介護現場では人手不足が深刻な問題となっていますが、理由としては高齢化の他、ハードワークであることや介護職員に女性が多いことでライフステージの変化による離職率が高いこともあげられます。
そこで人材確保につながると期待されるのが外国人の受入れですが、外国人が介護職に就くための在留資格は特定技能を含めいくつかあります。
ここでは、特定技能と他の在留資格の比較などを含めた介護分野のよくある質問に、特定技能に特化した行政書士がわかりやすく回答します。
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介護職に従事できる在留資格
Q:介護の仕事ができる在留資格は特定技能以外に何がありますか?
A:外国人が介護職に就くことができる在留資格は、特定技能の他に3つあります。
- 技能実習
- 特定活動(EPA介護福祉士候補者)
- 在留資格「介護」
それぞれの特徴を簡単に説明しましょう。
技能実習
技能実習は特定技能とよく比較される在留資格なので、ご存じの方も多いでしょう。
技能実習は、日本で学んだ技術や知識を持ち帰り母国の発展に役立てるという国際貢献が目的のため、在留期間が終了したら母国へ帰国しなくてはいけないのが特徴です。
技能実習でも、介護職種では他の職種にはない介護サービスの特性に基づいた固有要件を定めています。
その一つは、入国時の日本語レベル。技能実習生は入国後に日本語その他の講習が義務付けられてはいますが、入国時の日本語レベルは問われていません。
しかし技能実習の中でも介護職種の場合は特別で、入国時は日本語能力試験のN3程度が望ましい水準であり、N4程度が要件と定められています。
また実習実施者にも、以下のような介護特有の要件が定められています。
- 介護福祉士国家試験の実務経験対象施設であること
- 受入れは事業所単位で、常勤介護職員の総数が上限
- 訪問系サービスは対象としない
- 設立後3年を経過している事業所が対象
- 技能実習指導員を技能実習生5名につき1名以上選任。そのうち1名以上は介護福祉士
特定活動(EPA介護福祉士候補者)
EPA介護福祉士候補者とは、相手国との経済連携協定に基づき、日本で介護福祉士の資格を取得することを目的として必要な知識や技能を習得するための活動ができる在留資格です。
受入れができるのはインドネシア・フィリピン・ベトナムの3ヵ国のみで、在留資格は「特定活動」になります。
EPA候補者受入れには、次のような特徴があります。
- 受入れ調整期間である国際厚生事業団と、送り出し調整機関である相手国政府機関が一元的に受入れと送り出しをおこなっている
- 受入れ機関は、施設の種別、研修の体制、労働契約など一定の要件を満たす必要がある
- EPA候補者は、母国での学歴や資格取得など一定の要件を満たす必要がある
- EPA候補者は、訪日の前後に約1年の日本語研修を受ける
EPA候補者が介護福祉士の国家資格を取得するには、就労コースと就学コース(フィリピン・ベトナムのみ)があります。
就学コースは、在留期間である介護福祉士養成施設の卒業までに国家試験合格を目指しますが、現在はどちらの国からも受入れがおこなわれていません。
就労コースは実務経験が3年以上になると国家試験の受験資格を得られるので、4年の在留期間中に資格を取得し、EPA介護福祉士となることを目指します。
試験に不合格だった場合、特例候補者と認められると滞在期間が1年延長されるので、5年目に再受験が可能です。
ここで合格できればEPA介護福祉士として引き続き就労、不合格なら帰国となります。
ただ、EPA候補者は受入れ最大数が300人に設定されているため特定技能と比べると人数が少ないこと、学歴等の要件があり候補者となるハードルが高いこと、入国前後の研修があるため就労までに時間がかかることが特徴です。
国家資格に合格しEPA介護福祉士となると、在留期間の更新回数に制限がなくなり家族の帯同も可能なため優秀な人材を永続的に雇用できるメリットがあります。
