実施法人等への加入、建設キャリアアップシステムへの登録が必要です。
その他、分野によって各分野で定められている協議会への事前加入が必要な場合があります。
該当する分野で在留資格の申請前に必要な手続きについて事前に調べておくとスムーズです。(当サイトの「各分野での外国人雇用支援」で分野別の詳細情報を記載していますので、こちらもご参照ください。)
在留資格の申請
1号特定技能外国人を受入れる際には「1号特定技能外国人支援計画書」の提出が在留資格の申請時に必要となります。
技能実習制度では「実習計画」が必要でしたが、特定技能制度の場合は、外国人が日本で円滑に業務に従事し、日常生活を送れるよう受入機関には外国人を支援することが義務付けられています。
この外国人支援は自社で行うことも可能ですが、出入国在留管理庁に登録されている「登録支援機関」に委託して実施することも可能です。
在留資格申請時には、「1号特定技能外国人支援計画書」の提出のほか、外国人の支援を自社で行う場合には支援体制が整っていることを証明する書類、登録支援機関に委託する場合には契約内容などを証明する書類の提出が必要となります。
審査期間は、1~3か月程度要しますので、余裕をもって準備をする必要があります。
受入れ後
技能実習同様に、定期的・随時の届出や報告が必要となります。
以下の届出は四半期ごとに受入機関が届出をする必要があります。
- 受入れ状況に係る届出
- 支援実施状況に係る届出(登録支援機関に支援を委託している場合は、登録支援機関が提出)
- 活動状況に係る届出
次の届出は、随時の届出となり、事由が生じた日から14日以内の届出が必要です。
- 特定技能雇用契約に係る届出
- 支援計画変更に係る届出
- 支援全部委託契約に係る届出
- 受入れ困難に係る届出
- 出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為(不正行為)に係る届出
【共通・重要】労働施策総合推進法に基づく届出~外国人雇用状況の届出~
技能実習・特定技能ともに定期的な手続き、随時の手続きがありました。
両方とも定められた手続きを怠ったり、虚偽の届出・報告をした場合には罰則の対象にもなりますので、事前にどのような手続きをしなければならないのかをしっかり把握しておきましょう。
そして、両制度に関係なく技能実習生・特定技能外国人を含む外国人(特別永住者及び在留資格「外交」・「公用」で在留する者以外)を雇れるときには必ずハローワークに「外国人雇用状況の届出」を提出することが義務付けられています。
対象となる外国人が「雇用保険の被保険者となるか否か」で使用する様式や届出先となるハローワーク、提出期限が異なってきますので、下表を参照してください。
雇用保険の被保険者となる場合 | 雇用保険の被保険者とならない場合 | |
---|---|---|
届出の種類 | 『雇用保険被保険者資格取得届』 | 『外国人雇用状況届出書(様式第3号)』 |
届出先 | 雇用保険の適用を受けている事業所を管轄するハローワーク | 当該外国人が勤務する事業所施設の住所を管轄するハローワーク |
届出期限 | 被保険者となった日の属する月の翌月10日まで | 雇入れた翌月の末日まで |
この届出を怠ると30万円以下の罰金が科せられますので、忘れず対応しましょう。
なお離職時にもそれぞれ届出が必要になりますので、こちらも忘れずに。
両制度の異なる特徴~受入れ人数、転職の可否、在留期間、費用等~
これまで目的、在留資格、外国人の要件、手続き等の側面から両制度の特徴を見てきました。
しかし実際の雇用を検討するにあたってのもっと具体的な検討材料を知りたい方も多いと思いますので、どちらで雇用したらよいかを判断する際のキーポイントをいくつか絞って説明したいと思います。
受入れ人数
技能実習と特定技能では、受入れられる人数が異なってきます。
技能実習には、下表のとおり、受入れ機関(実習機関)の常勤職員総数に応じて、受入れられる人数が決まっています。
技能実習生に対して適切に技術指導が行われるよう考慮された人数となっています。
出典:JITCO(公益財団法人国際人材協力機構)HP「外国人技能実習制度とは」
一方、特定技能に関しては、原則として受入人数に制限はありません。
ただし介護分野と建設分野は例外として制限があります。
介護分野では、「事業所で受入れることができる1号特定技能外国人は、事業所単位で、日本人等の常勤介護職員の総数を上限とする」こととされています。
また建設分野においても、「1号特定技能外国人の総数と外国人建設就労者の総数の合計が、受入機関の常勤職員の総数を超えてはならない」とされていますので、注意しましょう。
転職の可否
転職についても両制度で違いがあります。
技能実習は、目的が「実習」であるため、「転職」はできません。(ただし実習機関が倒産する等の事態が生じた場合等、実習機関の変更「転籍」があり得ます。)
一方、特定技能制度では、同一分野内であれば転職が認められています。
ただし同じ分野内であっても求められている技能が異なる業務がある場合もあるため、その場合には分野内に定められている「業務区分」内という制限が加わってきます。
