特定技能制度で特定技能外国人を雇用する場合は、雇用する外国人に対して、法令で定められた「支援」をおこなうことが義務づけられています。
この「支援」は法務省から登録を受けた「登録支援機関」に委託することができますが、受け入れる分野(特定産業分野)によっては登録支援機関側に一定の要件が求められます。
自動車整備分野で登録支援機関が支援委託を受ける場合は、登録支援機関は「自動車整備士1級または2級の資格を有する者または自動車整備士の養成施設において5年以上の指導に係る実務経験を有する者」(以下「自動車整備士等」と表記します)を置かなければなりません。(分野別運用要領)
ここではこの件について、特定技能を専門にする行政書士が1問1答形式で回答します。
Q:そもそも、なぜ自動車整備士等が登録支援機関に必要なんですか?
A:ご相談ありがとうございます。
「自動車整備業者に整備士が必要なのはわかるけど、どうして登録支援機関にも整備士がいなきゃいけないの?」と思いますよね。
理由を理解するための前提として、まずは「特定技能所属機関」と「登録支援機関」の違いを説明します。
「特定技能所属機関」というのは、特定技能外国人を雇用する会社のことです。「受入機関」と呼ぶこともあります。
(正式名称は「特定技能所属機関」なんですが、簡単に「受入機関」と言う人もいます。どちらも同じ意味です。)
そして「登録支援機関」とは、特定技能所属機関に雇用されている外国人を「支援」する会社(または個人)です。
ここまでは大丈夫でしょうか。
そして、特定技能外国人を雇用する場合は、雇用主である「特定技能所属機関」に様々な要件が求められます。
例えば自動車整備分野の場合、特定技能所属機関は地方運輸局長から認証を受けた「認証工場」である必要があります。
この認証工場になるためには「自動車整備士2級以上」の人材を1名以上置く必要があります。
つまり、自動車整備分野の特定技能所属機関機関には、自動車整備士2級以上の人材が在籍していることになります。
自動車整備の会社に自動車整備士が必要なのは自然なことです。
しかし、特定技能制度では、「特定技能所属機関」だけでなく「登録支援機関」にも自動車整備士等が在席していることが必要です。
特定技能所属機関に自動車整備士等が必要なのはわかりますが、なぜ登録支援機関にも自動車整備士等が必要なのでしょうか。
特定技能所属機関から支援を委託された「登録支援機関」は、特定技能外国人に対して、「職業生活上、日常生活上または社会生活上の支援」をおこなう必要があります。
このうち「職業生活上」の支援をおこなうためには、特定技能所属機関に在籍している自動車整備士と同水準の知識を持つ人材が登録支援機関に在籍している必要がある、という考え方です。
わかりやすく言うと、「自動車整備の仕事をしている外国人の支援をするためには、支援する側にも自動車整備の専門的な知識が必要だよね。」ということです。
このような理由で、登録支援機関に自動車整備士等が在籍していることが求められています。
「特定技能所属機関」とか「登録支援機関」とか、聞きなれない言葉が多いのでわかりにくいですが、要するに、雇用主の会社も支援する会社も両方ともに自動車整備士等が必要ですよ、と理解してください。
Q:実際に、自動車整備士等が在籍している登録支援機関はありますか?
それとも自動車整備分野では雇用主である特定技能所属機関が自ら支援をおこなうケースが多いのでしょうか?
A :登録支援機関は、できるだけ多くの分野で支援委託契約を結びたいと考えますので、自動車整備士等を確保したいと検討しているところも多いようです。
しかし全体的に見ると、実際に自動車整備士等が在籍している登録支援機関はまだ少ないのが現状です。
Q:登録支援機関が自動車整備士等を確保する場合、常勤の正社員である必要がありますか?非常勤や業務委託等でも認められますか?
