特定技能制度は国内での人材確保が難しい産業分野において、人手不足を解消するために、ある程度の技能を持った外国人労働者を受入れるための、在留資格です。
飲食料品製造業は、特定産業12分野の中で最も特定技能外国人受入れ数が多いことから、人材不足が深刻化している分野といえます。
ここでは特定技能を専門にする行政書士が、飲食料品製造業で外国人の雇用を検討している事業者の方から多く寄せられる質問に回答します。
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特定技能「飲食料品製造業」の職種と業務内容
Q:飲食料品製造業分野では、どのような職種が対象となりますか?
A:「うちの会社でも特定技能の外国人を雇用してみようか?」と検討を始めた企業様が、まずはじめに気になるのが「どんな職種なら飲食料品製造業分野の対象となるか」ではないでしょうか。
飲食料品製造業分野の対象となるのは、日本標準産業分類のうち次にあげる業務を主におこなっている事業所です。
分野 | 業種 | 例 |
食品製造業 | 畜産食料品製造業 |
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水産食料品製造業 |
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野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品製造業 |
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調味料製造業 |
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糖類製造業 |
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精穀・製粉業 |
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パン・菓子製造業 |
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同植物油脂製造業 |
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その他の食品製造業 |
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清涼飲料製造業 | サイダー、ラムネ、炭酸水、ジュース、シロップ、ミネラルウォーター、茶系飲料、コーヒー飲料(アルコールを含まない) | |
茶・コーヒー製造業(清涼飲料を除く) |
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製氷業 | 販売用氷 | |
菓子小売業(製造小売) | 菓子類を製造して、その場で小売する事業所
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パン小売業(製造小売) | 食パン・菓子パンなどを製造して、その場で小売する事業所
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豆腐・かまぼこ等加工食品小売業(製造小売に限る) | 豆腐,こんにゃく,納豆,漬物,かまぼこ,ちくわなどの加 工食品を製造して、その場で小売する事業所 |
飲食物の製造ならほとんどが対象のように見えますが、受入れできない職種もあります。
酒類製造業、飲食料品小売業(上記以外のもの)、飲食料品卸売業、塩製造業、医療品製造業、香料製造業、ペットフードの製造は対象外なので注意してください。
街中のパン屋・ケーキ屋・豆腐屋などの製造小売業は、問題なく、特定技能人材を受入れることが可能です。
Q:特定技能外国人が従事できる業務を教えて下さい。
A:ご質問ありがとうございます。
「どんな職種が対象になるか」と同じくらい、「どんな業務ができるか」も大きなポイントですね。
一言で言うと、「飲食料品製造にに関するほぼすべての業務ができる」と言っても過言ではありません。
具体的には、飲食料品(酒類を除く)の製造・加工、安全衛生など、飲食料品製造業務全般の業務を、メインの業務としておこなうことができます。
また、これらの業務に従事する日本人が通常おこなっている関連業務を付随的におこなうことは問題ありません。
例えば、原料の調達・受入れ、製品の納品、清掃、事業所の管理作業などの関連業務でも、メインの業務に付随する形ならおこなうことができます。
Q:給食のセントラルキッチン(給食センター)は特定技能受入れの対象ですか?
A:これは判断に迷うところですね。
結論から言うと、給食センターなどは、対象になる場合と、ならない場合があります。
判断するポイントは、「調理する場所」と「提供する場所」が同じ場所にあるか、それとも別の場所にあるか、という点です。
「調理する場所」と「提供する場所」が同じ場所にある場合は、外食分野に該当して、対象外のことが多いです。
例えば、学校・社員食堂・病院など、調理と食事提供を同じ場所でおこなう事業所の場合は対象外です。
