技能実習ビザと違って特定技能ビザの場合は、ビザ取得後、他の就労ビザ(「技術・人文知識・国際業務」等)に変更ができることはよく知られています。
例えば、日本の専門学校や大学を卒業した外国人が、卒業後に特定技能ビザで就職して、その後「技術・人文知識・国際業務」ビザに変更するケースなどがあります。
では、技能実習で実習をしていた外国人が、技能実習修了後に特定技能に移行した場合でも、他の就労ビザに変更することは可能なのでしょうか?
この点について、受入機関からご質問をいただくことが非常に多いです。
今回は、技能実習で在留していた外国人が、他の就労ビザへの変更することの可否について、特定技能制度の業務経験が豊富な行政書士が回答します。
Q:元技能実習生が、技能実習修了後に特定技能に移行した場合、他の就労ビザに変更することはできますか?(建設業O社)
A:O社さん、ご相談ありがとうございます。技能実習→特定技能→他の就労ビザに変更ができるか、というご質問ですね。
この質問に回答する前に、まずは技能実習ビザについて簡単にご説明します。
技能実習制度の目的は、「技能実習を通じて、日本の技能、技術または知識を開発途上地域等に移転することにより国際協力を推進すること」です。(長いので、ここでは省略して「技能移転」と言います。)
わかりやすく言うと、「日本で学んだ技能、技術、知識を母国に持ち帰って母国の発展に役立ててください。」ということです。
技能実習の期間は1号(1年)、2号(2年)を合わせて3年間、3号までおこなった場合でも合計5年間と期間が限定されています。技能移転が目的なので、期間終了後は日本に残らずに母国に帰国して技能移転をおこなうことが前提になっています。
ですので、技能実習中、または技能実習修了後に他の就労ビザへの変更を認めてしまうと、母国に帰国しないで(技能移転しないで)そのまま日本で就労することが可能になってしまいます。
なので、技能実習ビザから他のビザへの変更は原則として認められていません。
制度に詳しい人だと、ここまで読んで、矛盾を感じるかもしれません。
「弊社では技能実習を3年間修了した後に、母国に帰国しないで特定技能に変更した外国人がいる。他のビザへの変更を認めていないのなら、なぜ特定技能に変更できるのか?」
すでに技能実習生や特定技能の受入経験がある方なら、このように思われるかもしれません。
確かに矛盾しています。
これは、特定技能に限っては、母国に帰国しなくても技能実習からそのまま変更していいよ、という例外的措置です。
特定技能だけが例外であって、原則は技能実習ビザから他の就労ビザへの変更はできません。
もっとも、これは技能実習修了後に母国に帰国せずにそのまま他の就労ビザに変更しようとする場合です。
技能実習修了後に、一度母国に帰国して技能移転をおこない、その後あらためて他の就労ビザの在留資格認定証明書交付申請をおこなえば、再び日本に来ることは可能です。
実際に、技能実習修了後に母国に帰国して、一定期間母国の会社で就労して技能移転して、その後「技術・人文知識・国際業務」等のビザで日本に来ているケースはたくさんあります。
技能実習で在留中または修了後に(技能移転をおこなわずに)、他のビザに変更をすることだけが禁止されているのです。
長くなりましたが、ここまでが技能実習ビザについての説明です。
これに対して、特定技能は制度の目的が技能移転ではないので、もともと他のビザへの変更が認められています。
例えば、日本の専門学校や大学を卒業した外国人が、卒業後に特定技能ビザで就職して、その後「技術・人文知識・国際業務」ビザに変更するケースなどが実際にあります。
これと同じ考え方でいけば、技能実習→特定技能→他のビザ、の流れなら変更が可能なように思えます。
しかし、これはできません。
特定技能ビザ自体は他のビザへの変更が可能ですが、特定技能になる前のビザが技能実習であった場合(母国への帰国をしていない場合)、現在のビザが特定技能ビザであっても、他の就労ビザへの変更は認められていません。
つまり、現在のビザが特定技能であっても、特定技能になる前のビザが技能実習であった場合(母国への帰国をしていない場合)は、実質的に技能実習からの変更と判断されて、母国に帰国したうえで技能移転をおこなうことが必要になります。
