特定技能12分野のなかで特定技能2号の受入れ対象となっているのは、造船・舶用工業分野と建設分野だけです。
また造船・舶用工業分野は、特定技能12分野のなかでも受入れ人数が少ない分野なので、情報も少なく、受入れに悩まれている事業者さんも多いかと思います。
ここでは特定技能の受入れサポートの実績を持つ行政書士が、特定技能1号の受入れから2号の取得方法など、造船・舶用工業分野のよくある質問にわかりやすく解説します。
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従事可能な業務
Q:造船・舶用工業ではどのような仕事に従事できますか?
A:造船の業務内容は、マーケティング、営業、設計、開発、製造、資材調達など多岐にわたりますが、特定技能外国人が従事するのは製造の仕事です。
特定技能の造船・舶用工業分野の仕事は業務内容ごとに6つの区分に分けられており、特定技能を取得した区分内の業務に従事することになります。
造船・舶用工業分野の業務区分と業務内容については下の表で確認してみてください。
業務区分 | 業務内容 |
---|---|
溶接 | 手溶接 半自動溶接 |
塗装 | 金属塗装作業 噴霧塗装作業 |
鉄工 | 構造物鉄工作業 |
仕上げ | 治工具仕上げ作業 金型仕上げ作業 機械組立仕上げ作業 |
機械加工 | 普通旋盤作業 数値制御旋盤作業 フライス盤作業 マシニングセンタ作業 |
電気機器組立て | 回転電機組立て作業 変圧器組立て作業 配電盤・制御盤組立て作業 開閉制御器具組立て作業 回転電機巻線製作作業 |
区分をまたがって業務に従事することはできませんが、資材の運搬や清掃等の関連業務については区分に関係なく、同じ業務に従事する日本人が通常おこなっていれば従事可能です。
ただし溶接や機械加工など、主な業務に関連する業務として付随的におこなわなければいけません。
特定技能の取得
Q:特定技能外国人となるための要件は何ですか?
A:造船・舶用工業分野で特定技能1号として働くには、試験に合格するか技能実習から移行する方法があります。
それぞれの要件を解説しましょう。
試験に合格する
日本語試験と技能試験に合格すると特定技能1号を取得できます。
① 日本語試験:「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験N4以上」
② 技能試験:「造船・舶用工業分野特定技能1号試験」または「技能検定3級」
技能試験は業務区分ごとの試験になるため、合格した区分で特定技能の在留資格の申請をおこないます。
業務区分に対応した試験区分については下の表で確認してみてください。
業務区分 | 試験区分 |
---|---|
溶接 | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(溶接) |
塗装 | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(塗装) または 技能検定3級(塗装) |
鉄工 | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(鉄工) または 技能検定3級(鉄工) |
仕上げ | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(仕上げ) または 技能検定3級(仕上げ) |
機械加工 | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(機械加工) または 技能検定3級(機械加工) |
電気機器組立て | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(電気機器組立て) または 技能検定3級(電気機器組立て) |
溶接区分については技能検定が実施されていないため、特定技能1号試験を受験し合格する必要があります。
造船・舶用工業分野特定技能1号試験は、学科試験と実技試験がそれぞれ日本語でおこなわれます。
試験の内容は試験区分によって異なるため、ここでは溶接の試験内容を簡単にご紹介しましょう。
学科試験:真偽選択法(〇×式)、安全衛生一般、 溶接に関する知識・技能
実技試験:溶接施工要領書等に基づき試験材を片面突き合わせ溶接
学科試験は正答率60%以上で合格、実技試験は「外観検査」及び「曲げ試験」をおこない判定します。
なお、実技試験の内容を承認範囲に含む日本海事協会の有効な溶接技量資格を有していれば、実技試験は免除されます。
技能実習から移行する
技能実習2号を良好に修了すると特定技能1号に移行できます。
技能実習2号で造船・舶用工業と関連のある作業を修了した場合、特定技能1号として必要な技能水準や日本語水準を満たしていると認められるため、上記の①日本語試験、②技能試験免除で移行可能です。
その一方で、技能実習2号で造船・舶用工業と関連のない作業を修了した場合には、①日本語試験は免除されますが②技能試験については、別途受験し合格する必要があります。
造船・舶用工業分野では技能実習生の受入れが多くおこなわれているため、技能実習から特定技能へ移行するパターンが圧倒的に多いのが特徴です。
Q:技能実習で溶接作業に従事していた外国人が、特定技能の塗装に移行できますか?
