特定技能ビルクリーニング分野で従事できる作業に、「ベッドメイク」業務があります。
しかし、「ベッドメイク」業務が「主たる業務」なのか「関連業務」なのかについて、様々な情報が錯そうしています。
行政書士である筆者自身、いまひとつ整理ができていませんでした。
「ビルクリ分野では主たる業務としてベッドメイクに従事可能」と解説しているウェブサイトも多くありますし、「ビルクリ分野ではベッドメイクは関連業務」という話も耳にします。
そこで、どちらが本当なのか、また、一方が間違っているならなぜ間違いが生じたのかを、考察しました。
※「主たる業務(主な業務)」とは、本来の業務のことであり、もっぱら従事することができる業務のことです。
一方で「関連業務」とは、主たる業務に従事している場合にのみ、付随的に従事することが認められている業務のことです。つまり、主たる業務をおこなわずに関連業務だけにもっぱら従事することは認められない業務です。
特定技能ビルクリーニング分野での業務を公的資料から考察
特定技能について解説しているウェブサイトは多くあります。(当サイトもそうです)
しかし、民間業者が運営しているウェブサイトの中には誤った情報が含まれていることも多々あります。
そこで、以下、厚生労働省のホームページで公表している公的資料(一次情報)を根拠に考察してゆきます。
運用方針(ビルクリーニング分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針)
これは、制度の大前提となる資料で、名前の通り制度運用の「方針」を記載した資料です。
ビルクリーニング分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針
以下の箇所に、ビルクリーニング分野で従事可能な業務が定義されています。
3ページ>5(1)
(ビルクリ分野で)1号特定技能外国人が従事する業務=建築物内部の清掃
これだけだと、漠然としていて不明確ですね。「建築物」とはどんな建築物なのか、「清掃」とは何を指すのか。
それが、次の資料で示されています。
運用要領(「ビルクリーニング分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る運用要領)
長い名前ですね。これは「運用方針」の内容をさらに詳しく説明した資料といったところでしょうか。
「ビルクリーニング分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る運用要領(令和2年4月1日一部改正)
以下の箇所に、ビルクリーニング分野で従事可能な業務が定義されています。
3ページ>第3ー1
1号特定技能外国人が従事する業務=(前略)多数の利用者が利用する建築物(住宅を除く。)の内部を対象に、衛生的環境の保護、美観の維持、安全の確保及び保全の向上を目的として、場所、部位、建材、汚れ等の違いに対し、方法、洗剤及び用具を適切に選択して清掃作業を行い、建築物に存在する環境上の汚染物を排除し、清潔さを維持する業務
「建築物」とは全ての建築物ではなく、多数の利用者が利用するもので、住宅は除外されることが記載されています。
「清掃」についても、洗剤や用具を使用するという条件が付加されていますし、汚染物を排除することが必要と書かれています。
この記載を熟読すれば、「建築物」と「清掃」の定義はある程度わかりますが、もう少し具体的にしたいところです。
厚労省リーフレット
「運用方針」と「運用要領」は文字だけの資料でしたが、このリーフレットは、イラストや表を使って、わかりやすく説明した資料です。
ビルクリーニング分野における特定技能制度に係る啓発資料(受入機関向け)2023年4月10日時点
以下の箇所に、ビルクリーニング分野で従事可能な業務がより具体的に書かれています。
10ページ>4.特定技能1号のビルクリーニング業務の紹介
特定技能1号のビルクリーニング業務の紹介:特定技能1号におけるビルクリーニング分野では、清掃管理業務のうち建築物内部清掃業務(床・天井・内壁・トイレ・洗面所など)が対象になっています。関連する業務内容として「客室以外のベッドメイク作業」も行うことができます。
この資料では、「清掃業務」が主たる業務であり、関連業務として「客室以外のベッドメイク作業」ができる、と記載されています。
この「客室以外のベッドメイク作業」というのがポイントです。
冒頭で、「ベッドメイク」業務が「主たる業務」なのか「関連業務」なのかについて、様々な情報が錯そうしています、と言いましたが、
このリーフレットに書かれている「客室以外のベッドメイク作業」という表現が、誤解の原因(情報錯そうの原因)だと筆者は考察します。
皆さんは、「客室以外のベッドメイク作業」と聞いたとき、何を想像しますか?
