私たちの生活を支えてくれる乗用車、タクシー、バス、トラック等は、安全な走行が不可欠です。
この安全な走行を実現してくれているのが、自動車整備士等の車の整備や修理を担ってくださっている方々です。
しかし日本国内ではこの自動車整備士等の人材確保が難しくなっており、自動車整備分野は、2019年に設立された特定技能制度の対象となりました。
そこで特定技能外国人の受入れサポートの実績を持つ入管業務の専門行政書士が、特定技能「自動車整備分野」で外国人が従事できる業務内容や実務上の注意点について、ポイントを絞って解説いたします。
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特定技能「自動車整備」分野で、外国人が従事できる業務は?
特定技能外国人の雇用を検討されている事業者にとって、特定技能外国人ができる業務の範囲は気になる点の一つだと思います。
現に、特定技能外国人が従事できる業務の内容についてのご質問はとても多いです。
そこでまずは、自動車整備分野で特定技能外国人が従事できる業務についてご説明いたします。
自動車整備の仕事とは
まずそもそも自動車整備の仕事ですが、自動車の故障や事故を未然に防止するために、自動車に不具合がないかを確認して必要に応じて整備や分解、組立等を行ったり、また自動車の不具合や故障、事故にあった自動車の整備や修理を行うのが主な業務です。
特定技能外国人が従事できる業務
自動車分野で働く特定技能外国人も、このような一般的な自動車の整備や修理等に従事することができます。
具体的には以下の3つの点検・分解整備になりますが、これが特定技能外国人が従事できるメイン業務の内容となります。
日常点検整備
日常点検は、道路運送車両法に定められており、日ごろ自動車を運転している人が車に乗る度にすることが義務付けられている点検です。
例えば、エンジンルームの確認(ブレーキ液、冷却水、エンジン・オイルの量等の確認)、車のまわりの確認(ランプの点灯、タイヤの点検等)、運転席の確認(エンジンのかかり具合や異音の有無、ブレーキの利き具合、ワイパーの状況等)です。
定期点検整備
定期点検整備も、日常点検と同様に道路運送車両法に基づく法定点検整備になります。
日常点検は車に乗る都度する必要がありますが、定期点検整備は一定間隔ごとに行う、少し大掛かりな点検整備になります。
車種・用途によって定期点検整備を行う時期や点検項目数が異なってきますが、例えば、スタリング装置、ブレーキ装置、走行装置、電気装置、エンジン、サスペンション等の点検を行い、摩耗や損傷といった不具合がないかを、この定期点検整備でチェックします。
このような定期点検整備も特定技能外国人がおこなうことができます。
分解整備
分解整備とは、エンジン、ブレーキ、ギアボックス等重要部品を取り外して行う整備又は改造です。つまり自動車の安全性や環境保全につながる部分の整備になります。
これは、先ほどの日常点検整備や定期点検整備に比べて高度な技術が求められます。
このような分解整備作業に関しても特定技能外国人は従事することができます。
関連する業務にも従事可能
特定技能外国人は、今ご説明した日常点検整備、定期点検整備、分解整備といった業務にしか従事できないわけではありません。
これらの点検・分解整備は、特定技能外国人の本来業務となりますが以下のような関連業務にも従事することができます。
- 整備内容の説明や関連部品の販売
- 部品番号検索・部内発注作業
- 車枠車体の整備調整作業
- ナビ・ETC等の電装品の取付作業
- 自動車板金塗装作業
- 洗車作業
- 下廻り塗装作業
- 車内清掃作業
- 構内清掃作業
- 部品等運搬作業
- 設備機器等清掃作業
- 納車作業
以上は関連業務の一例です。上記の関連業務以外にも、日本人の自動車整備士が通常おこなう関連業務であれば、特定技能外国人も「付随的に」におこなうことができます。
もっとも、「付随的に」というのがポイントです。特定技能外国人が従事できる本来業務はあくまでも点検・分解整備です。本来業務をおこなった上で関連業務をおこなうことができます。本来業務を一切おこなわずに関連業務だけに従事することはできません。
とはいえ、関連業務は多岐にわたるので本来業務を主としながらであれば非常に幅広い業務に従事することができます。
自動車整備業の業者さんは、一般的に業務範囲が広いことが多いので、関連業務への従事が認められる特定技能制度は、安心して活用できる実践的な制度と言えるでしょう。
以上が従事できる業務についての概要ですが、次によくある質問を例に挙げて、より具体的な内容を説明いたします。
オートバイ(自動二輪車)の整備は特定技能の対象になるか?
