建設業界では深刻な人材不足が続いており、何とか働き手を確保したいとお考えの事業者の方も多いと思います。
そんな折、特定技能制度について知ったものの、実際に雇用するとなるといろいろと気になる点が出てきて、どうしたものかと悩まれていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
そこで特定技能外国人の受入れサポートの実績を持つ入管業務の専門家行政書士が、特定技能「建設分野」で外国人が従事できる業務内容や実務上の注意点等について、ポイントを絞って解説いたします。
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特定技能「建設分野」で、特定技能外国人ができる仕事は?
まず建設業には様々な職種がありますが、職種に関係なく特定技能外国人を雇用できるのかどうか、という点についてご説明します。
雇用できる職種
実は、全ての職種において特定技能外国人を受入れることができるわけではなく、現時点では18の職種に限られています。
この18職種には、型枠施工、左官、コンクリート圧送、トンネル推進工、土木、屋根ふく、配管、とび、建設大工、といったものが含まれています。
ではなぜすべての職種が対象ではないのでしょうか?
建設分野での対象職種は、職種ごとにある専門工事団体の意向などを踏まえながら決定しています。現在対象外の職種は、特定技能外国人の要件を満たすための試験の準備や体制が整っていないなどの理由で対象になっていないようです。
したがって、現在対象となっていなくても将来的には対象職種として追加される可能性はあります。
具体的な仕事内容
特定技能外国人を受入れられる職種は決められていますが、その職種ごとに特定技能外国人に任せられる業務についても決められています。
いくつかの職種を例にご紹介しましょう。
型枠施工
「型枠施工」では、「指導者の指示・監督を受けながら、コンクリートを打ち込む型枠の製作、加工、組立て又は解体の作業に従事」することが想定されています。
例えば、基準墨出しや型枠組立用墨出し、型枠下ごしらえ・加工、型枠パネル製作、特殊型枠・型枠製作、型枠用足場・支保工足場組立て、等に従事してもらうことができます。
左官
続いて「左官」についてですが、「指導者の指示・監督を受けながら、墨出し作業、各種下地に応じた塗り作業(セメントモルタル、石膏プラスター、既調合モルタル、漆喰等)」に従事することが想定されています。
例えば、壁塗りや床塗り、コンクリート面金鏝の仕上げ、墨出し、等です。
とび
「とび」については、「指導者の指示・監督を受けながら、仮設の建築物、掘削、土止め及地業、躯体工事の組立て又は解体の作業」に従事することが想定されています。
例えば、足場の組立や解体作業、溝堀りや段堀りといった掘削工事作業、砂利敷地業などの地業作業、建築物の組立作業や解体作業、重量物の運搬作業、等が具体的な業務となります。
このように、職種ごとに特定技能外国人が従事できる業務内容については、出入国在留管理庁HPに掲載されている「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領‐建設分野の基準について‐」の別表に記載されていますので、ご確認ください。
建設業を営んでいればどこでも特定技能外国人を雇用できるの?
特定技能外国人ができる職種や具体的な業務の内容について説明しましたが、雇用する側の要件も気になると思います。
雇用する側に必要な主な要件ついてもご説明いたします。
建設業法第3条の許可
まず一つ目は、「建設業法第3条に基づく許可」を受けている必要があります。
建設業法第3条に基づく許可とは、いわゆる「建設業の許可」のことです。
軽微な建設工事(注1)を除き、建設工事の完成を請け負うことを営業するためには必要な許可となります。
これまでいわゆる「軽微な建設工事」のみを請け負って営業している事業者で特定技能外国人の雇用をしたい場合は、事前に都道府県知事等に許可申請を行う必要があります。
またすでに許可を得ている事業所でも有効期間を確認しておきましょう。建設業許可の有効期間は5年間です。
更新手続きの際に、必要な届出を提出していなかったなど要件を欠いていたりすると取り消しになったりすることもあります。特定技能外国人の雇用手続きへの影響も予想されますので、事前の確認・準備は念入りに。
(注1)「軽微な建設工事」とは、建築一式工事の場合は工事1件の請負代金の額が1,500万円未満の工事または述べ面積が150㎡未満の木造住宅工事、建築一式工事以外の建設工事の場合は工事1件の請負代金の額が500万円未満の工事をいいます。
建設技能人材機構(JAC)への加入
また特定技能外国人を受入れたい企業・事業所は、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)に直接的にもしくは間接的に加入していなければなりません。
「直接的に加入」というのは、JACの賛助会員になるということです。
もう一つの「間接的に加入」というのは、JACの正会員団体の会員になるということです。
これはどういうことかと言いますと、JACには39の建設業者団体が正会員団体として登録されています。
この正会員団体である39の建設業者団体のいずれかの団体の会員になっていれば、JACに「間接的に」加入しているとみなされます。
例えば、型枠施工の職種であれば、一般社団法人日本型枠工事業協会がJACの正会員団体となっています。したがって日本型枠工事協会に入会していれば、JACへの加入に関する要件を満たし、特定技能外国人の受入れが可能になります。
建設キャリアアップシステムへの登録
皆さんの事業所では、「建設キャリアアップシステム(CCUS)」をお使いでしょうか
このシステムは、建設分野での人材不足の深刻化を受け、何とかして建設業を将来支える優秀な担い手の確保・育成をしなければ、という背景があり作られました。
このシステムでは、技能者個人が持っている資格やそれまでの経験(就業履歴など)等の情報が蓄積されます。したがって技能者にとっては自身の経験や能力等を客観的に示すことができる一方、事業者側にとってもその技能者の持っている技能レベルや就業履歴を把握しやすくなります。
特定技能外国人を雇用したいと思っている事業所等はこのシステムへの登録も要件となっています。
これは事業者の登録のみならず、雇用する特定技能外国人の技能者の登録も必要となります。
建設業許可と同様に、後述する「建設特定技能受入れ計画」の認定を受ける際には、事業所の登録は完了していることが必要となります。
登録が完了するまでには、申請から1カ月程度かかるといわれています。
まだ登録されていない場合は、特定技能外国人の受け入れ準備期間に、この手続きに係る期間も加味しておきましょう。
雇用の際に注意しなければならない点は?