技能実習と特定技能の在留期間
技能実習は、技能実習1号の1年間と技能実習2号の2年間を合わせて、合計3年間、技能実習3号に進んだ場合は技能実習3号の2年間も合わせると合計で5年間、日本に在留することができます。
それに対して、特定技能は、特定技能1号の通算在留期間として、5年間、日本に在留することができます。
技能実習1号から3号までの5年間と、特定技能1号の5年間、この比較で見ると、どちらも同じです。
しかし、特定技能には、特定技能2号が設定されています。
特定技能2号に進んだ場合は、ビザの更新は必要ですが、原則として無期限に日本で就労することが可能になります。
ここが、最も大きな違いです。
さらに言うと、技能実習の場合、一度、技能実習生として日本で実習期間を修了した外国人は、再び技能実習生として実習をおこなうことはできません。
つまり、一度、実習期間が修了した技能実習生を、もう一度技能実習生として受入れることは、原則としてできない、ということです。
もっとも、これは特定技能1号の場合も同じです。
特定技能1号の通算在留期間5年を満了した外国人は、再び特定技能1号になることはできません。
しかし、前述の通り、特定技能2号になった場合は、無期限に日本で就労することが可能になります。
だから、特定技能2号になれれば、ずっと日本で就労することができます。
以上の点を、整理すると以下のようになります。
- 技能実習:技能実習1号から技能実習3号までの在留期間は5年間。技能実習が修了した後は、原則として、再度技能実習はできない。
- 特定技能:特定技能1号の通算在留期間は5年間。特定技能1号の5年間を満了した後は、再度特定技能1号はできない。しかし、特定技能2号になれば、無期限で在留が可能。(ビザの更新許可申請は必要)
監理団体と登録支援機関
上述の説明のとおり、技能実習生受入れの多くが監理団体を通したものになっており、監理団体が技能実習実施団体(受入機関)の監理を行い、技能実習生や受入機関のサポートを行っています。
一方特定技能では、受入機関が1号特定技能外国人を日常的・継続的に支援する義務を負っていますが、受入機関が自社でできない場合は「登録支援機関」に委託することができます。
監理団体は「非営利」である必要がありますが、「登録支援機関」は所定の要件を満たせば、営利・非営利は問われません。また法人でも個人でも登録支援機関になることは可能です。
「登録支援機関」として登録されている団体の中には「監理団体」も多く含まれています。
したがって技能実習生を監理団体を通して既に受入れており、その監理団体が登録支援機関としても登録されているのであれば、引き続き特定技能外国人の支援をお願いすることも可能になります。
費用
技能実習では、監理団体を通す場合、まず監理団体への入会が必要となります。
そのため監理団体への入会費や年会費が発生してきます。金額は監理団体によって差はありますが、入会費・年会費がそれぞれ1~10万円程度かかってきます。
また技能実習生を受入れた後は、法定研修を実施する必要があり、10万円程度必要となります。
受入れ後は、監理団体への監理費が受け入れ人数に応じて必要となります。一人当たり月額2万~5万程度となっています。
この月々の監理費は、受け入れ人数が多い場合、安くなる傾向があります。
一方、特定技能に関しては、監理団体はありませんが、受け入れる特定技能外国人の支援を登録支援機関に委託する場合には、委託費がかかってきます。
登録支援機関に委託する場合は、こちらも一人当たり月額2万~5万円程度かかってきます。
自社で支援を行う場合はこの委託費はカットできますが、支援を行う人材を確保する必要があるので人件費に換算してどちらが効率的か検討すると良いでしょう。
そのほか、特定技能では分野別協議会への加入が義務付けられており、協議会によっては入会金や会費が必要になる場合があります。
技能実習および特定技能に共通して、在留資格の申請等の諸手続きに係る費用、給与、そして社会保険料も必要になってきます。
技能実習制度と特定技能制度のまとめ
最後に、技能実習制度と特定技能制度についてポイントを整理しておきましょう。
外国人雇用を検討する際の参考にしてください。
- 技能実習は「国際協力」、特定技能は「国内の人材不足の解消」が目的
- 技能実習は「技能実習法」、特定技能は「出入国管理及び難民認定法」で定められている
- 技能実習生は、日本で技能等を学び本国でその技能を活かすことが期待されている。一方で特定技能外国人は、日本で即戦力として活躍することが期待されている
- 技能実習と特定技能両方とも、外国人を受入れられる分野・職種等が決まっている
- 技能実習2号を良好に修了していれば特定技能への移行が可能(ただし移行可能職種は決まっている)
- 技能実習の場合は、事前に「実習計画」の認定を受けてから在留資格を申請する。特定技能の場合は、在留資格申請時に「1号特定技能外国人支援計画」の提出が必要。
- 両制度とも受入後は「外国人雇用状況の届出」をハローワークに提出する必要がある
- 制度の活用を検討する場合には、受入人数や転職の可否、費用などの面も検討材料となる