逆に、「調理する場所」と「提供する場所」が、別の場所にある場合は、飲食料品製造業の対象になることが多いです。
例えば、
- 給食センターで調理した料理を配達し、料理を提供する施設で盛りつけて配膳する
- 給食センターで調理した料理を1人前ずつに盛り付けてから配達し、提供する施設で配膳する
このような場合には、給食センターの場所でおこなう業務のみが対象となります。(提供施設でおこなう業務は対象外です)
特定技能外国人が提供施設で盛りつけをしたり配膳をしたりはできませんが、配達については付随しておこなう関連業務になるため問題ありません。
その他、よく質問をいただく外食業のセントラルキッチン・プロセスセンター・スーパーマーケットのバックヤード・お弁当屋さんについても解説します。
セントラルキッチン
飲食店ではなく、集中調理施設での製造は対象です。
プロセスセンター
小売業者に納品する食品を製造する事業所は対象です。(精肉加工・水産物加工・惣菜の製造など)
スーパーマーケットのバックヤード
スーパーマーケットの裏側(バックヤード)で、来店客に販売するための惣菜などを製造していることがありますが、これは飲食料品製造業分野の対象になるのでしょうか。
少しややこしいのですが、
まず原則として、バックヤードでの惣菜等の製造は、飲食料品製造業分野の対象にはなりません。
スーパーマーケットの業種は「小売業」に分類されるため、そこで製造している惣菜も製造業ではなく「小売業」の一環と考えられるからです。
ただし、例外もあります。バックヤードで製造した惣菜等の売上額が、スーパー全体の売上額の2分の1を超えている場合は、例外的に飲食料品製造業分野の対象になります。
この場合は単なる「小売業」ではなく「製造小売業」と考えられるからです。
もう一つの例外は、スーパーの構内で惣菜等を製造している経営主体が、スーパーとは異なる場合です。
この場合は、スーパーと同一の構内にあっても、別の区画、別の事業所と判断されるので飲食料品製造業分野の対象になります。
以上を整理すると、以下のようになります。
- 原則、スーパーマーケットのバックヤードで惣菜等を製造する場合は、小売業の機能の1つとなるため対象にならない。
- 例外として、バックヤードで製造した惣菜等の売上額が、店舗全体の売上額の1/2を超えている場合は対象になる。
- スーパーマーケットのバックヤードであっても、経営主体が異なる場合は対象になる。
お弁当屋
- 製造したお弁当を小売業者に卸す事業所が対象です。
- 個人客の注文に応じてお弁当を調理して販売するのは、外食分野に該当するため対象外です。
- 仕出し弁当・デリバリーなど客の指定する場所に飲食料品を届ける場合は、外食分野に該当するため対象外です。
事業のメインが「食品製造」であるかどうかで考えるとわかりやすいと思います。
Q:原材料を仕入れて加工をおこなう場合は受入れの対象ですか?
A:飲食料品そのものを製造するのではなく、仕入れた原材料を、「加工するだけ」でも、飲食料品製造業の対象になるか、というご質問ですね。
基本的には、小売業者や卸事業者向けに納品するために、製造・加工をおこなう事業所は、対象となります。
例えば、次に挙げる加工をおこなう事業所は対象です。
- 肉を仕入れて精肉加工をおこなう
- 卵を仕入れてパック詰めをおこなう
- 魚を仕入れて刺し身や切り身にする
- 野菜を仕入れて野菜の皮をむく・炒め用やサラダ用にカットする
一方で、似たような加工作業でも、対象にならないケースもあります。
例えば、以下のような「加工」は対象になりません。
- 野菜を仕入れて半分にカットする・しいたけの石づきをカットする
- 野菜を栽培し、同じ事業所内でしいたけの石づきをカットする
このように、わずかな加工の場合は対象外です。
ご自身の会社が対象業種かわからないという場合は、分野所管省庁の窓口に確認することをおすすめします。
Q:同じ事業所で働く技能実習生への通訳や指導などの業務をおこなうことは可能ですか?
A:あくまでも飲食料品の製造・加工の業務をメインにおこなうのであれば、付随的に他の外国人に通訳や指導をおこなっても問題ありません。
ただし、通訳や指導の他、先にお伝えした製品の納品や清掃などの、関連業務をメインに従事させることはできません。
食品産業特定技能協議会への加入
Q:食品産業特定技能協議会への加入は必須ですか?加入しなかった場合にペナルティなどはありますか?
A:飲食料品製造業分野・外職業分野で特定技能外国人を受入れる事業所は、必ず食品産業特定技能協議会の構成員にならなければいけません。
また、この2分野の受入れ機関を支援する登録支援機関も、協議会の構成員になる必要があります。
この協議会は特定技能制度の適切な運用を図るために設置されたもので、制度や情報の共有、法令遵守の啓発、地域ごとの人材不足の状況把握や調整をおこなっています。
特定技能外国人を初めて受入れる場合は、受入れてから4ヵ月以内に加入すれば大丈夫です。
4ヵ月以内に加入しなかった場合、ペナルティというより特定技能外国人の受入れ自体がができなくなります。
また、すでに受入れた外国人の在留資格更新時に許可が降りなくなってしまうため、忘れずに申請をおこなってください。
Q:食品産業特定技能協議会への加入方法を教えて下さい。また、入会費などは必要ですか?