A:非常勤でも認められるかどうかは、特定技能ビザ申請の提出先である地方出入国在留管理局が個別に判断することになります。
もっとも、法令には雇用形態や常勤・非常勤の区別についての定めはありませんので、原則として非常勤でも認められます。
この原稿を書いている2022年2月時点では、東京出入国在留管理局をはじめ多くの地方出入国在留管理局が、非常勤での在籍を認めています。
しかし、入管の運用は変更されることがありますし、個別のケースによっても状況は異なりますので、申請前に入管に確認することをお勧めします。
Q:登録支援機関に在籍している自動車整備士等の、具体的な業務は何ですか?
A:登録支援機関に在籍している自動車整備士等の具体的な業務については、法令に定めはありません。定められているのは「自動車整備士等が在籍していること」だけです。
ですので、在籍している自動車整備士等にどんな業務を担当させるかは、登録支援機関の裁量にゆだねられています。
Q:登録支援機関がおこなう特定技能外国人との「定期的な面談」に、自動車整備士等は同席する必要はありますか?
A:先程の回答と同様です。登録支援機関に在籍している自動車整備士等の具体的な業務については、法令に定められていないので、自動車整備士等が「定期的な面談」に同席するかどうかは、登録支援機関の判断になります。
しかし、制度の趣旨から考えて、自動車整備士等が同席した方が「職業生活上」の相談に詳しく応じることができますので、同席することが望ましいでしょう。
Q:登録支援機関が自動車整備士等を確保していることは、どのような方法で証明する必要がありますか?
A:特定技能外国人を雇用する時には、事前に地方出入国在留管理局に対してビザ申請(在留資格変更許可申請、在留資格認定証明書交付申請等)をおこない許可を得る必要があります。
このビザ申請の際に、申請書類と一緒に以下の資料を提出する必要があります。
外国人の支援をおこなう者(注)について、以下の①または②の資料のいずれかの提出が必要です。
①自動車整備士技能検定1級又は2級の合格証の写し ②実務経験証明書
(注)支援責任者、支援担当者などの外国人の支援をおこなう者
出典:出入国在留管理庁 特定技能 提出資料一覧表 第3表の6
以上が、出入国在留管理庁のホームページに掲載されている「提出書類一覧・確認表」に書いてある必須資料です。
実務運用上では、上記の資料の他に、在職証明書などの、当該自動車整備士等が在籍していることを証明する資料の提出が求められる場合があります。
要求が来てから準備すると余分に時間がかかるので、ビザ申請時に一緒に提出した方がよいでしょう。
Q:自動車整備分野で特定技能外国人を受入れたいのですが、企業規模が小さいので自社で支援をおこなうことは難しいです。
特定技能外国人を受け入れることができるのは、支援体制が整っている大企業だけだと感じています。もっと中小企業でも特定技能外国人を受入れやすくなる対策などはないのでしょうか?
A:特定技能制度の趣旨は、「深刻な人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受入れる」こと、です。人手不足が深刻な中小企業が制度を利用できないのでは制度の意味がありません。
大企業だけが特定技能外国人を受入れ、中小企業が受入れできないような状況が認められた場合は、各関係省庁が対策を検討することになっています。
Q:その他、自動車整備分野で特定技能外国人を受入れる際の注意点はありますか?
A:特定技能制度では特定技能所属機関は、関係省庁が主催する「協議会」に加入する必要があります。これは自動車整備分野に限ったことではなく、特定技能全分野で共通の義務です。
しかし自動車整備分野では、特定技能所属機関だけでなく、登録支援機関もこの「協議会」に加入する必要があります。
(登録支援機関に支援の全部を委託する場合)自動車整備分野における協議会の名称は「自動車整備分野特定技能協議会」です。
以上、自動車整備分野で登録支援機関に支援委託する場合の注意点について1問1答形式で回答いたしました。
特定技能外国人の雇用を検討されている方の一助になれば幸いです。
回答者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)(登録支援機関登録番号:19登-000994)