A:溶接作業から塗装区分に移行するには、塗装区分の技能試験を受験し合格する必要があります。
溶接作業で技能実習2号を良好に修了した場合、無試験で移行できる造船・舶用工業の業務区分は溶接に限定されます。
技能実習2号の職種と造船・舶用工業の業務区分の関係について下の表にまとめました。技能実習2号の職種と特定技能1号の業務区分が同じ場合に無試験で移行できると考えればよいでしょう。
技能実習2号 | 特定技能1号業務区分 | |
---|---|---|
職種 | 作業 | |
溶接 | 手溶接 半自動溶接 |
溶接 |
塗装 | 金属塗装作業 噴霧塗装作業 |
塗装 |
鉄工 | 構造物鉄工作業 | 鉄工 |
仕上げ | 治工具仕上げ作業 金型仕上げ作業 機械組立仕上げ作業 |
仕上げ |
機械加工 | 普通旋盤作業 数値制御旋盤作業 フライス盤作業 マシニングセンタ作業 |
機械加工 |
電気機器組立て | 回転電機組立て作業 変圧器組立て作業 配電盤・制御盤組立て作業 開閉制御器具組立て作業 回転電機巻線製作作業 |
電気機器組立て |
ご質問のケースのように、技能実習と関連のない区分で特定技能に移行する場合には、区分に対応した「造船・舶用工業分野特定技能1号試験」または「技能検定3級」に合格する必要があります。
また、溶接作業で技能実習2号を良好に修了した外国人は、造船・舶用工業以外にも素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野や建設分野に移行することが可能です。
Q:技能試験はどこで受験できますか?
A:技能検定は年に2回、日本全国で実施しています。詳しい実施状況については各都道府県の職業能力開発協会のホームページで確認してください。
特定技能1号試験は通常、各分野を管轄する省庁や団体が国内外で指定した日時に受験者を募集しておこなっていますが、造船・舶用工業分野の場合は少し異なります。
造船・舶用工業分野特定技能1号試験については、申請者が希望する場所に試験監督者を派遣して随時おこなう出張試験方式と、試験実施団体が会場や設備を準備し日時を指定しておこなう集合方式がありますが、集合方式は1年に1回しか実施していません。
出張試験方式の場合、申請者が実施場所の確保、機械設備・試験用機材の準備をする必要があります。
また、試験をおこなう前に試験実施場所の調査などで期間を要するため、受験を希望する場合は試験希望日の3ヵ月前に実施団体である一般財団法人日本海事協会(ClassNK)に問い合わせるとよいでしょう。
現在は国内の他、フィリピン、インドネシアでも出張試験方式が実施可能です。
Q:特定技能2号になれますか?
A:要件を満たせば可能です。ただし、特定技能2号を取得できるのは溶接の職種のみです。
現在、特定技能2号の対象分野になっているのは「造船・舶用工業」と「建設」の2つだけで、造船・舶用工業分野で特定技能2号を取得するには、技能試験の合格と実務経験の両方が必要です。
造船・舶用工業分野での特定技能2号の要件
① 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(溶接)に合格する
② 複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての実務経験が2年以上ある
造船・舶用工業分野特定技能2号試験の受験資格は以下のとおりです。
- 試験日において17歳以上である
- 在留資格を有している(国内試験の場合)
- 複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての実務経験が2年以上ある
①試験合格と②実務経験の要件をクリアしていれば、必ずしも特定技能1号を経由する必要はありません。
特定技能1号を経ずに、いきなり特定技能2号になることも制度上は可能です。
ただし、現時点(2023年5月)ではまだ試験の準備段階にあり申請ができないため、試験は一度も実施されていません。
日本海事協会によると2023年6月中には申請の受付が始まる予定とのことなので、雇用中の外国人に特定技能2号試験を受けさせたいと考えている事業者の方は、日本海事協会のホームページに受験案内が出るのをチェックしてください。
Q:造船・舶用工業分野での特定技能2号試験について教えてください。
A:造船・舶用工業分野特定2号試験があるのは溶接区分のみで、実技試験により2号特定技能外国人に求められる熟練した技能を有しているかどうかの判断をおこないます。
特定技能1号試験と同様、出張試験方式で実施されます。
受験者または受験者が所属する組織等が申請者となり、試験会場や機械設備等を準備します。そこに試験監督者が派遣され試験がおこなわれる仕組みです。
試験内容は安全衛生等確認試験(〇×式)と溶接作業試験で、安全衛生等確認試験は正答率60%以上、溶接作業試験は外観試験、曲げ試験または放射線透過試験で基準をクリアすることで合格となります。
Q:特定技能1号と2号の違いは何ですか?
A:大きな違いは、在留期間、家族の帯同の可否、支援の有無でしょう。
特定技能1号の在留期間は最長5年ですので、多くの分野では特定技能1号の在留期間が終了すれば帰国するしかありません。
しかし、造船・舶用工業分野(と建設分野)では要件を満たし特定技能2号になることで在留期間の更新が無制限になります。
また、特定技能1号ではできなかった家族の帯同も可能になるため、日本で家族と生活し、永続的に造船の仕事に従事することが可能です。
さらに、受入機関は特定技能1号でおこなっていた支援計画の作成や実施の必要がないため、雇用する側にも大きなメリットがあります。
特定技能外国人の受入れ
Q:造船・舶用工業分野での受入れ上限人数は何人ですか?
