特定技能外国人を受入れた後、生活オリエンテーションをおこなうことが法令で義務付けられています。
この生活オリエンテーションは1号特定技能外国人が充分に理解できる言語でおこなう必要があり、内容についても充分に理解できるまでおこなう必要があります。
そして、充分に理解できるためには、少なくとも8時間以上生活オリエンテーションをおこなう必要があると、入管は考えています。
しかし、特定技能所属機関や登録支援機関からは、「8時間も案内する内容が無い」「8時間も何を案内すればいいかわからない」という声をよく聴きます。
そこで、ここでは、生活オリエンテーションの時間を短縮できる場合について、特定技能に特化した専門行政書士が、1問1答形式で回答します。
Q:生活オリエンテーションは、8時間以上おこなう必要があると聞きましたが、本当ですか?
A:ご質問ありがとうございます。生活オリエンテーションの実施時間についてですね。
基本的には本当です。外国人が特定技能の在留資格を得た後、特定技能所属機関や登録支援機関は、外国人が「十分にに理解できるまで」、生活オリエンテーションを実施する必要があります。
そして、「十分に理解する」ためには、少なくとも8時間以上の生活オリエンテーションをおこなうことが必要だと、入管は考えています。
ただし、8時間以上の生活オリエンテーションをおこなったとしても、特定技能外国人が「十分に理解」していなければ、生活オリエンテーションを「適切におこなった」ことにはなりません。
特定技能外国人が「十分に理解」することが重要なのであって、そのための時間的目安として「8時間以上」という基準が設けられているのです。
ここまでは大丈夫でしょうか。
このように、生活オリエンテーションを「適切におこなった」と認められるためには、原則として、最低でも8時間以上おこなう必要があります。
しかし、原則には例外があります。
状況によっては、8時間以上おこなわなくても、生活オリエンテーションを「適切におこなった」と認められる場合があります。
例えば、技能実習2号を良好に修了者や、留学ビザで在留していた外国人を、雇用していた受入れ機関が、引き続き彼らを特定技能として雇用する場合などは、4時間以上生活オリエンテーションをおこなえば足りる場合があります。
なぜなら、彼らは新たに日本に来る外国人材や勤務先が変わる人材に比べて、生活環境の変化が少ないので、オリエンテーションで案内する内容もある程度省略できるからです。
ただし、この場合でも、相談または苦情の対応者の連絡先や、緊急時の対応に必要な事項、外国人の法的保護に必要な事項などの必要な情報については、生活オリエンテーションで十分に理解させる必要があります。
このような、技能実習2号良好修了者や、留学ビザで在留していた外国人を、雇用していた受入れ機関が、引き続き彼らを特定技能として雇用する場合でも、生活オリエンテーションが4時間に満たない場合は、適切に生活オリエンテーションをおこなったとは認められません。
Q:どのような場合に、4時間以上の生活オリエンテーションで認められますか?
A:前述のように、同じ受け入れ機関が、特定技能として雇用する前に、技能実習2号や留学生として雇用してた場合などです。
技能実習2号や留学のビザから特定技能に変更する場合であっても、別の会社で働く場合は、原則通り8時間以上必要になる場合があります。
4時間で認められる場合についての明確な基準はありませんが、特定技能になる前と後で、生活環境に変化が無い場合と考えてください。
そして、生活環境に変化がない場合の例として、技能実習2号や留学生が引き続き同じ受け入れ機関で特定技能として働く場合があります。
Q:特定技能になる前と後の受入れ機関が同じでないと、4時間の生活オリエンテーションではだめなのでしょうか?
A:必ずしもそうとは限りません。
「生活環境に変化が無い」場合に、原則の8時間以上が4時間以上で可となります。
ですので、生活環境に変化が無いと認められるような場合であれば、同じ受入れ機関でなくても、4時間以上の生活オリエンテーションで適正と認められる場合もあります。
ただし、生活環境に変化が無いと認められる明確な基準や規定はありませんので、自分で勝手に判断することは避けた方が賢明です。
4時間の生活オリエンテーションで良いと思って実施したところ、後に入管から指導される場合もあります。
Q:指導だけ済むのなら問題ないのではないですか?
A:そうとは限りません。
生活オリエンテーションが適切におこなわれていない、と判断された場合、通常は指導が入ることが多いですが、悪質と判断された場合は、欠格事由に該当する場合もあります。
欠格事由に該当すると、今後の特定技能外国人の受入れが不可になるだけでなく、現在受入れ中の特定技能外国人の受入れもできなくなります。
また、別の論点として、生活オリエンテーションを適正におこなったかどうかは、特定技能外国人に問題が起こった時にも影響を与えます。
例えば、特定技能外国人が失踪してしまった場合、入管は受入れ状況や支援状況が適正におこなわれていたかを調査します。
その時に、生活オリエンテーションが適正におこなわれていなかった場合、適正な受入れ・支援がおこなわれていなかったと判断され、失踪が受入れ機関(特定技能所属機関)や登録支援機関の責任になることがあります。
ですので、自分の身を守るためにも、生活オリエンテーションは適正におこなうのがよいです。
Q:生活オリエンテーションは、ZOOMなどのリモートでおこなってもいいですか?
A:はい。生活オリエンテーションは、TV電話の方法でおこなっても問題ありません。
もっと言えば、DVDなどの動画を特定技能外国人に視聴させる方法でも可能です。
動画を視聴させるだけなら、案内の手間は大きく省けると思うかもしれません。
しかし、ここで注意しなくてはいけないのは、以下の点です。
生活オリエンテーションの実施中に、特定技能外国人から内容について質問があった場合、適切に応答できるようにコミュニケーションが取れる体制を整備する必要がある。
動画を視聴させるだけで、後はほったらかし、ではだめということです。
双方向でコミュニケーションが取れる体制を整備するようにしてください。
Q:複数名の特定技能外国人に対して、同時に生活オリエンテーションを実施してもいいですか?
A:はい。同時期に複数名を特定技能として雇用した場合などは、複数名に対して同時に生活オリエンテーションを実施しても構いません。
ただし(くどいようですが)、生活オリエンテーションの目的は特定技能外国人保護ですので、複数名同時におこなう場合でも、全員に対して必要な情報をしっかりと伝える必要があります。
Q:複数名に同時に生活オリエンテーションを実施した場合、時間の計算はどうなりますか?
A:その場合、生活オリエンテーションを実施した時間が、1名に対して実施した時間になります。
(全員に対して実施時間が適用されます)
例えば、10:00-18:00の8時間、同時に2名に対して生活オリエンテーションを実施したとします。(実際には休憩などを入れますが、便宜上10-18で説明します)
この場合、8時間÷2名(人数)=4時間 とはならず、2名とも8時間の生活オリエンテーションを実施したことになります。
以上、生活オリエンテーションについて1問1答形式で回答いたしました。
生活オリエンテーションは、特定技能外国人が日本で生活してゆくために大事な役割を果たしています。
特定技能所属機関にとっても、義務をしっかり履行しているかどうか判断される要素になる大事なものです。
生活オリエンテーションや、その後の支援を適正に実施して、外国人に長期的に就労してもらえる環境を作りましょう。
回答者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367号)