現在、外国人が日本に滞在するためには、「在留資格」が必要です。
この在留資格は明治時代以降、諸外国との交流が盛んになるにつれて必要性が高まり、法整備が進められてきたのです。
それからの在留制度は、時代背景や社会情勢、経済成長、国際交流の増加などに伴い、在留資格の種類や内容も変化し続けています。
このような制度の始まりから現在までの流れを理解することで、在留資格の重要性とその進化を知ることができます。
本記事では、在留資格の歴史を紐解きながら、現在の制度の概要、そして今後の課題まで、わかりやすく解説します。
目次
そもそも在留資格って何?
日本に滞在する外国人は、「在留資格」と呼ばれる資格が必要です。これは、日本で何をすることができるか、どれくらい滞在できるかを定めたものです。
もう少し詳しく説明すると、入管法(正式には「出入国管理及び難民認定法」と呼ばれます)という法律で、外国人が日本で滞在するために必要なルールが決められています。
この法律では、滞在できる目的や期間に応じて、38種類の在留資格が定められています。
例えば、「留学」の在留資格なら、学生として一定の期間、日本で勉強することができ、就労系の在留資格(「特定技能」「技術・人文知識・国際業務」など)なら、定められた仕事に就くことができます。
在留資格を取得するには、入国管理局に申請する必要があります。必要な書類を揃えて、手数料を支払わねばなりません。また、在留資格は無期限ではありませんので、有効期限が切れる前に更新する必要があります。
日本の在留制度の歴史
それでは、日本の在留制度はどのような流れで発展してきたのでしょうか。次に、その歴史を見ていきましょう。
日本の在留制度はいつから始まった?
日本の在留制度の歴史は、明治時代にさかのぼります。明治維新後、日本は西洋諸国との交流が盛んになり、多くの外国人が訪れるようになりました。これに伴い、外国人の入国や滞在を管理するための法整備が進められました。
しかし、この頃の在留制度はかならずしも明確ではありませんでした。明治時代から第二次世界大戦前までは、外国人の入国や滞在に関する統一された法令や規則は存在せず、個別の状況に応じてケースバイケースで対応されていたのです。
その後第二次世界大戦を経て、終戦後の1947年(昭和22年)に、ポツダム宣言にともなう法令として「外国人登録令」が発令されました。
この時期の日本はGHQの統治下にあったため、外国人の出入国の可否の決定権はGHQがにぎっていました。
その後1949年(昭和24年)には外務省に入国管理部が設置され、段階的に入国管理の体制が整えられてゆくことになります。
そして、終戦から6年後の1951年(昭和26年)に、現在の在留資格制度の基礎となる法令「出入国管理令」が公布、施行されることとなります。
これによって、外国人の出入国に関する決定権が、GHQから日本に移ることとなり、日本の主権による出入国管理が開始されます。
また、ケースバイケースで対応していた戦前の在留制度とは変わって、統一されたルールが確立され、現在の在留資格制度の基盤が形成されました。出入国管理令の施行は、日本に滞在する外国人にとっての重要な転機となり、現在の在留資格制度に繋がることになります。
過去の在留資格と流れ
1951年(昭和26年)の出入国管理令の施行以降、日本の在留制度は時代背景や社会情勢に合わせて、大きく4つの時期に分けて変遷してきました。
それぞれの時期における法令の制定や施行などとその概要、そして年表形式でまとめた在留資格の変遷表を以下に示します。
第一期:外国人管理の始まり(1947年~1980年)
年 | 法令の制定や施行など | 概要 |
1947年(昭和22年) | 「外国人登録令」の制定 | GHQの占領下、ポツダム宣言に伴い発令。外国人は入国後60日以内に市町村に登録されることになる。 |
1949年(昭和24年) | 外務省に入国管理部を設置 | 入国管理の体制が整えられることになる。 |
1951年(昭和26年) | 「出入国管理令」の施行 | 現在の在留資格制度の基礎となるもの。16種類の在留資格が設定されました。(※1) |
※1「出入国管理令」では全部で16種類の在留資格が設定されました。
1.外交官等
2.日本国政府の承認した外国政府又は国際機関の公務を帶びる者
3.通過しようとする者
4.観光客
5.貿易・事業・投資従事者、
6.研究・教育を受けようとする者
7.研究の指導、教育をおこなおうとする者
8.音楽、美術、文学、科学その他の芸術上又は学術上の活動を行おうとする者
9.演劇、演芸、演奏、スポーツその他の興業を行おうとする者