ただ、令和5年に実施された国家試験ではEPA候補者の合格率は約65%ですので、簡単に合格できる試験ではないといえます。
在留期間中に資格を取得できずに帰国したとしても「短期滞在」の在留資格で再入国し、国家試験を受けることが可能です。
在留資格「介護」
在留資格「介護」は、介護福祉士の資格を持つ外国人が日本で介護の業務についたり、介護の指導をおこなったりするための在留資格です。
以前は外国人が介護福祉士の資格を取得しても、介護福祉士養成施設を卒業していなければ在留資格「介護」になることができませんでした。
それが令和2年からは、養成施設を卒業して資格を取得した場合でも、実務経験を積んで資格を取得した場合でも、資格を取得したルートにかかわらず在留資格「介護」が認められるようになりました。
介護福祉士の資格を取得して在留資格「介護」になるには、いくつかのルートがあります。
まず「養成施設ルート」。留学生が介護福祉士養成施設で2年以上就学し、国家試験を受けて介護福祉士の資格を取得します。
次に「実務経験ルート」。技能実習生として介護施設で3年以上就労し国家試験を受けて介護福祉士の資格を取得します。
実務経験ルートは技能実習の他、EPA介護福祉士候補者や特定技能から資格を取得して在留資格「介護」を取得する方法もあります。
どちらのルートにしても、在留資格を「介護」に変更するには介護福祉士の資格取得が必須です。
以前は、養成施設を卒業することで介護福祉士の資格を取得することができましたが、平成29年度からは国家試験(養成施設卒業者は筆記試験のみ)の合格が必要になりました。
ただし経過措置として、令和8年度(2026年度つまり2027年3月末)までに養成施設を卒業した場合は、介護福祉士の国家試験に合格していなくても(不合格、あるいは受験していなくても)5年間の有期限の介護福祉士になることができます。
5年の間に国家試験に合格する、または卒業後5年間継続して介護の実務に従事すると引き続き介護福祉士の資格を保持することが可能です。
※令和9年度以降の卒業生は国家試験に合格しなければ介護福祉士の資格を取得できません。
介護福祉士の資格を取得し、在留資格が「介護」になると、在留期間の更新に回数制限がなくなり、家族帯同も可能になります。
ただ、養成施設ルートの場合は養成施設入学時に日本語能力試験のN2レベルが望ましいとされていること、実務経験ルートの場合は実務経験3年以上+実務者研修修了が国家試験受験の要件とされていることなどから、ハードルが高いともいえます。
実務者研修を修了した場合は、回数制限なしで実技試験が免除されます。
日本の介護福祉士資格を取得していれば、海外にいる外国人を呼び寄せて在留資格「介護」を取得することも可能です。
Q:特定技能、技能実習、EPA、在留資格「介護」の違いは何ですか?
A:介護職に従事できる在留資格の違いは、下の表を見ていただくとわかりやすいと思います。
1番の違いは介護福祉士の資格を取得しているかどうかでしょうか。
資格を取得し在留資格「介護」やEPA介護福祉士となることで在留期間や業務の制限がなくなります。
日本で永続的に働いてもらいたい場合、訪問サービスに従事させたい場合は、最終的に介護福祉士の資格取得を目指すことになるでしょう。
特定技能で従事できる業務
Q:身体介護等の業務とは具体的にどんなものですか?
A:介護分野で従事できる業務についてですね。
介護分野の特定技能外国人は、試験の合格等によって確認された技能を有する身体介護等の業務に従事することになりますが、その「身体介護等」というのは利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつ、整容・衣服着脱、移動の解除等をいいます。
その他、身体介護等に付随したレクリエーションの実施、機能訓練の補助等の支援業務にも従事することができます。
また、お知らせ等の掲示物の管理や物品の補充といった「関連業務」にも付随的に従事できますが、同じ業務につく日本人が通常おこなっている関連業務であることが前提です。
Q:訪問介護はできますか?