整備工場の中には、オートバイ(自動二輪車)の点検整備をおこなっている事業所があります。そのようなところで特定技能外国人が普通自動車ではなく自動二輪車の点検・整備をすることは可能かどうか、という質問を受けます。
結論から言うと、オートバイ(自動二輪)の整備は特定技能の対象になります。
ただし、その整備工場が自動二輪車を対象とした整備事業を行うための「認証」を地方運輸局長より受けている必要があります。つまり特定技能外国人が働く場所が「認証工場」である必要があります。(認証工場については、後ほど「受入れ側の要件」の項目で詳しくご説明します)
つまり、自動二輪車を対象として含む「認証工場」であれば、特定技能外国人を受入れ、自動二輪車の点検・整備に従事させることは可能です。
ナビ・ETC等の電装品の取付け作業に従事できるか?
近年、車には欠かせなくなったナビやETCですが、これらの電装品の取付けを特定技能外国人にさせることができるか、という質問もよく受けます。
ナビやETC等の電装品の取付け作業も特定技能「自動車整備」の対象業務になります。
ただし条件があります。ナビやETC等の電装品の取り付けは、「関連業務」として位置づけられています。したがって本来業務である点検・整備業務に関連する業務として付随的に従事する場合にのみ、ナビやETC等の電装品の取付け作業が認められます。
納車をさせることはできるか?
例えば、車検などで引き取り納車サービスを提供している事業所もあると思いますが、この納車を特定技能外国人にさせることができるかどうか、という質問です。
納車業務も特定技能「自動車整備」の対象業務になります。
ただし、前述の電装品の取付け作業と同様に、納車は「関連業務」としての位置づけです。したがって本来業務をおこなったうえで付随的に従事する場合にのみ認められます。
もっとも、「納車」業務をおこなうためには通常は道路(公道)の走行が必要です。法律上「道路」とみなされる場所では運転免許が必要となりますので、特定技能外国人に納車をさせる場合には、日本で通用する運転免許を保有していることの確認をおこなってください。
これらの業務を任せられる特定外国人とは?
自動車整備分野での特定技能外国人ができる仕事・業務内容について説明しましたが、ではそのような業務を行う特定技能外国人はどのような人なのか、つまり技術や知識、日本語能力はどの程度なのかという点が気になると思います。
この点について次に説明したいと思います。
特定技能外国人の技能レベル
自動車整備分野の特定技能外国人は、日常・定期点検整備及び分解整備を一人で実施できるレベル、つまり三級自動車整備士相当の技能を持っています。
特定技能外国人になるためには、所定の技能試験に合格している「試験ルート」と、自動車整備作業の技能実習2号を良好に修了している「技能実習ルート」の2種類があります。
「技能実習ルート」の場合は、すでに3年間自動車整備業の業務経験があり、特定技能に移行後すぐに即戦力として期待できます。
「試験ルート」の場合は、必ずしも業務経験があるとは限りませんが、3級自動車整備士と同程度の難易度である「自動車整備分野特定技能評価試験」に合格していますので、基礎的な知識はすでに修得しています。
この「自動車整備分野特定技能評価試験」では、タイヤの空気圧、灯火装置の点灯・点滅、ハンドルの操作具合及びホイールナットの緩み等の点検整備に加え、エンジン、ブレーキ等の重要部品を取り外して行う点検整備・改造を適切に行うことができるかなどを確認します。
また同時に業務上必要な日本語の能力についても評価されます。
技能実習2号修了者については、前述の通り3年間の業務経験がありますので、業務上必要な日本語についてはおおむね理解できる程度と評価されています。
どんな人が自動車整備分野の特定技能外国人になっているの?
三級自動車整備士相当の技能レベルを持つ外国人材ですが、令和3年9月末時点で466人の特定技能外国人が自動車整備分野で働いています。
このうち、約9割が技能実習2号修了者で残りの1割が所定の試験を合格した人になっています。
また国別でいうと約5割がフィリピン人、約4割がベトナム人となっています。
特定技能自動車整備の対象となる事業所
ここまで、特定技能自動車整備分野でおこなえる業務や人材像について説明してきましたが、特定技能で外国人を受入れるためには、事業者側にも要件があります。
特定技能外国人を雇用する側つまり受入機関のことを「特定技能所属機関」と言います。この特定技能所属機関になるにはいくつかの要件があります。
以下、自動車整備分野の特定技能所属機関に必要な要件についてご説明します。
特定技能所属機関の要件~「認証工場」であること~
自動車整備分野の受入側の要件として重要なのは、「道路運送車両法に基づく認証を受けた事業場であること」です。
具体的には、道路運送車両法第78条の認証を地方運輸局長から受けている自動車整備工場(以下、認証工場)である必要があります。
認証を受ける場合には、事業の種類や対象自動車の種類によって要件は異なってきますが、所定の①作業場面積、②設備基準、③要員基準を満たしている必要があります。
道路運送車両法第78条の認証を受けていない事業者は特定技能外国人の受入れができません。
まだ認証を受けていない場合はビザ申請前までに認証手続きを済ませておきましょう。
なお、自動車の分解整備や特定整備がおこなえる「認証工場」(道路運送車両法第78条)であればよく、車検を実施できる権限を付与された「指定工場」(道路運送車両法第94条の2)に指定されていることまでは要しません。
ガソリンスタンド、カー用品店、中古車販売店でも特定技能外国人の受入れは可能
では、ガソリンスタンドやカー用品店、中古車販売店でも特定技能外国人を雇用することはできるのでしょうか?