10.宗教上の活動を行うために外国の宗教団体により本邦に派遣される者
11.外国の新聞、放送、映画その他の報道機関の派遣員として本邦に派遣される者
12.産業上の高度な又は特殊な技術又は技能を提供するために本邦の公私の機関により招へいされる者
13.もつぱら熟練労働に従事しようとする者
14.永住しようとする者
15.第五号から第十三号までの各号の一に該当する者の配偶者及び未成年の子で配偶者のないもの
16.前各号に規定する者を除く外、外務省令で特に定める者
この時代は、第二次世界大戦後の混乱期から高度経済成長期にかけての時期です。 外国人の流入が急増し、出入国管理令の施行に伴い、在留資格制度が本格的に運用され始めました。
第二期:高度経済成長期の外国人労働者受け入れ(1981年~1993年)
年 | 法令の制定や施行など | 概要 |
1981年(昭和56年) | 「出入国管理及び難民認定法」に改正 | 難民条約・難民議定書に加盟。務省入国管理局が難民認定を管理することになる。 |
1982年(昭和57年) | 改正「出入国管理及び難民認定法」が施行 | 外国人研修生の在留資格が創設される。 |
1990年(平成2年) | 改正「出入国管理及び難民認定法」が施行 | 在留資格を再編成。10の在留資格が新設。「人文知識・国際業務」「短期滞在」「日本人の配偶者等」などと具体的に表示される。 |
1993年(平成5年) | 技能実習制度の創設 | 特定活動に「技能実習」追加。技能実習生の受け入れが始まる。 |
高度経済成長期を迎えた日本は、深刻な人手不足に直面し、海外からの労働者受け入れが本格化しました。
第三期:バブル崩壊後の外国人労働者受け入れと多文化共生社会への移行(1994年~2004年)
年 | 法令の制定や施行など | 概要 |
1998年(平成10年) | 改正「出入国管理及び難民認定法」が施行 | 入管法で定められている「旅券」の定義が拡大される。 |
2004年(平成16年) | 在留資格取消制度の創設 | 治安に対する国民の不安に対応するため在留資格取消制度などが創設された。 |
2005年(平成17年) | 改正「出入国管理及び難民認定法」が施行 | 密入国議定書の締結等に伴う罰則等の整備、テロの未然防止のための整備などが盛り込まれる。 |
2006年(平成18年) | 改正「出入国管理及び難民認定法」が施行 | テロの未然防止のための規定、出入国管理の一層の円滑化、などが盛り込まれる。 |
バブル崩壊後の経済低迷と少子高齢化社会の進展により、外国人労働者の受け入れが拡大しました。 また、多文化共生社会の実現に向け、さまざまな取り組みも始まりました。
第四期:多様なニーズに対応した在留資格制度の整備(2008年~現在)
年 | 法令の制定や施行など | 概要 |
2008年(平成20年) | 「留学生30万人計画」骨子の策定 | 2020年を目途に30万人の留学生受入れを目指す。 |
EPA(経済連携協定)に基づく外国人看護もしくは介護の有資格者の受け入れ開始 | インドネシア、フィリピン、ベトナムの3か国から受け入れ。日本の介護福祉士資格取得を目指す。 | |
2009年(平成21年) | 改正「出入国管理及び難民認定法」が施行 | 在留資格「留学」「就学」が一本化される。 |
在留資格「技能実習」が創設 | それまで技能実習は特定活動であった。労働関係法令が適用されるように。 | |
2012年(平成24年) | 高度人材ポイント制の導入 | 高度外国人材の受入れを促進するため。出入国在留管理上において優遇措置を講ずる。 |
2014年(平成26年) | 在留資格「高度専門職」の創設 | 在留資格「高度専門職1号(イ)(ロ)(ハ)」「高度専門職2号」。高度人材ポイント制の導入を受け。 |
2016年(平成28年) | 在留資格「介護」の創設 | 介護福祉士の資格を有する外国人が介護業務に従事するための在留資格。 |
2018年(平成30年) | 「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立。 | 「特定技能1号(人材不足の産業における外国人向けの在留資格)」「特定技能2号(同分野で熟練した技能を有する外国人向けの在留資格)」が追加。 |
このように、日本の在留資格制度は時代とともに変化し、外国人が日本で活動するための枠組みが整備されてきました。過去の在留資格は、当時の社会的背景やニーズに応じて設けられ、その後の変遷を経て現在の制度へと発展しています。
