2024年3月29日の閣議決定で、特定技能の工業製品製造業分野に「縫製」が業務区分として追加されました。
これにより「縫製」でも1号特定技能外国人の受入れが可能になったわけですが、受入れ可能時期・受入れ要件などが分かりづらく、困っている事業者さんもいるでしょう。
また、「縫製」と同じタイミング追加された「紡織製品製造業」との違いが分からず、混乱している事業者さんもいるかもしれません。
そこで今回は、「縫製」での1号特定技能外国人受入れを検討している事業者さんに役立つ情報を紹介します。
製造業における業務区分追加
冒頭で触れた「2024年3月29日の閣議決定」ではさまざまなことが決定されましたが、とくに製造業分野に影響を与える決定は次の4点です。
- 「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」から「工業製品製造業」へと名称が変更
- 7業務区分が追加され、合計10業務区分に変更
- 既存の業務区分に新たな事業所（業種）を追加
- 技能実習の移行対象職種が追加
これまでは「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」という名称で、下記3つの業務区分が定められていました。
- 機械金属加工
- 電気電子機器組立て
- 金属表面処理
これが3月の閣議決定で「工業製品製造業」へと名称が変更され、この記事で紹介する「縫製」を含めた7業務区分が追加されました。
- 縫製
- 紙器・段ボール箱製造
- コンクリート製品製造
- 陶磁器製品製造
- 紡織製品製造
- PRF製造
- 印刷・製本
従来の3業務区分に、今回追加された7業務区分をあわせ、「工業製品製造業」には合計10区分が定められています。
さらに、これまで「特定技能」に移行できなかった「技能実習」の作業のうち、一部が移行できるよう決定されました。
これらの変更により、外国人材が「縫製」分野でも活躍できるようになったことがポイントです。
「縫製」業務区分追加
今回「工業製品製造業」には「縫製」「紡織製品製造業」と似た名称の業務区分が追加されました。
「縫製」と「紡織製品製造」で受け入れ可能な産業分類は、どちらも「中分類11 繊維工業」であることは共通しています。しかし「縫製」で受入れた特定技能外国人は「縫製」区分の範囲内での業務をおこない、「紡織製品製造」で受入れた特定技能外国人は「紡織製品製造」区分の範囲内での業務をおこなうことになります。
「紡織製品製造」の情報については、こちらの「紡織製品製造業」での特定技能外国人受入れにて詳しく解説しています。
ここからは「縫製」に関わる情報について詳しく見ていきましょう。
「縫製」の受入れ開始時期
2024年9月30日に「上乗せ基準告示等」が改正され、同日から運用開始となりました。
つまり「縫製」の受入れについても、2024年9月30日から開始されています。
「縫製」で受入れ可能な産業分類
先ほど触れましたが、「縫製」として1号特定技能外国人を受け入れられるのは、日本標準産業分類上の分類で「中分類 11-繊維工業」をおこなっている事業所のみとされています。
「中分類 11-繊維工業」の詳細については、後ほど詳しく解説します。
「縫製」で特定技能外国人が従事できる業務
それでは「縫製」で特定技能外国人が従事できる業務についても見ていきましょう。
概要としては、「指導者の指示を理解し、又は自らの判断により、縫製工程の作業に従事」するものとされています。
ここでいう縫製工程の作業例は次のとおりです。
- 婦人子供服製造
- 紳士服製造
- 下着類製造
- 寝具製作
- 帆布製品製造
- 布はく縫製
- 座席シート縫製
また、縫製工程の作業以外に、これら業務に従事する日本人が通常従事する関連業務については、付随的に従事しても構わないとされています。
たとえば原材料・部品の調達・搬送作業であったり、前後工程の作業・清掃作業・保守管理作業に従事しても差し支えありません。
ただし、あくまでも「付随的な従事」である必要があり、専ら関連業務に従事することは認められません。
