技能実習制度は廃止されるのか【2022年11月24日の日経新聞記事の解説】

2022年11 月24の日本経済新聞に、自民党の古川禎久司法制度調査会長へのインタビュー記事が掲載されました。

インタビューの中で、古川氏は技能実習制度や特定技能制度の今後について言及しています。

この件について、特定技能に精通した行政書士が解説します。

古川禎久司法制度調査会長のインタビュー

まず、技能実習制度の現状について、古川氏は以下のように答えています。

「1993年に導入した技能実習制度は本来、外国人への日本の技術の供与や教育が目的だった。しかし実際は多くの企業が労働力確保のために使っている」

「目的が建前になった面が多くないか。日本として受入れる際にしっかりと処遇する制度へ改めなくてはならない」

日本経済新聞記事から引用(以下の引用も同様)

以上の発言から読み取れるのは、

・現在の技能実習制度には問題がある。

・今後は制度を改正する必要がある。

ということです。

では、具体的にどのように改正するのでしょうか。

この点についても古川氏は言及しています。

「2019年に始めた特定技能制度は日本として初めて正面から外国人労働者の受入れを認めたといえる。2つの精度を一本化し、技能実習は廃止することが選択肢になる

技能実習制度を廃止して、技能実習制度と特定技能制度を1つの制度に統合する、という意味です。

「技能実習制度は日本語や技能が未熟な人にとっての入門編の役割を果たしてきた。これからは『技能実習0号』のような新しい位置付けを設けるのも一案になる」

技能実習制度を廃止してしまうと、技能が未熟な外国人労働者が、初めて日本に来る際の受け皿がなくなってしまう。だから、技能実習の代わりに、「特定技能0号」のような新しい在留資格(ビザ)を作るのもいいかもしれない、ということです。

現在、特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」が存在します。

どちらの場合も技能試験等に合格することが必要です。

一方で、技能実習になるためには試験に合格することは不要で、比較的簡単に日本で働くことができます。

なので、技能実習制度を廃止してしまうと、入門編としての受け皿が無くなってしまう。かといっていきなり「特定技能1号」の試験に合格するのはハードルが高いかもしれない。だから「1号」の前段階として「0号」を新たに創設するのはどうか、と言っているわけです。

技能実習制度と特定技能制度の今後

技能実習制度が廃止されて特定技能に一本化するのか。

それとも技能実習制度は存続して特定技能との二本柱でいくのか。

これらを決定する要因は何でしょうか。

それを考えるためには、日本政府がどういう理屈で意思決定しているかを理解する必要があります。

制度改正をおこなうのは日本政府です。日本政府はどういった場合に制度を変えるか考えてみましょう。

今までの例で見ると、何か問題が起こった時に、政府は法律や制度を改正しています。

また、社会からの批判が大きくなったことに対して、対応をしています。

例えば、技能実習に対する問題や批判が大きくなった結果として、平成28年に「技能実習法」が新たに作られました。

また、強制労働に対する国際情勢も技能実習制度に影響を与えます。

例えば、欧州連合(EU)の欧州委員会は、2022年9月15日に、「強制労働により生産された製品の欧州域内での流通を禁止する規則案」を発表しました。

このように、国際情勢では、強制労働に対する姿勢が厳しくなっています。

日本の技能実習制度も、海外からは強制労働であると指摘されていることから考えると、今後ますます批判が大きくなる可能性があります。

 

では、なぜ、政府はすぐにでも技能実習制度を廃止しないのでしょうか。

問題や批判を嫌う一方で、政府には「外国人労働力を確保したい」と考えています。

日本人労働力だけでは日本の産業は回らず、このままでは産業が衰える一方だからです。

外国人材を労働力として受入れるために、2019年に「特定技能」の制度が創設されましたが、特定技能外国人の人数は、思ったほど増えていません。

そして、今でも技能実習制度を活用する事業者は多くいます。

だから、特定技能外国人の人数が足りていない状況で、技能実習を廃止してしまうと、労働力を確保する手段が一つ減り、結果的に労働力の確保が困難になるおそれがあるのです。

 

また、政府は各業界の業界団体の意向も無視できません。

つまり、一方では問題のある制度を廃止または改善したい(技能実習制度を廃止したい)という思惑があり、

もう一方では外国人労働力を確保したい(技能実習制度を存続させたい)という思惑がある。

この2つの間で揺れているということです。

あちらを立てればこちらが立たない。お互いに矛盾する選択肢がある場合、どうするでしょうか。

どちらもが、それなりに成立する落としどころを探すのではないでしょうか。

つまり、技能実習制度の今後は、両者の中間的なところに落ち着くことが予想されます。

 

以上、古川司法制度調査会長から、今後の技能実習生度や特定技能制度について考察してきました。

以上は、あくまでも「検討」の段階であり「決定」ではありません。

今後様々な議論がおこなわれて具体的な事項が決定することでしょう。

しかし、制度の見直しや改正自体は近い将来、実施されると思われます。

技能実習生や特定技能外国人を受入れている事業者さんは、今のうちから将来の改正に備えて、今のうちから準備をしておくと良いでしょう。

執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367号)

 

 

 

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