私は、「客室以外の部屋のベッドメイク」を想像しました。
つまり、「客室」以外に別の部屋があって、その別の部屋に設置されているベッドのベッドメイクは、関連業務ですよ、という意味に解釈しました。
(もっとも、ホテルなどで客室以外にベッドが設置されている部屋なんてあるのか?とも思いますが、、あるとすれば従業員用の仮眠室とかでしょうか。)
「客室以外の部屋」のベッドメイクは「関連業務」である、ということは、逆に言えば「客室」のベッドメイクは関連業務ではなく「主たる業務」である、という類推が成り立ちます。(やや無理やり感はありますが、、)
こうして「客室のベッドメイクは主たる業務」で「客室以外の(部屋の)ベッドメイクは関連業務」であるという誤解が生まれたのではないでしょうか。(実際私もそう思っていました)
しかし実は、「客室以外のベッドメイク」とは「客室以外の部屋のベッドメイク」という意味ではなく、「客室(清掃作業以外の)ベッドメイク(作業)」という意味だとしたらどうでしょうか。
つまり、客室の床・天井・などの清掃業務は主たる業務だが、それ以外のベッドメイク作業は関連業務である、という意味だとしたら。
そうだとすると、「客室清掃は主たる業務」で「ベッドメイクは関連業務」という解釈に整合性が生まれます。
職務記述書
これも厚労省のホームページで公表されている資料です。
ビルクリーニング分野の職務記述書(厚生労働省 医薬・生活衛生局 生活衛生課)2023年4月10日時点
この資料では、ビルクリーニング分野の「主たる業務(記述書では「主な業務」と記載)」と「想定される関連業務」が記載されています。
「主たる業務」には、以下の通り、運用要領に記載されている業務と全く同じ文章が記載されています。
従事する主な業務:多数の利用者が利用する建築物(住宅を除く。)の内部を対象に、衛生的環境の保護、美観の維持、安全の確保及び保全の向上を目的として、場所、部位、建材、汚れ等の違いに対し、方法、洗剤及び用具を適切に選択して清掃作業を行い、建築物に存在する環境上の汚染物を排除し、清潔さを維持する業務
それに対して、「想定される関連業務」には具体的な作業が記載されています。
想定される関連業務
・資機材倉庫の整備作業
・建物外部洗浄作業(外壁、屋上等。ただし高所作業を伴う窓ガラス・外壁作業は除く。)
・客室整備作業(ベッドメイク含む。)
・建築物内外の植栽管理作業(潅水作業等)
・資機材の運搬作業(他の現場に移動する場合等)
以上が関連業務として記載されていますが、これを見た時に私は混乱しました。
「ベッドメイク」が主たる業務か関連業務かはいったん隅に置いておいて、「客室清掃」は問題なく主たる業務だと思っていたからです。
なのに、職務記述書には「客室整備」も関連業務の欄に記載されています。
客室清掃も関連業務なの?客室清掃だけにもっぱら従事することはダメなのか、と混乱しました。
しかし、よくよく見ると、職務記述書の関連業務の欄に記載されているのは、「客室整備作業」であり「客室清掃作業」ではないんです。
以上の疑問・不明点は、厚労省に確認することで解決しました。
厚労省の見解
以上の疑問を踏まえたうえで、厚生労働省に確認をしました。
その結果を整理すると以下のようになります。(以下が正しい結論です)
まず、特定技能ビルクリーニング分野における主たる業務は、建築物内部の「清掃」である。ただし、「建築物」とは多数の利用者が利用する建築物のことであり住宅は除外される。
(筆者注:確かに、前述の「運用方針」と「運用要領」にそう明記されてますね。)
そして、「清掃」と「整備」は区別して考えている。清掃は主たる業務であるが整備は主たる業務ではない。
宿泊施設内の「客室清掃」つまり客室内の「床・天井・内壁・トイレ・洗面所などの清掃」は「清掃」に該当する。
(筆者注:当然と言えば当然ですね。「床・天井・内壁・トイレ・洗面所など」というのも、リーフレットに明記されています。)
一方で、「ベッドメイク」は、シーツを交換したり整えたりする作業なので、清掃とは言い難く「整備」と考えるのが自然。
よって、「客室清掃」は主たる業務であり、「ベッドメイク」は主たる業務ではなく関連業務である。
「客室整備」とは「客室清掃」とは別の概念であり、アメニティの交換等が該当する。交換作業は清掃作業ではないので、「客室整備」は関連業務である。
なお、「客室」か「客室以外の部屋」かという区別は意味がなく、(住宅を除く)多数の利用者が利用する建築物内部の部屋であれば、その部屋の清掃は主たる業務である。
逆に言えば、「客室」であっても「客室以外の部屋」であっても、その部屋の中にあるベッドのベッドメイクは、「整備」である以上は関連業務である。
(筆者注:「整備」だから関連業務なのだとすると、「ベッド」を洗剤等を使用して美化する作業なら、「清掃」に該当して主たる業務になりえるかもしれません。そんなベッドの清掃方法が現実的に可能かどうかは知りませんが)
以上が厚生労働省に確認した結果です。
確認の結果、客室清掃は主たる業務であり、ベッドメイクは関連業務であることがはっきりしました。
今回の考察から得られた教訓は、以下の通りです。
・一次情報(公的資料)をしっかり読み込んでいけば正しい情報にたどり着く。
・自分の解釈で思い込むのは禁物。
ご参考になれば幸いです。
執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)