日本の現在の在留資格
2024年6月現在、日本の在留資格は38種類設けられています。
これは、1951年の入管法施行当初から大幅に増加しており、時代の変化や社会情勢の変化に合わせて、多様なニーズに対応した制度へと進化したのです。
過去の在留資格と比較すると、現在の在留資格制度には以下のような特徴があります。
- 高度な専門人材の受け入れを強化:「高度専門職」を創設するなどの在留資格を拡充し、外国人の活躍の場を広げています。
- 技能実習生の制度を整備:技能実習制度を創設し、開発途上国等からの技能実習生を受け入れ、日本の技術を習得させる機会を提供しています。さらに今後は『育成就労制度』に移行される予定となっています。
- 家族の滞在を促進:家族滞在の在留資格要件を緩和し、外国人の家族が安心して日本で暮らせる環境を整えています。
- 多様な活動に対応:芸術、興行、宗教など、様々な活動に対応した在留資格を設けています。
これらの特徴は、日本の国際化やグローバル化の進展、少子高齢化社会の進展、多文化共生社会の実現に向けた取り組みなどを反映したものです。
日本の在留資格の今後
日本の在留資格制度は、これまで見てきたように、時代や社会情勢に合わせて大きく変遷してきました。今後も、少子高齢化の進展、労働力人口の減少、国際社会の変化などを背景に、在留資格制度はさらに変化していくことが予想されます。
考えられる変化としては、以下のようなものが挙げられます。
①労働力不足への対応
日本は少子高齢化が進んでおり、労働力不足が深刻な問題となっています。このため、外国人労働者の受け入れがますます重要になると考えられます。特に「特定技能」資格のように、特定の産業で即戦力となる外国人の受け入れが強化されるでしょう。
②高度専門人材のさらなる受け入れ
AI、ロボット工学、バイオテクノロジーなどの分野における高度専門人材のニーズが高まると考えられ、これらの分野における人材受け入れを促進するための在留資格制度の整備が進む可能性があります。グローバルな競争が激化する中で、技術や知識を持つ高度な人材の受け入れも一層推進されるでしょう。「高度専門職」や「技術・人文知識・国際業務」資格の利用が増えることが予想されます。
③多様な人材の活躍の場拡大
介護、観光、飲食など、様々な分野で外国人労働者の活躍が期待されています。これらの分野における人材受け入れを促進するための在留資格制度の整備や、外国人労働者の技能向上のための支援策の拡充などが進む可能性があります。
④多文化共生社会の実現
日本国内には、様々な国籍を持つ人々が暮らしています。多文化共生社会の実現に向けて、外国人に対する理解促進や、外国人住民の生活支援などが進められるとともに、在留資格制度についても、より柔軟で多様なニーズに対応できるような方向に改められる可能性があります。
在留資格制度の運用の課題
一方で、在留資格制度の運用に当たっては、以下のような課題も指摘されています。
①技能実習生の処遇
技能実習制度については、長時間労働や低賃金などの問題が指摘されています。これらの問題を解決し、技能実習生が安心して日本で働ける環境を整えることが重要です。
②在留資格の柔軟性と迅速性
現在の在留資格制度は、多様である一方で、手続きの煩雑さや審査の時間が課題となっています。今後は、より柔軟で迅速な対応が求められるでしょう。
③日本社会との調和
外国人が日本社会に適応し、共に生活していくためには、日本社会との調和が重要です。文化の違いや言語の壁を乗り越えるためのサポート体制が求められます。
④不法滞在
不法滞在者の数は依然として多く、社会問題となっています。不法滞在者の流入を抑制するための対策とともに、不法滞在者に対する支援策も充実させる必要があります。
これらの課題を解決し、より公平で効果的な在留資格制度を構築していくことが、今後の日本の社会にとって重要となります。
まとめ
この記事では、日本の在留資格制度の歴史、流れ、現状、そして今後の展望について詳しく解説しました。
日本の在留制度は、1951年の入管法施行以来、時代や社会情勢に合わせて大きく変遷してきました。現在では38種類にまで増え、より多様なニーズに対応できるような制度へと進化しています。
日本の在留資格制度は、外国人と日本社会の双方にとって重要な役割を果たしています。歴史を理解し、現在の制度を適切に利用し、今後の展望と課題に対応することで、安心して日本での生活を送ることができるのではないでしょうか。
執筆者 行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)