A:食品産業特定協議会は2019年に設置された機関で、農林水産省が運営をおこなっています。そのため、当面の間は入会費や年会費などの費用は必要ありません。
協議会への加入申請の方法
- 農林水産省のホームページの入会フォームに必要事項を入力し、WEB申請します。
- 事務局から届いたメールに、入管に提出した誓約書の写しをPDFなどで添付して返信します。
- 承認後、加入証がメールで届きます。審査には通常2週間〜1ヵ月程かかります。
*就労する外国人が特定技能の在留カードを受け取った日から4ヵ月以内に加入してください。
*2人目以降の追加受入れの際は、あらためて加入申請や届け出の必要はありません。
特定技能外国人の受入れ
Q:飲食料品製造業分野で受入れる外国人材の基準はありますか?
A:外国人が飲食料品製造業で特定技能の在留資格を取得するには、2つの方法があります。
一つは技能試験と日本語能力試験に合格する方法、もう一つは食品製造関係の技能実習2号を良好に修了して特定技能1号に移行する方法です。
日本語能力試験は共通の試験ですが、技能試験は各産業分野ごとに試験をおこなっています。
飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験
- 学科試験・・・HACCP等による一般的な衛生管理、労働安全衛生の知識
- 実技試験・・・判断試験と計画立案
国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験(N4以上)
飲食料品製造業分野での特定技能外国人受入れは技能実習2号からの移行が全体の8割近くを占めていますが、令和2年からは国内での技能試験受験資格が緩和され、短期滞在者でも受験できるようになったことで受験者も増えていくことが予想されます。
また、2023年6月実施予定の試験では、特定技能外国人を直接雇用する企業からの試験申し込みを拡大して試行されることになっています。
受験申し込みが試験会場の定員をオーバーした場合は抽選となってしまいますが、個人申込よりも企業申込みが優先されることで確実に受験できるとなれば、試験の合格を前提にした採用内定もしやすくなるでしょう。
Q:飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験が免除になる職種は何ですか?
A:技能実習2号・3号へ移行できる食品製造関係の職種であれば、技能試験・日本語能力試験の両方が免除になります。
- 缶詰巻締
- 食鳥処理加工業
- 加熱性水産加工食品製造業
- 非加熱性水産加工食品製造業
- 水産練り製品製造
- 牛豚食肉処理加工業
- ハム・ソーセージ・ベーコン製造
- パン製造
- そう菜製造業
- 農産物漬物製造
飲食料品製造業分野には業務区分がないため、上記の食品製造関係の職種で技能実習2号を修了した場合はすべての飲食料品製造業に従事することが可能です。(酒類を除く)
技能実習2号へ移行できない麺類製造業・冷凍調理食品製造業・菓子製造業などでも、技能試験に合格すれば特定技能1号として飲食料品製造業に従事できるようになります。
技能実習からの移行であれば、日本語や日本の生活に慣れた人材を雇用できるメリットもあります。
Q:特定技能外国人の受入れ要件を教えてください。
A:飲食料品製造業分野で特定技能外国人を受入れるためには、対象業種であることの他にも満たすべき基準があります。
- 農林水産省が定めた基準を満たす
- 適切な雇用契約
- 支援体制を整える
農林水産省が定めた基準
- 「食品産業特定技能協議会」の構成員になること
- 協議会がおこなう調査や情報共有に協力すること
- 農林水産省がおこなう調査や指導に協力すること
- 支援を委託する場合は、上記の3項目を満たす登録支援機関に委託すること
適切な雇用契約
雇用形態は、飲食料品製造業では派遣は認められていないため、フルタイムの直接雇用でなくてはいけません。
報酬は、日本人が従事した場合と同等以上を能力に応じて支払う必要があります。
支援体制を整える
特定技能外国人に対する支援は、すべての分野において共通して以下の内容をおこなう必要があります。
- 事前ガイダンスの提供
- 出入国の際の送迎
- 住居の確保・生活に必要な契約の支援
- 生活オリエンテーションの実施
- 日本語学習機会の提供
- 相談・苦情対応
- 日本人との交流
- 受入れ機関側の都合で雇用契約を解除する場合の転職支援
- 定期的な面談、行政機関への通報
これらの支援には必ずおこなわなくてはならない義務的支援と、おこなうことが望ましいとされる任意的支援があります。
どのような支援をおこなうか支援計画を作成して出入国在留管理庁に届け出ますが、外国人が理解できる言語での対応が必要です。
実施するのが難しい場合は登録支援機関に支援の一部、またはすべてを委託することができます。
当事務所では、専門的な法令知識と豊富な実務経験に基づく支援委託を承っております。
外国人雇用でお困りの採用ご担当者様は、特定技能外国人の支援(支援委託)のページも合わせてご覧ください。
回答者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)