A:造船・舶用工業分野全体での特定技能1号の受入れ上限人数は、特定技能制度が始まった当初は最大13,000人としていましたが、現在は11,000人に引き下げられています。
造船・舶用工業分野では、特定技能制度が始まった2019年から5年間で22,000人程度の人材が不足すると見込まれており、国内人材の確保や生産性向上をおこなってもなお不足する13,000人を上限として受入れると決定しました。
しかし、新型コロナウイルスの影響による経済状況の変化をふまえて各分野で受入れ数の見直しがおこなわれ、上限数が引き上げられた分野もありましたが、造船・舶用工業分野では2023年度末までは受入れ上限を11,000人に引き下げて運用することとしています。
2022年12月時点での造船・舶用工業分野の特定技能1号外国人の在留数は4,602人なので、上限までまだ余裕があります。
また、今後の経済状況や人手不足の状況によっては、再び受入れ人数の見直しがおこなわれる可能性もあります。
Q:造船・舶用工業分野で特定技能2号で在留している人数を教えてください。
A:造船・舶用工業分野で在留している特定技能2号外国人はまだいません。(2023年5月末時点)
2023年5月時点で特定技能2号があるのは造船・舶用工業と建設の2つの分野ですが、特定技能2号外国人として在留しているのは建設分野の8人だけです。
まもなく(2023年6月以降)造船・舶用工業分野特定技能2号試験が実施されるようになるため、2023年度中に造船・舶用工業分野でも特定技能2号外国人が出てくるかもしれませんね。
Q:受入れ機関となるための要件はありますか?
A:造船・舶用工業で特定技能外国人を受け入れるために満たすべき要件は、次の5つです。
-
- 国土交通省が設置する「造船・舶用工業分野特定技能協議会」の構成員になること
- 協議会に対し、必要な協力をおこなうこと
- 国土交通省または委託を受けた者がおこなう調査・指導に対し、必要な協力をおこなうこと
- 特定技能1号外国人の支援計画の実施を委託する場合、1〜3を満たす登録支援機関に委託すること
- 造船・舶用工業分野の業務を行っているかどうか、国土交通省が確認をおこなうこと
Q:登録支援機関も協議会に加入する必要はありますか?
A:支援を委託する場合は、受入れ機関、登録支援機関ともに協議会の構成員となる必要があります。
造船・舶用工業分野協議会は、特定技能外国人の適切な受入れや保護のために情報を共有し構成員の緊密化を目的として設置されたものです。
協議会のサポートを受けるため、受入れ機関は初めて特定技能外国人を受入れてから4ヵ月以内に加入する必要があります。
特定技能外国人を受け入れる際、受入れ機関は外国人が円滑に活動をおこなえるよう職業生活上や日常生活上の支援の実施に関する計画を作成し、その計画に基づいて支援をおこなわなければいけませんが、支援計画の全部または一部を登録支援機関に委託することが可能です。
ですから、委託された登録支援機関も協議会のサポートを受けるため構成員となって必要な協力をおこなう必要があります。
Q:「造船・舶用工業分野に係る事業を営む者であること」の確認を受ける手続きを教えてください。
A:「造船・舶用工業分野に係る事業を営む者であること」の確認を受けるには、国土交通省海事局船舶産業課長に確認申請書を提出します。
まず、造船業または舶用工業に係る事業を営むには、以下のいずれかの許認可を受けていなくてはいけません。
造船業
① 造船法(昭和25年法律第129号)第6条第1項第1号又は第2号の届出を行 っている者
② 小型船造船業法(昭和41年法律第119号)第4条の登録を受けている者
③ 上記①又は②の者からの委託を現に受けて船体の一部の製造又は修繕を行う者
舶用工業(造船業に該当するものを除く)
① 造船法第6条第1項第3号又は第4号の届出を行っている者
② 船舶安全法(昭和8年法律第11号)第6条の2の事業場の認定を受けている者
③ 船舶安全法第6条の3の整備規程の認可を受けている者
④ 船舶安全法第6条の3の事業場の認定を受けている者
⑤ 船舶安全法第6条の4の型式承認を受けている者
⑥ 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律第136号)の規定に基づき、上記②から⑤までに相当する制度の適用を受けている者
⑦ 工業標準化法(昭和24年法律第185号)第19条第1項の規定に基づき、部門記号Fに分類される鉱工業品に係る日本工業規格について登録を受けた者の認証を受けている者
⑧ 船舶安全法第2条第1項に掲げる事項に係る物件(構成部品等を含む。)の製造又資料3は修繕を行う者
⑨ 造船造機統計調査規則(昭和25年運輸省令第14号)第5条第2号に規定する船舶用機関又は船舶用品(構成部品等を含む。)の製造又は修繕を行う者であって同規則に基づき調査票の提出を行っているもの
⑩ 上記以外で、①から⑨までに規定する者に準ずるものとして国土交通省海事局船舶産業課長が認める者
確認申請書に登記事項証明書を添付し、上記の許認可を受けていることを証明する必要があります。
造船業の③、舶用工業の⑧または⑩に該当する場合は、それを証明する請負契約書や製造する製品の売買契約書の写しなどの添付も必要です。
申請書類を提出し船舶産業課長の確認がおこなわれると、確認通知書が交付されます。この確認通知書の写しは入管に特定技能の在留資格を申請する際に添付する必要があります。
確認通知書の有効期限は、確認通知書に記載する確認年月日から起算して5年です。
以上、造船・舶用工業分野のよくある質問について回答しました。
ご参考になれば幸いです。
回答者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)