「縫製」で特定技能1号を受入れるための所属機関側の要件
「縫製」で特定技能1号を受入れるための所属機関側の要件としては、次の2つが定められています。
- 協議会へ入会していること
- 「縫製」独自の上乗せ基準を満たしていること
それぞれ詳しく解説します。
協議会への入会
特定技能所属機関が特定技能1号を受入れるためには、各分野ごとの『協議会（受入れ協議・連絡会）』の構成員にならなければなりません。
ほとんどの分野では、出入国在留管理庁へ在留申請した後、特定技能の在留資格が許可され、特定技能外国人の受入れ後4か月以内に協議会へ加入すればよいとされています。
しかし工業製品製造業分野の場合、在留申請をする前に協議会の構成員となっていなければなりません。そのため工業製品製造業分野の「縫製」区分で特定技能1号を受入れるためには、事前に協議会に入会します。
そして先述したとおり、「縫製」で特定技能1号を受入れられるのは、日本標準産業分類上の「中分類 11-繊維工業」に該当する事業所です。
「中分類 11-繊維工業」に含まれる細分類一覧
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これらに該当する製品を製造している事業所であれば、入会するための基本的な要件は満たしています。
独自の上乗せ基準
縫製区分を含む繊維工業で特定技能1号を受入れるためには、下記4つの「独自の上乗せ基準」も満たさなければなりません。
- 国際的な人権基準に適合し事業を行っている
- 勤怠管理の電子化
- パートナーシップ構築宣言
- 給与を月給制とする
それぞれの基準について、詳しく解説します。
国際的な人権基準に適合し事業を行っている
「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」を満たす条件は次のとおりです。
- 「GOTS」「OEKO-TEX STeP」「Bluesign」「Global Recycled Standard (GRS)」「日本アパレルソーイング工業組合連合会-取引行動規範ガイドライン」いずれかを取得している
- 申請時点で上記認証・監査の有効期限が３か月以上残っている
- 上記認証・監査を受入れ事業所で取得している
有効期限についても定めがあるため、申請前に確認する必要があります。
勤怠管理の電子化
「勤怠管理の電子化」の条件は次のとおりです。
- 別添2の掲載システムのいずれかを導入している、またはシステム要件を満たす仕組み（自社開発システムなど）を導入している
- 上記が受入れ事業所で活用されている
自社開発システムを用いて電子化することも可能ですが、⼿作業を介さずPC・クラウドに打刻データが送信されるなどの条件を満たす必要があります。
パートナーシップ構築宣言
「パートナーシップ構築宣言」とは、事業者が「サプライチェーン全体の付加価値向上」「大企業と中小企業の共存共栄」を目指し、発注者側の立場で、代表権のある者の名前で公表する宣言です。
受入れ条件を満たすためには、この宣言が「中小企業庁が依頼する団体が運営するポータルサイト」に掲載される必要があります。
なお、この宣言は企業単位のものであるため、特定技能外国人を受入れる事業所単位でなくとも構いません。
宣言文については、公式ホームページの「記載要領」を参考に作成します。
給与を月給制とする
給与を月給制とすることも条件の一つです。
月給制としているかどうかについては、規定の誓約書を「受入れ企業の代表者名」で提出した後に審査されます。
誓約する内容は次のとおりです。
特定技能外国人との雇用契約について、月給制（「１ヶ月単位で算定される額」 （基本給、毎月固定的に支払われる手当 及び残業代の合計）で報酬が支給される方式）とし、同等の業務に従事する日本人労働者の報酬の額と同等以上の報酬 を安定的に支払い、技能の習熟に応じて昇給を行うこと。
「縫製」での外国人側の要件
「縫製」区分で業務に従事するためには、外国人側も要件を満たさなければなりません。
下記いずれかの条件を満たすと、特定技能1号として従事できます。
- 特定技能1号評価試験及び日本語試験に合格するパターン