A:できません。利用者、1号特定技能外国人双方の人権擁護、適切な在留管理の観点から訪問介護等の訪問系サービス業務は対象外です。
2024年9月20日追記:2025年年度をめどに、1号特定技能外国人や技能実習生も訪問介護に従事できるように制度が改正される見込みです。ただし無条件で訪問介護に従事できるわけではなく、「介護職員初任者研修の修了」や「介護福祉士資格の保有」など一定の要件を満たした場合にのみ認められる予定です。
特定技能【介護】の取得要件
Q:介護分野で求められる外国人の基準を教えてください。
A:介護分野で特定技能を取得するには、介護業務に必要な技能と日本語能力を有していることを、次のいずれかの方法で証明する必要があります。
- 技能試験と日本語能力試験に合格する
- 介護分野の技能実習2号を修了する
- 介護福祉士養成施設を修了する
- EPA介護福祉士候補者としての在留期間(4年間)を満了する
では、一つずつ解説していきましょう。
技能試験と日本語能力試験に合格
①介護技能評価試験
②国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験(N4以上)
③介護日本語評価試験
分野ごとの技能試験と日本語試験に合格する(①②)のは他の分野と同じですが、介護分野では、さらにもう一つ日本語試験(③)に合格する必要があります。
介護日本語評価試験に合格するには、介護用語や声かけ・文書など、介護業務に支障なく従事するための日本語力が必要です。
介護分野の技能実習2号を修了
介護職種の技能実習2号を良好に修了すると、先ほどの試験①〜③が免除され、特定技能に移行することができます。
介護以外の職種から移行する場合、②は免除されますが、①と③の試験には合格する必要があります。
介護福祉士養成施設を修了する
介護福祉士養成課程を修了した場合は介護職で即戦力となる知識や経験、日本語能力があると認められるため、上記の①〜③の試験が免除され特定技能を取得できます。
EPA介護福祉士候補者としての在留期間(4年間)を満了
EPA介護福祉士候補者が研修する施設は、厚生労働省が定める要件を満たす介護施設において介護福祉士国家試験に合格するための学習がおこなわれます。
ですので、EPA候補者として4年間就労・研修をした場合は、上記の試験合格と同等以上の水準であると認められ、①〜③の試験免除で特定技能を取得できます。
Q:介護分野で特定技能2号になれますか?
A:特定技能2号があるのは12分野のなかで「建設」と「造船・舶用工業」だけなので、介護分野では特定技能2号になることはできません。
多くの分野で特定技能2号の追加が検討されていますが、現時点では介護分野のみ2号追加の対象外となっています。
その理由は、特定技能2号の特徴である「在留期間の更新無制限・家族帯同が可能」というのが在留資格「介護」と同じだからです。
より高度な技能を身につけ日本で永続的に就労するなら在留資格「介護」を取得すればよいため、特定技能2号の適用分野が拡大されたとしても介護は外れる可能性があるのです。
Q:EPAで介護福祉士の資格を取れなかった場合、特定技能に変更できますか?
A:できます。EPA介護福祉士候補者として4年間就労し国家試験に合格できなかった場合、技能試験、日本語能力試験、介護日本語評価試験が免除で特定技能を取得できます。
ただし、試験免除の対象となるには、それぞれ次のものが必要です。
就学コース:介護福祉士養成施設の卒業証明書の写し
就労コース:直近の介護福祉士国家試験の結果通知書の写し(合格基準点の5割以上の得点であること及びすべての試験科目群で得点があることについての確認のため)
特定技能になってからでも国家試験に合格すれば、在留資格を「介護」に変更することが可能です。
Q:介護分野で特定技能1号を修了した後に、引き続き就労できる方法はありますか?