自動車整備というと「整備工場」が頭に浮かぶと思いますが、ガソリンスタンドやカー用品店等でも自動車の点検・整備のサービスを提供しているところがあります。
ここでも「認証工場」であるかどうかがポイントになります。
ガソリンスタンドやカー用品店、中古車販売店でも、前述の道路運送車両法に基づく「認証」を受けていれば、特定技能自動車整備の対象になり特定技能外国人を受入れられる可能性があります。
ただし、特定技能外国人がおこなう業務については注意が必要です。例えばガソリンスタンドですと、通常は給油や洗車、オイル交換、タイヤ交換などが主な業務としておこなわれていますが、特定技能外国人が従事する本来業務は日常・定期点検整備や分解整備業務です。
特定技能外国人が、関連業務として付随的に給油や洗車、オイル交換、タイヤ交換などに従事することはできますが、関連業務に従事する割合が本来業務に従事する割合を超えることはできません。
そう考えると、整備業務を主な業務とする事業者でないと現実的には特定技能外国人の受入れは難しいかもしれません。
しかし、自動車整備業の形態は多岐にわたるので、一見整備業務が主な業務でないように見えても実際は整備業務に該当する業務が多い場合もあります。まずは自社の業務が特定技能自動車整備の本来業務に該当するかどうか、確認することをお勧めします。
実際に雇用する時に注意しなければならない点は?
実際に特定技能外国人を雇用するにあたり、注意点がいくつかあります。
ここでは自動車整備分野に特化し、より重要なポイントについてご説明いたします。
普通自動車免許の有無について
自動車整備工求人の際に「普通自動車免許」を必須資格としている事業者が多いですが、外国人材の場合、自動車免許を持っていないことが多々あります。特に乗用車の整備を扱う事業者ではこの傾向があります。一方でトラック等の大型車の整備を主な業務とする事業者では自動車免許は必須ではないこともあります。
母国で自動車免許を持っている場合は、一定の条件を満たせば日本の自動車免許に変更できる場合がありますので活用すると良いでしょう。母国でも持っていない場合は、雇用後に取得することも検討する必要があります。
したがって特定技能外国人の雇用を検討する場合には、普通自動車の免許を持っていることを前提とはせず、持っていれば尚可、必要に応じて雇用後に日本で取得してもらう等、柔軟に対応するのが良いでしょう。
特定技能外国人の支援をする登録支援機関にも要件あり
特定技能外国人を雇用する際に、特定技能所属機関には特定技能外国人に対するいくつかの支援が義務付けれれています。
この支援は、自社で行うことも可能ですが、「登録支援機関」に委託することも可能です。
しかし「登録支援機関」に委託する場合には、、登録支援機関であればどこでもいいわけではなく、以下の要件を満たしている必要があります。
自動車整備実務経験者の配置
自動車整備分野での特定技能外国人を支援する登録支援機関には、自動車整備実務経験者がいることが要件となっています。
この自動車整備実務経験者とは、自動車整備士1級・2級の資格者か、自動車整備士養成施設において5年以上の指導に係る実務経験を持っている人です。
特定技能外国人の支援を登録支援機関に委託する場合には、委託しようとする登録支援機関にこのような人材が配置されているかを予め確認しておきましょう。
自動車整備分野特定技能協議会への加入
もう一つの要件として、自動車整備分野特定技能協議会の構成員になる必要があります。
特定技能所属機関は必ずこの協議会に加入し、構成員になる必要がありますが、登録支援機関も同様に必要になります。
加入のタイミングは、初めて自動車整備分野の特定技能外国人支援を行う場合には、特定技能外国人を受入れてから4か月以内となります。
そして加入後は、特定技能所属機関と同様に、協議会に対して必要な協力を行うことが求められています。
登録支援機関に外国人支援を委託する場合には、事前に要件を満たしているか確認しておきましょう。
おわりに
自動車整備分野で特定技能外国人を雇用する際のポイントをご説明しました。
整備士不足で困っている自動車整備事業所にとっては、特定技能外国人の雇用はメリットが大きいのではないでしょうか。
当事務所では、事業者様の個別の状況に応じて、最適な方法で特定技能外国人雇用のサポートを承っております。
特定技能「自動車整備分野」について要件調査、ビザ申請、支援委託、コンサル等のご依頼は、下記のお問い合わせフォーム(電話またはメール)からご連絡ください。
ここでは、自動車整備分野での特定技能外国人を雇用する際のポイントをお話ししましたが、もっと詳しく知りたい方は、「自動車整備分野における特定技能ビザ人材活用」のページもご参照ください。
執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367号)