- 技能実習2号を良好に修了したパターン
それぞれ詳しく解説します。
特定技能1号評価試験及び日本語試験に合格するパターン
1つ目のパターンは、「特定技能1号評価試験」と「日本語試験」に合格することです。
特定技能1号評価試験は「学科試験」と「実技試験」に分かれており、「縫製」を含む新規7区分の試験は2025年2月から実施される予定です。
| 学科試験 | 実技試験 | |
|---|---|---|
| 概要 | 正誤問題
問題文の内容が正しいか間違っているか選ぶ |
実際の作業工程や材料に関連する内容を読んで、正しい答えを選ぶ |
| 合否基準 | 正答率65％以上 | 正答率60％以上 |
| 試験時間 | 学科試験・実技試験あわせて80分 | |
日本語試験については、下記いずれかの結果が求められます。
- 国際交流基金 日本語基礎テストの合格
- 日本語能力試験 N4以上の取得
日本語試験では「ある程度の日常会話が可能で生活に支障がないこと」「業務上必要な日本語能力があること」を判断されます。
なお、製造業分野やそれ以外の職種・作業で技能実習2号を良好に修了している場合、日本語試験は免除されることもポイントです。
技能実習2号を良好に修了したパターン
後述する職種・作業で「技能実習2号」を良好に修了した場合は、上記で挙げた試験に合格せずとも「特定技能1号」の在留資格を取得できます。
技能実習とは、外国人が日本の技術を持ち帰り、母国の発展に役立ててもらうための制度です。1号（1年間）・2号（2年間）・3号（2年間）の3種類があり、合計5年間にわたって日本で技能習得を目指します。
技能実習にはさまざまな職種・作業がありますが、以下の職種・作業で技能実習2号を良好に修了した外国人については、「縫製」の特定技能1号評価試験と日本語試験が免除されます。
「縫製」区分へ試験免除等となる技能実習2号職種
| 職種 | 作業 |
|---|---|
| 婦人子供服製造 | 婦人子供既製服縫製 |
| 紳士服製造 | 紳士既製服製造 |
| 下着類製造 | 下着類製造 |
| 寝具製作 | 寝具製作 |
| 帆布製品製造 | 帆布製品製造 |
| 布はく縫製 | ワイシャツ製造 |
| 座席シート縫製 | 自動車シート縫製 |
上記の職種・作業を良好に終了していれば、特定技能の工業製品製造業「縫製」へ移行できます。
特定技能、工業製品製造業分野では、同一の業務区分の中であれば、複数の業務を行うことができます。
たとえば「婦人子供服製造」で技能実習2号を良好に修了した外国人が、特定技能1号「縫製」に移行すると、技能実習とは異なり、婦人子供服に限定されることなく「紳士服」「下着類」「布はく」などの縫製業務を実施できるのです。従事できる幅が広がることは、大きなメリットだといえるでしょう。
記事前半でも触れたとおり、「縫製」で受入れた特定技能外国人は従事できるのは、「縫製」区分の範囲内のみです。 同じ繊維工業であるものの、「縫製」区分で受け入れた特定技能外国人が「紡織製品製造」区分の業務に従事することはできません。
「技能実習2号」を修了してさえいれば、その職種・作業にかかわらず「特定技能1号」へ移行できると思っている方もいますが、これは間違いです。
上記で紹介したように、「特定技能の分野や業務区分」ごと、試験が免除される「技能実習の職種・作業」が決まっています。
1号特定技能評価試験が免除されるのは、決められた職種・作業で技能実習2号を修了した場合のみです。
まとめ
「縫製」分野でも1号特定技能外国人の受入れが可能となり、特定技能を活用できる事業者さんはますます増えていくと考えられます。
2024年9月30日の「上乗せ基準告示等」改正を経て、すでに運用がスタートしている制度であるため、「縫製」分野で新たに特定技能1号の受入れを検討している事業者さんは準備を進めていきましょう。
また、技能実習生を特定技能外国人として継続受け入れしたい事業者さんも、特定技能としての受入れ要件を満たしているかどうか確認してみてください。
執筆者：行政書士 小澤道明（東京都行政書士会所属 登録番号：第16080367）