A:先ほど、介護分野には特定技能2号がないとお伝えしました。したがって、特定技能1号を修了してからも日本で介護職に従事するには、在留資格を「介護」に変更する必要があります。
介護福祉士の国家試験を受験するには、実務経験3年以上に加えて実務者研修の修了が必要です。
実務者研修の日数はスクールにもよりますが、無資格で6ヵ月、初任者研修保有者で4ヵ月程度かかるため、介護福祉士の取得を視野に入れた雇用の場合は、勉強時間の確保や計画的な受講スケジュールを組む必要があります。
介護分野特有の基準
Q:特定技能を受入できるのはどのような施設ですか?
A:特定技能を受入れできるのは、介護福祉士国家試験の受験資格要件において「介護」の実務経験として認められる以下のような施設です。
- 特別養護老人ホーム
- 障害児入所施設
- 障害者支援施設
- デイサービスセンター
- 地域活動支援センター
- 認知症対応施設など
受入れを検討している施設の方は、対象施設かどうか下の表で確認してみてください。(クリックで拡大できます)
引用:厚生労働省「技能実習「介護」における固有要件について」
養護老人ホーム・ケアハウス・有料老人ホームについては、外部サービス利用型の施設は対象外です。
Q:受入れ人数は、日本人等の常勤の介護職員の総数を超えないこととされていますが、「日本人等」の範囲を教えてください。
A:特定技能の受入れ枠についてですね。本来、特定技能は技能実習とは異なり受入れ人数に制限はありませんが、建設と介護分野だけは人数枠が定められています。
介護分野では、日本人等の常勤介護職員の総数を超えて受入れることはできません。その「日本人等」というのは、日本人の常勤介護職員に加えて以下のような外国人も含まれます。
- 介護福祉士国家試験に合格したEPA介護福祉士
- 在留資格「介護」により在留する者
- 永住者や日本人の配偶者など、身分・地位に基づく在留資格により在留する者
つまり、技能実習生やEPA介護福祉候補者、留学生は日本人等に含まれません。
また、この受け入れ人数枠は企業毎ではなく事業所単位だということにも注意してください。
Q:常勤日本人等の総数は事業所単位で数えますか?それとも法人単位ですか?
A:事業所単位で数えます。「同じ法人で同じ敷地内にあれば法人全体の常勤職員で数えてもいいのでは?」と思われるかもしれませんが、たとえ同一敷地内であっても、別の事業所であれば別々に数えます。
Q:特定技能外国人の人数が、常勤日本人職員等の人数を超えてしまった場合、どうすればいですか?
A:例えば、常勤日本人職員等が10人、特定技能外国人も10人在籍していたとします。この状態で常勤日本人職員が1名退職すると、常勤日本人職員等9人、特定技能外国人10人となり、常勤日本人職員等の総数を超えてしまいます。
このような場合は、以下の方法で対処することになります。
- 速やかに新しい常勤日本人職員等を募集して欠員を埋める。
- 1号特定技能外国人を同法人内の別の事業所に異動させて人数調整する。
Q:特定技能外国人は、受入れてからどれくらいで人員配置基準に算定できますか。
A:介護施設は、施設の種類ごとに「入居者3人に対して介護職員1人」のように人員配置基準が定められていますね。
その人員として外国人がいつから算定されるかというと、特定技能の場合は就労開始と同時に算定可能です。
ただし一定期間、他の日本人職員とチームでケアにあたる等、受け入れ施設における順応をサポートし、ケアの安全性を確保するための体制をとる必要があります。
ちなみに、他の在留資格の場合の算定時期は次のとおりです。
技能実習・・・訪日後研修が修了し、実習開始から6ヵ月後
EPA介護福祉士候補者・・・訪日後研修が修了し、就労開始から6ヵ月後
在留資格「介護」・・・就労開始と同時
ただし、技能実習でもEPA候補者でも、日本語能力試験N2を取得している場合は就労開始から算定可能です。
以上、特定技能介護分野のよくある質問について回答しました。
ご参考になれば幸いです。
回答者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)