建設分野で特定技能外国人を雇用する場合、いくつか注意しなければならない点があります。
ここで建設分野特有の注意点についていくつかご説明いたします。
国土交通大臣による建設特定技能受入れ計画の認定
先ほどから何度か出てきている「建設特定技能受入れ計画」ですが、建設分野はこの受入れ計画を策定して、事前に認定を受ける必要があります。
これは低賃金や社会保険未加入といった処遇で労働者を雇用する等の劣悪な労働環境が確認されるような事業者等が受入れ団体にならないようにすること、また雇用者・被雇用者の双方が納得できる処遇を担保して、外国人技能者の失踪や不法就労を防止することなどを目的に、予め受入れ機関や受け入れる外国人を取り巻く環境に問題がないかという点の確認になります。
認定申請には色々と添付書類が必要となります。不備の内容に準備を進めましょう。
国内人材確保の取り組み
上述の「建設特定技能受入れ計画」には、「国内で人材確保の取り組みをしていますよ」、という点を示す必要があります。
なぜ国内での人材確保の取り組みをしているかという点がチェックされるかと言いますと、この特定技能外国人を受入れられるのは、「生産性向上や国内人材確保の取り組みを行ってもなお人材を確保することが困難な状況である」場合だからです。
つまり、「こんな取り組みをしたけどなかなか人材が確保されないから特定技能外国人の受入れが必要です」、という理由が必要ということです。
具体的には、ハローワークでの求人した際の求人票の提示や、また建設キャリアアップシステムに加入して積極的に運用していますよといったことを示していく必要があります。
受入れられる特定技能外国人の人数
建設分野の場合は、特定技能外国人は何人でも雇えるわけではありません。
特定技能外国人の総数とその他の外国人建設就労者の総数の合計が、受入れ企業・事業所の常勤職員の総数を超えてはいけないというルールがあります。
これは建設業の特徴として、一つの事業所だけで働くのではなく、様々な現場で働くことが必要であるため、支援を必要とする特定技能外国人を監督者が適切に指導し、育成するためには一定の常勤職員が必要、という考えから、人数制限が設けられています。
人材のリクルート
人材の確保についてですが、既に技能実習生を受け入れており、その技能実習生を引き続き特定技能外国人として雇用するのであれば問題ないのですが、イチからリクルートする場合には注意が必要です。
人材を探す際に有料職業紹介事業者等を通じて人材を紹介してもらうことをお考えかもしれませんが、建設分野で特定技能外国人を雇用する場合、有料職業紹介事業者からの紹介は受けれません。
ではどうやってリクルートすればよいのでしょうか?
それは、建設技能人材機構(JAC)が行っている無料職業紹介事業を利用しましょう。
JACでは特定技能外国人の求職者と特定技能外国人を雇用したい企業からの求人情報を取り扱っています。
したがって、イチから特定技能外国人を探す場合には、JACに求人申し込みをしましょう。手数料は一切かかりません。
おわりに
建設分野で特定技能外国人を雇用する場合のポイントをいくつかご説明しました。
特定技能の在留資格には「1号」と「2号」がありますが、「2号」の特定技能外国人の受け入れが認められているのは、建設分野と造船・舶用工業分野のみです。
「2号」の場合、「1号」のように在留期限の上限は設けられていませんので、長く働いてもらうことが期待できます。「2号」の場合は、建設現場において複数の建設技能者を指導しながら作業を行い、班長としての実務経験が必要になりますが、もし長く活躍してもらいたいと思う人材がいた場合には、「2号」への移行を視野に入れて、特定技能外国人のキャリアアップを計画的に進めていくとよいでしょう。
建設分野で特定技能外国人を雇用するには、他の分野に比べて事前準備に時間を要します。ただしいろいろと要件はあるものの、人材不足に悩んでいる事業所の皆様にとって特定技能外国人の雇用はメリットも多いのではないでしょうか。
当事務所では事業者様の個別の状況に応じて、最適な方法で特定技能外国人雇用のサポートを承っております。
特定技能建設分野についての要件調査、ビザ申請、支援委託、コンサル等のご依頼は下記のお問い合わせフォーム(電話またはメール)からご連絡ください。
ここでは、建設分野で特定技能外国人を雇用する際のポイントについてお話ししましたが、もっと詳しく知りたい方は、「建設分野における特定技能ビザ人材活用」のページもご参照ください。
執筆者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367号)