以上が、「技能実習→特定技能→他のビザに変更」についての入管の原則的な運用です。
しかし、この原則にも例外的措置があります。
一定の要件を満たしていれば、母国に帰国しなくても、「技能実習→特定技能→他のビザに変更」が認められる場合があります。
一定の要件とは、以下の通りです。
技能実習から他の就労資格に変更が認められるための要件 | |
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A
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技能実習制度の趣旨に反していないことの確認
「技能移転」の方法について,例えば技能実習生のうち特に優秀だった者が,所 屈していた監理団体や実習実施者において,技能実習によって修得した技能等を活 用して,在籍する技能実習生を指導等する業務に従事することや,技能実習生の入 国後の講習などの場において,技能実習により修得した技能等に関する構師を務め ることなどの活動は,技能実習制度の趣旨に沿うものであると認められる。 このことから,申請に係る活動が,原則として以下の要件の全てを洪たしている場合は,技能実習制度の趣旨に合致しているものとして個別に判断する。 |
(a)契約機関等の事業内容が,監理団体や実習実施者などの技能実習生の受入れに関するものであること。 | |
(b)技能実習時に修得した技能等について,本国からの技能実習生に対する指導等を行い,申請人が技能移転等,母国の経済発展の貢献に資する活動を行うものと 認められること。 | |
(c)中請人がN2相当以上の日本語能力を有すると認められること。 | |
(d)就業場所における技能実習生の在籍数等からみて,十分な業務恨が確保されていると認められ,技能実習生と同様の作業を行うものではないことが明らかであ ること。 | |
(e)申聞人が技能実習計画上の到達目標を達成していること。 | |
B |
技能実習に係る申請時の申告内容が変更されたことの確認
技能実習に係る申請時には,本国での復職予定等を申告しているところ,技能実 習から他の在留没格への変更申請に及ぶ場合等,これら当初申告していた予定が変 更されたことになるが,その理由を説明させ,当初の入国目的を偽ったものではな いと認められる楊合は,申詰内容の信びょう性に疑義があるとは評価しない。 例えば,当初は予定どおり帰国し復職するつもりであったが,所屈機関からの勧 誘により,本邦において就職し,技能実習に係る業務に従事することとなった等の 経緯を確認する。 |
以上が要件なんですが、この説明ではわかりにくいですよね。
具体的に説明します。
例えば以下のようなケースの場合が上記要件に該当します。
A社で技能実習生としてBの作業を実習していたCさんが、技能実習修了後に同じA社で他の技能実習生たちに対してBの作業に関する指導業務をおこなう。
※Cさんには日本語能力試験(JLPT)N2相当以上の日本語能力があることが必要です。
上記要件を満たしていれば、技能実習から特定技能に移行した外国人が、母国に帰国することなく「技術・人文知識・国際業務」等の就労ビザに変更することが可能です。
もっとも、上記要件の他にも、学歴要件等、変更したい在留資格自体の要件を満たしていることが必要ですので、雇用しようとしている外国人が要件を満たしているかどうか、事前に確認してください。
以上、技能実習で在留していた外国人が特定技能に移行した後、他の就労ビザに変更する方法について回答いたしました。
現実的には上記要件に該当するケースは少ないので、該当しない場合で将来特定技能から他の就労ビザへの変更を予定している場合は、技能実習修了後に一度母国に帰国して技能移転をおこなった後、特定技能の在留資格認定証明書交付申請をおこなうことも検討すると良いでしょう。
この場合、継続して勤務できない空白期間ができることになりますが、後々ビザが不許可になるリスクを考えれば現実的な選択かもしれません。
回答者:行政書士 小澤道明(東京都行政書士会所属 登録番号:第16080367)